DXの思考法とスタートアップ:「DXの思考法」セミナーシリーズ総集編

開催日 2023年3月29日
スピーカー 津田 広和(RIETIコンサルティングフェロー / 財務省主計局デジタル係主査)/栗田 亮(金融庁総合政策局 リスク分析総括課金融仲介業室・電子決済等代行業室 総括課長補佐)/板垣 和夏(経済産業省大臣官房Web3.0政策推進室 課長補佐)/常田 俊太郎(株式会社ユートニック 代表取締役)/村井 すみれ(株式会社PoliPoli Employee Experienceマネージャー)/濱田 太陽(株式会社アラヤ シニアリサーチャー)
コメンテータ 西山 圭太(東京大学未来ビジョン研究センター客員教授 / 元経済産業省商務情報政策局長)
モデレータ 池田 陽子(RIETIコンサルティングフェロー / 内閣官房新しい資本主義実現本部事務局 企画官(スタートアップ担当))
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開催案内/講演概要

2021年から始まった「DXの思考法」セミナーシリーズでは、DX(デジタルトランスフォーメーション)時代の新たな政策の在り方について、経済、金融、通商、教育、人事・組織などさまざまな分野から意欲的な提案がなされた。本セミナーでは、DXの最前線で未来を開拓している若手6名の講師を招き、各省庁での変革とスタートアップとしての社会変革の視座を共有した。業種のまったく異なる6名のショートプレゼンテーションとディスカッションを通じ、縦割りの社会構造を打破した先にある世界観、さらには今後社会に起こる変化が示唆された。最後に『DXの思考法日本経済復活への最強戦略』(文藝春秋)の著者であり、元・経済産業省商務情報政策局長の西山圭太氏から、全体総括と省内外の若い世代へのエールを得て、セミナーシリーズを完結した。

議事録

池田:
「DXの思考法」セミナーシリーズは、西山さんのベストセラー本『DXの思考法』にインスパイアされて始まった企画です。そのメッセージは「DXが進めば縦割りの産業構造が打破されて産業のレイヤー化が進む」「そうすると、分野や業種に関係なく誰でも使えるプラットフォーム、そして、それを作り出すプラットフォーマーになることが重要」というものです。本日は、西山さんに加え、霞が関とスタートアップの、まったく異なる分野・業種でご活躍の6名にお集まりいただいています。『DXの思考法』では、物事の共通点やパターンを見出すことも重要とされています。すべての地平はつながり、世界は連関しているわけですので、皆さんのお話から、縦割り打破の先にある世界観、そして社会の中で現に起こりつつある決定的な変化の兆しをぜひ感じ取っていただければ幸いです。

津田:
財務省でのDXは始まったばかりですが、財務省再生プロジェクトの中で、半公式・半有志による取り組みを進めています。また、PolicyGarageというNPO法人を立ち上げており、このプラットフォームを通じてナッジ、EBPM、デザイン思考といった手法を自治体などに実装し、社会変革を進めています。目指すのは、政策のみならず、個々の人間の意識が変わり、それにより所属する組織も変えていくことです。この流れを自治体から全国に広げたいと思います。

今はデジタル係主査としてデジタル予算を担当していますが、日本の将来を長期的に見たとき、やはり一流のエンジニアをデジタルの世界で育てていくことが重要です。行政人材との連携も含めしっかり進めていきたいと思います。

栗田:
日本の伝統的な金融機関は顧客サービスを「全部自分で抱える」という発想でしたが、今は顧客接点のところが切り出される変化が起きています。例えば、eコマースなどで、金融機関はその裏側に回って後ろからショッピングに埋め込む形で金融サービスを提供する例です。こうした変化に合わせ、金融規制も見直しが進んでいます。それが機能別横断法制で、今までの規制は、銀行、証券、保険と業態別に分かれていたのが、今はさまざまな業態を網羅し仲介するレイヤーが1層あり、そこに対して規制をかけていく形になりました。

顧客接点を持ちデータの収集などを担う仕組みが、産業の中に定着していくのであれば、金融機関としては、こうした仕組みに顧客接点を委ねて自らの強みに注力していくことが、デジタル社会への適応としては本筋と考えられます。「DXの思考法」を根本にそうした発想が金融業界にできるかを問いかけていきたいと思います。

板垣:
ブロックチェーン技術に基づくWeb3.0政策では、起業家等の海外流出に直面しており、その背景には、ビットコインを念頭に置いて設計された法制度が、イーサリアム等の新たなレイヤー構造が生まれてきた際に実態と乖離するという制度疲労の問題があります。

経済産業省では、規制や税制、会計監査やブロックチェーン技術の発展のための取り組みを包括的に進めていますが、政策プロセスの在り方には「DXの思考法」的な見直しが必要だと思っています。Web3.0の世界は本当に動きが速いので、日本のように大陸法の国は対応が遅れがちです。いかにアジャイルに政策を進められるのかが重要になってくると思います。

スタートアップの視点

村井:
株式会社PoliPoliは「新しい政治・行政の仕組みを作りつづけることで、世界中の人々の幸せな暮らしに貢献する」ことをミッションとして掲げるスタートアップ企業です。有識者や問題を抱える当事者と政策担当者をプラットフォームでつなげることによって、さまざまなステークホルダーが参画した体系的な政策作りに取り組んでいます。政治、行政のDXというと「手続きのDX」に焦点が当てられがちですが、弊社では政策の立案・推進のプロセスの属人性を下げていくようなDXを目指しています。政策マネジメントサイクルの中でも、特に政策立案と政策評価のサポートを、議員の方や行政機関向けに提供しています。

