死者数が出生数の3倍へ…日本、未曾有の多死社会でQOD(死の質)向上が国家的課題に

藤 和彦
上席研究員

2019年3月20日、国連は2019年版「世界幸福度報告書」を公表した。それによれば、日本の順位は58位となり、昨年に比べ4つ順位を下げた。国連は7年前から以下に示す6つの指標に基づき、世界150以上の国や地域の「幸福度」をランキングしている。

(1)1人当たりGDP
(2)社会的支援の有無(困ったときにいつでも助けてくれる親族や友人はいるか)
(3)健康寿命(健康を最優先しているか)
(4)人生選択の自由度(自分の生き方を自由に選択し満足しているか)
(5)寛容さ(過去1カ月間に慈善事業に寄付した金額はいくらか)
(6)汚職(政府やビジネス界の汚職はないか)

以上の質問内容から、この調査結果は「幸せな気分か」というよりも「有意義な人生を送っているか」を聞いている要素が強いことがわかる。「信頼できる社会制度があれば幸せな人生が送ることができる」と考えれば、社会保障が充実している北欧が上位を占めることがうなずける(フィンランドが2年連続で1位、2位はデンマーク、3位はノルウェー)。

「国連の画一的な指標では日本人の人生の充実度は測ることはできない」との批判があるが、本拙稿では東アジア・東南アジアで1位となった台湾(昨年26位から25位へ上昇)と日本との比較から今後の日本の課題を見ていきたい。

「QOD(死の質)」

台湾は日本と同様(1)の1人当たりGDPや(3)の健康寿命が高いが、日本と異なるのは(4)の自由度が高いことである。その理由について「言論の自由」などが挙げられているが、筆者は高齢化に対する台湾の取組みにそのヒントがあると考えている。

台湾は2018年に高齢化率(人口に占める65歳以上の高齢者の割合)が14%に達し、「高齢社会」に突入した。高齢化率が21%を超える「超高齢社会」は8年後に到来する見込みである。日本が「高齢社会」から「超高齢社会」への移行に要した年数が11年であることに鑑みれば、日本を上回る速いペースで高齢化が進んでいるのである。

高齢社会の次にやってくるのは「多死社会」である。

欧米では20年以上前から「QOL(生活の質)」に加えて「QOD(死の質)」が議論されている。英国のエコノミスト誌は2010年と2015年と2度にわたりQODに関する国別のランキングを公表している。「緩和ケアのための環境」「人材」「費用」「ケアの質」「地域社会との関わり」という5項目の質と量を調査し、終末期医療の整備状況を数値化している(2回とも1位は英国だった)。

注目すべきは2015年の調査でアジアから台湾だけがベストテン入り(6位)したことであるが、その背景にはQODに関する取り組みが早くから実施されていたことがある。台湾では「安寧緩和医療条例」が2000年に成立したことにより、終末期医療を患者が自らの意志で選択できるようになったが、同時にスピリチュアル・ペイン(終末期患者の実存的な悩み)への対処も始まった。

欧米ではチャプレンと称する聖職者(牧師、神父等)が終末期患者のケアに当たっているが、アジアでこの取り組みがもっとも進んでいるのが台湾である。経験を積んだ僧侶(臨床宗教師)が病棟や自宅で医療者と協力して「看取り」に当たるのが日常となっている。このような観点から、台湾では死に方を含めた自分の生き方を自由に選択し満足している割合が多いといえるのではないだろうか。

多死社会日本で国民の幸福度を上げるために

これに対し日本では政府が2013年に初めてQODを高める医療のあり方を考えていく必要性を示したが、前途遼遠である。臨床宗教師については2018年9月現在159名が認定されているが、台湾と異なり医療機関との連携が不足しているなどの問題点が指摘されている。

高齢化率が28%に達した日本は未曾有の多死社会を迎えつつある。2018年の死者数は137万人となり、団塊世代がすべて後期高齢者入りする2025年に150万人を超え、2040年にピークに達する(168万人)との予測がある。2018年の死者数は出生数(92万人)の1.5倍となったが、今後この比率が3倍にまで拡大する可能性がある。

日本では今後、人生前半期の選択の自由度以上に人生後半期の選択の自由度が、国民の幸福度に大きな影響を与える可能性が高いのである。高齢者の死者数の9割以上を占め、がんや老衰などで亡くなるという「長く緩慢な死」が大宗を占めるようになったが、このことは自らの裁量で「死」をプロデュースできる時代になったことをも意味する。

「望ましい死」という概念を掲げて、かつての日本の「看取り」の文化の復活に努めている団体(一般社団法人日本看取り士会)も出てきているが、多死社会日本で国民の幸福度を上げるためには、国を挙げてQODを高めることが不可欠ではないだろうか。

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2019年4月10日 Business Journalに掲載

2019年4月17日掲載

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