【ベンチャー・シリーズ第5回】日本におけるクラウドソーシングの活用事例と今後の課題

開催日 2014年8月6日
スピーカー 秋好 陽介 (ランサーズ株式会社代表取締役社長CEO)/湯田 健一郎 (株式会社パソナテックマネージャー)
モデレータ 俣野 敏道 (経済産業省大臣官房広報室室長補佐)
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開催案内/講演概要

2014年は雇用、働き方に大きな変化が求められている年です。
迫り来る大介護時代や育児期のワーク・ライフバランス確保、企業の国際競争力維持、新産業や雇用創出等の幅広い問題に対し、ICT活用によって多様な働き方が議論されています。
今回のBBLセミナーでは、急成長する国内のクラウドソーシングの最新動向や、企業の導入事例、また今後の課題について考えていきます。

議事録

なぜランサーズを始めたのか

秋好 陽介写真秋好氏:
「時間と場所にとらわれない働きかたをつくる」というビジョンのもと、2008年4月に日本発のクラウドソーシング「ランサーズ」を創業しました。現在の会員数は36.6万人、9万1000社もの企業様にご利用いただき、流通金額も日本で初めて300億を突破しました。

学生時代、インターネットの可能性に衝撃を受け、フリーランサー(学生ベンチャー)としてウェブ制作といったインターネットビジネスを経験。面会したことがない人とでも、ネットを通じて仕事ができる喜びや無限の可能性を知りました。

2005年に大手ネット企業であるニフティに新卒入社し、約30のサービスをディレクターとして担当しました。ディレクターとして外部企業への多くの発注を経験する中で、学生ベンチャー時にお世話になった優秀なフリーランスの方々に発注したいと思っても、稟議がなかなか通らない状況でした。そこで、個人と企業を結びつけるサービスを思いついたわけです。

2008年4月に2人で会社を設立すると、同年12月にサービスを立ち上げました。クラウドソーシングは日本では初めてでしたが、海外では、すでに1998年から始まっているビジネスです。20年弱遅れて、日本でも、個人が非対面で企業から仕事を受注する本格的なサービスが登場したことになります。

クラウドソーシングの黎明期から成長期

クラウドソーシングとは、インターネットを通じて不特定多数の人(crowd:群衆)に業務をアウトソーシングすることで、クラウドコンピューティングのクラウド(cloud:雲)とは異なります。一般的には、クライアント企業がオンライン上のプラットフォームに業務を依頼し、そこから個人が受注するわけですが、取引に必要な決済やメッセージのやりとり、案件の登録機能といったプラットフォームの機能をランサーズが提供しています。

クライアントのメリットとして、群衆にアウトソースすることで、集合知による解決、流動的なリソース(コストとスピードの柔軟性)を得ることができます。一方、フリーランスのメリットとしては、個人の価値観に合った働き方が可能となり、地方にいながらにして東京や大都市の企業から業務を受注することができます。クラウドソーシング市場は2011年頃から拡大し、ランサーズは日本最大のプラットフォームとなりました。テレワーク協会会長賞を受賞するなど、メディアにも多数取り上げられています。

現在、日本最多となる約36万人の登録内訳は、フリーランス53%、副業・兼業22%、主婦12%、小規模法人10%、学生1%、その他2%となっています。年齢別では、30代39.7%、20代31.0%、40代20.0%、50代6.5%、60代1.6%、といった状況です。

ランサーズには141種の仕事カテゴリーがあり、プロジェクト(開発・ウェブ制作・翻訳など、依頼に対して見積もり・提案を受け付け、その中からフリーランスを選出)、コンペ(デザイン案や企画、課題解決などのアイデアを広く集め、多数の提案の中から採用)、タスク(ライティングやデータ入力、アンケート調査など、分断した作業を多数のフリーランスに依頼)という3つの依頼方法があります。