これまでの多くが属人的であった領域に、はじめからプラットフォームだけで代替してもらうことは難しいため、コンサルティングサービスも並行して取り組んでいます。 皆さんの生活の根幹となる政策の作り方自体をアップデートする時代がきていると思います。

濱田:
今データの基盤、サイエンスの基盤が大きく変わってきています。分散型科学(DeSci: Decentralized Science)という言葉がありますが、これは分散型技術でオープンサイエンスの課題解決を目指すものです。少し例を示すと、「データや知的財産権(IP)を扱うレイヤー」と「個人がそのデータを扱うレイヤー」、「AIや自律分散型組織」という3つのレイヤーが存在する中で、データ入手が困難になっています。この課題解決のために新たな実務組織が求められるのですが、それがブロックチェーンを基盤とした組織、自律分散型組織(DAO)になります。そこを介すればデータを抽出することができる仕組みです。

もう1つの流れは「分散型IDによる、個人のデータ管理」。自己主権型アイデンティティーともいわれますが、ターゲティング広告のように個人のデータが吸い上げられ、企業がそれに対して広告するのではなく、違う在り方を目指そうという流れです。こうした世界観ができ始めているので、日本でも知っておいた方がいいだろうと思います。

複雑なシステムに共通点を見いだす

西山:
DXは、ビジネスの在り方の変化と分かち難く結び付いていると改めて実感しました。デジタル化が進んだ現在、何か課題を解こうとすると、自分の所属する課など、小集団の範疇内では絶対に完結しません。必ず他の課、部門などと次々に関係していきます。すると、一見、課題が非常に複雑になっているようにも見えますが、その課題の解き方、複雑性に対処しようとするやり方は、実は共通しているものが多い。それを体現しているのがデジタル技術です。今回の皆さんのお話にも共通するものがあります。

そして、これは「気づきの問題」であることを強調したいです。気づかないと世の中は複雑なままですが、見方をがらりと変えれば、実は私のしていることも隣の人がしていることも、スタートアップがしていることも、手法としては似ているから、お互い勉強すれば良い効果があると思えるはずです。皆さんが挑戦したことは、成功もうまくいかないことも含め、皆さんの経験値になります。若い方へのメッセージは、気づきを得て正しく考えていけば、どんな分野のどんな政策でも必ず深い意味が生まれるということです。皆さんのそれぞれの職場で「DXの思考法」を生かして挑戦していただきたいと思います。

質疑応答

Q:

DXに抵抗感を持つ大人に「DXの思考法」を理解してもらうにはどうしたらいいでしょうか。

西山:

DXを仕事ととらえると、仕事での知見に基づいた思考しかできなくなります。仕事とDXを切り離して、個人の生活者、消費者としての視点を持って臨むことが重要でしょう。例えば、料理などにあてはめて理解してもいいと思います。

村井:

組織の比較的若手の方へまずアプローチして、組織全体に浸透させていくことを意識しています。弊社のサービスでは、コンサルティングで信頼を構築して、デジタル技術に対する抵抗感を軽減しています。

Q:

複雑かつあいまいな階層構造のメタ認知とAIは、どのような形で共存が可能なのでしょうか。

西山:

実は、階層構造でメタ認知をしているのがAIで、コンピュータやAIの構造と、人間あるいは生命体の構造が同じようになっているのではないかというメタ認知が、階層構造で、人間とAIとの共通項を明らかにします。逆に、共存をある種の役割分担・違いととらえるなら、今のところAIには身体性がないので、自動走行など、物理的な存在にひもづいた認知や動きが不得意です。この領域は、人間が担った方がいいでしょう。

Q:

最後に一言ずつ、若い世代、これからの社会を作っていく世代の方への元気の出るメッセージをお願いします。

津田:

財務省という非常に伝統的・保守的な組織でも、変わらないといけないという危機感が浸透しており、動きも出ています。若い人材には、DXを先導する機会がますます与えられやすくなってくると思います。

栗田:

現場の連携の構造を見ながら、ジャングルのようにこの世界をとらえて自由に自分の感性で進んでほしいです。そうすると幅広い分野で、さまざまな人や組織とのつながりができると思います。

板垣:

社会を変えるのは難しいことだと思いますが、元気な仲間とつながれる、その過程自体を楽しめるということもあります。危機に直面した後に国が大きく成長したケースも過去に多数あるので、そういう変化を私たちの時代で起こしていくことが求められるのではないかと思います。

村井:

若い世代の1人として、自分がどこに身を置くかはすごく大切だなと思っています。周囲の空気が、ある程度自分のマインドを決める部分があるからです。今日集まった皆さんのように、一緒にいると希望が生まれてくるような仲間と出会ってほしいと思います。

濱田:

多様な能力ある人々が協力する領域が増えていると感じています。若い人たちがとても精力的に動いていて、すでに世界でも頭角を現しつつあります。日本人もどんどん世界に飛び出していける時代だと思っているので、ぜひ皆さんも突き進んでいってほしいと思います。

過去の西山氏によるBBLセミナーDXシリーズはこちら

DXの思考法(2021年9月10日)
https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/21091001.html

DXの思考法と教育の未来(2022年3月4日)
https://www.rieti.go.jp/jp/events/bbl/22030401.html

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。