原油価格高騰で金融危機再来の兆候…震源地はサウジか、米国金融当局の動きに注視

藤 和彦
上席研究員

米WTI原油先物価格は6カ月ぶりの高値で推移している(1バレル=65~66ドル台)。4月22日、米国政府がイラン産原油の禁輸措置に関する適用除外措置を5月1日に撤廃することを決定したことで、世界の原油供給が逼迫するとの懸念が生じたためである。日量250万バレル超だったイランの原油輸出量は、今年4月には同100万バレル前後に減少しているが、その量は世界の原油供給量の1%に相当する。

米国の決定後、イラン革命防衛隊は「対抗措置として重要な原油の輸送ルートであるホルムズ海峡の封鎖も辞さない」考えを表明するなど、中東地域の地政学リスクは早くも高まっているが、最悪のシナリオはイラン政府が2015年7月の核合意(核兵器に転用できる高濃縮ウランやプルトニウムを15年間生産しないことなど)を破棄することである。イランが核合意を破棄し核開発を再び加速させれば、イランを安全保障上の脅威とみなしているサウジアラビアが黙っていないからである。

ムハンマド皇太子が率いるサウジアラビア政府は、脱石油依存経済とともにエネルギー源の多様化を図ろうとしているが、その目玉は原子力開発である。サウジアラビア政府は2018年11月に初の研究用原子炉を建設するプロジェクトを始動させていたが、今年4月首都リヤド近郊に建設されている研究用原子炉の工事の進捗が予想以上に速いペースで進んでいることが明らかになった(4月7日付CNN)。

原子炉の立地場所選定については仏企業が協力している(日本原子力産業協会調べ)が、米国や中国などが裏で援助している可能性もある。研究用原子炉の完成後には民生用の原子炉2基を建設する計画があり、発注先として米ウェスチングハウスを始め、中国、ロシア、フランス、韓国の企業が候補に挙がっている。

建設中の研究用原子炉は技術者の訓練を目的とした小規模な装置だが、国際原子力機関(IAEA)は4月6日サウジアラビアに対して、「今年末までに稼働開始予定の原子炉に供給される核燃料が軍事目的に転用されることを回避するため、包括的保措置協定をIAEAとの間で締結する必要がある」と警告を発した。核兵器不拡散条約(NPT)締結国である非核兵器保有国は、NPT第3条に基づき包括的保障措置協定を締結することが定められており、締結国は核物資や原子力施設に関する情報の提供、査察の受け入れ等の義務を負うことになっている。日本は1977年に締結し、核疑惑のイランもすでに締結済みだが、サウジアラビアはNPT加盟国であるにもかかわらず包括的保障措置協定を締結していない。

サウジアラビア政府は原子炉建設について平和目的を繰り返し強調しているが、原子炉の建設に加え、燃料となる濃縮ウランを国内で製造する許可を求めていることも疑念を生じさせる要因となっている。昨年3月、米テレビのインタビューで「イランが核兵器を開発すれば、サウジアラビアもただちにあとを追う」と発言したムハンマド皇太子は、「イランに負けじ」と原子力開発に邁進することは間違いない。

長期金利5%もあり得る

包括的保障措置協定を締結せずにサウジアラビアが原子炉を稼働させれば、NPT体制にとって大打撃となるだけではなく、サウジアラビア(原油輸出量は日量700万バレル)が国際社会から孤立する懸念が高まる。「イランの7倍の輸出量を誇るサウジアラビア産原油が調達できなくなる」との思惑から原油価格は100ドルを超えることが予想される。

米国の長期金利は現在2.5%程度だが、原油価格が100ドル前後だった2007年の例にならえば、長期金利は5%に跳ね上がってもなんらおかしくない。

長期金利が高騰して真っ先に困るのは、ゾンビ企業(過去3年間、利払いを利益で賄えない状態に陥っている企業)である。国際決済銀行(BIS)の昨年9月のレポートによれば、データが入手可能な14カ国の上場企業の12%が今やゾンビ企業となっているが、ゾンビ企業を支えているのは「イージーマネー」の存在である。その端的な例が、格付けは低いが高利回りの「ジャンク債」や「レバレッジド・ローン」である。

ジャンク債の規模は欧米全体で4兆ドルとなり、過去10年間で4倍となった。レバレッジド・ローンの規模も米国だけで1兆ドルを上回り、過去6年間で2倍となっている。ジャンク債やレバレッジド・ローンの市場の暴落を恐れて、米国の金融当局は利上げの停止やバランスシート縮小の早期終了など政策転換を図りつつあるが、原油価格が高騰すれば再び金融引き締めを余儀なくされ、イージーマネーを絶たれたゾンビ企業の大量倒産が起こることは想像にかたくない。

昨年12月28日付けコラムで「原油安が金融危機の引き金となる」と書いたが、極端な原油高も金融危機の引き金になってしまうのではないだろうか。

ニュースサイトで読む: https://biz-journal.jp/2019/04/post_27688.html
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2019年4月27日 Business Journalに掲載

2019年5月7日掲載

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