課題解決手段としてのクラウドソーシング

企業と個人を取り巻く環境は、激しく変化しています。企業の周辺では、工業化社会からのシフト、グローバルでの競争激化、産業寿命の短期化が進み、フレキシブルに対応できる柔軟な組織が求められています。個人においては、2020年の正社員比率は50%を切るといわれ、少子高齢化に伴い労働人口は減少していきます。オープンな人的資源の活用が求められる中で、日本でもオンラインランサー(ランサーズ会員)のクラウドソーシングが課題を解決する可能性があります。

当社では、ランサーの「個」のスキルを見える化するため、個人情報・機密保持契約締結の有無、クライアント企業のコメント、過去の実績、クライアント企業からの評価などを閲覧できるようにしています。また、個人では受け切れない大型案件や、デザインからコーディングをまたぐようなウェブ制作案件などを、チームとして受託・制作する「マイチーム」を立ち上げ、半年で登録数は500%の成長を見せるとともに、今後も伸びていくと考えています。

クラウドソーシングの広がり

湯田 健一郎写真湯田氏:
パソナは1976年2月に設立され、育児を終えてもう一度働きたいと願う主婦に働く場を提供したいとの思いから、人材派遣をスタートしました。現在では、主婦層・女性をはじめ、シニア・団塊世代、フリーター・若年層など、さまざまな層に対して就労支援を展開しています。

クラウドソーシングは、ウェブ上で個人などに業務委託するビジネスフレームで、日本の市場規模は2013年の246億円から、2017年には1400億円まで拡大することが推計されています(矢野経済研究所2013.10.10)。

グローバルの市場予測は、2013年に3000億円、2015年には1兆円になるといわれており(Elance VP“CrowdSourcing Week”講演より)、すでに多くのクラウドソーシングサービスが活用されています。

日本でもワークスタイルの変革がいわれて久しいわけですが、労働力人口は2050年に3000万人減少する見込みです。しかし現在、まだ労働に供されていない時間は日本にもたくさんあります。主婦や介護をしている方が、まさにそうだと思います。

リクルートによると、2015年の正社員比率は45.2%に低下する見込みで、働き方の多様化は必須となっています。従来の就職活動だけでなく、「就職しない生き方」という本がベストセラーになるなど、若者の価値観の多様化や、子育て・介護と両立できる働き方が着目されています。また企業の視点では、BCP(事業継続計画)という意味でも、東日本大震災を経て就業体制の柔軟化が進んでいます。

なぜ企業の利用が増えているのか

企業では、業務のアウトソーシングが加速しています。アウトソーシングは従来、業務センター運営やCRMサポートといった大規模な業務が中心でしたが、近年、チラシ作成やデータ入力、情報収集といった業務のアウトソーシングも増えてきました。小規模、非定型、スピードに対応できるアウトソーシングが求められています。

2012年10月に労働者派遣法が改正され、1カ月未満の仕事は業務委託されるケースが増えてきました。クライアントには、依頼に手間をかけず、適切な価格でいい人に仕事を頼みたいというニーズがあります。そしてワーカーには、時間や場所に縛られずに自分の能力を生かしたいというニーズがあり、これにフィットしたのがクラウドソーシングだと考えられます。

当社のクラウドソーシングサービスJob-Hubは、ウェブ上で仕事の依頼、契約、報酬支払まで、ワンストップで対応できるオンラインサービスです。クラウドソーシングに適しているのは、多くの人からリソース、ノウハウ、アイデアをもらいたい業務です。ホームページ作成やアプリ開発、翻訳といった専門職に依頼したいもの、データ入力やアンケートといった単純作業を早く終わらせたいもの、ロゴ制作やデザインといったアイデアが欲しいものなどです。

中小企業では、事業拡大に向けた利用が増加しており、具体的には、営業ツール作成、顧客へのメールサポート、システム開発/回収などが多くなっています。さらに今後、2020年の東京オリンピックに向けて、限定商品デザインやアイコン制作、多言語サイト化、サービスアプリ、アイデア募集といった活用シーンのイメージが広がるところです。

活用例として、ある広告制作会社では、ウェブ上に60名のワーカーを抱え、DTP制作やデータ収集・分析、施工作業のオンラインチームを形成しています。また、大手システム開発会社では、動画制作やアプリ開発、翻訳といった業務をプライベートクラウドソーシングとして利用しています。オンラインマニュアルの制作や共同受注のプラットフォームとして利用している企業もあります。自治体では、横浜市が公民連携のプラットフォームとして利用しています。

今後の広がりにはサポートが必要

当社で2年間サービスを続けてきて感じていることとして、まず、依頼をうまく書けるクライアント企業は多くありません。ディレクションのできる方でないと、クラウドソーシングをうまく使いこなすのは難しい状況があります。

計画の進捗をどのように管理すればいいのか。問題が発生したときに、どう対処すればいいのか。そういった課題に対し、当社のようなエージェントサポートが進めば、日本でのクラウドソーシングの活用が広がると思っています。一般的なクラウドソーシングの広がりとともに、個人のスクリーニング代行、ワーカーとのエンゲージメントといったエージェントのサポートが求められています。

自由な働き方はクラウドソーシングだけに留まらず、在宅雇用のような働き方や正社員登用にもつながり、労働時間や労働雇用を広げるという点で、アベノミクスの労働政策にも呼応するものと考えています。

従来の会社と人を結びつける「雇用」という粒度は、企業からみると1人当たり300~400万円かかる人件費が大きな階段となっていました。しかし、クラウドソーシングを利用することによって階段が低くなり、企業が試しに利用してみたら、1人雇用したほうがいいとなれば、雇用の創出につながります。そのためにITの力を使って、タレントとタスクを結びつける「Job」という粒度に下げているわけです。また、1人でやるには限界がありますから、チームをつくって仕事ができるように、サービスを展開していきたいと思っています。

質疑応答

Q:

これまでのトラブルや問題事例について、うかがいたいと思います。

秋好氏:

オンライン、オフラインとも、業務のトラブル率は意外と変わらないと考えています。具体的には納期遅れや、クライアントの期待したクオリティに沿っていないなど、現実の世界で起こっているビジネストラブルと同様な内容が多いです。ランサーズでは、よくあるトラブルはルール化し、プラットフォームの機能に組み込むことで、このトラブルを最小限にできるよう対策を多く打っています。たとえば、ランサーと連絡がとれなくなると自動的に催促する機能もその1つです。それでも起きるトラブルは、ランサーズが両者の間に入って仲介し、サポートを行っています。

湯田氏:

まず、業務委託と雇用の切り分けができるクライアントは、ほぼいません。そのため常時、サポートのJob-Hubデスクが監視し、労働者性のある依頼は一旦非公開にします。そしてクライアントに確認し、内容や文脈の修正を求めるサービスがあります。それがないと、成功報酬制のバイヤー募集といった依頼も発生してしまいます。やはりクライアント企業に1つ1つ慣れていただくことが必要だと思っているところです。

また、たとえばホームページ制作などで、業務の仕様が契約時よりも増えていくケースがあります。そこで対策として、10万円の案件であれば、仕様を決める時点で1万円、デザイン提示で2万円、最終的な納品時に7万円支払うなど、フェーズを区切って契約することを勧めています。またJob-Hubでは、クライアントからの業務指示はメッセージ欄でやりとりをすることにしています。何か問題が起きた場合、契約書とそのコミュニケーションの記録をもとに仲裁を行うためです。

Q:

正規雇用を目指す人々にとって、どのような成功事例があるでしょうか。また、自発的に仕事に就きたがらない人々には、クラウドソーシングはどのようにマッチしていくとお考えですか。

秋好氏:

当社の会員数は36万人ですが、7~8割は地方に住んでいます。クライアント企業は東京が7割程度を占めますので、物理的に非対面で行っているケースが多いため、正社員の雇用契約につながるパターンはそれほど多くないかもしれません。しかし、継続的に仕事を受けている方は、とても多くいらっしゃいます。

湯田氏:

正規雇用に結びつくケースは増えています。Job-Hubでの実績を選考の際に持参し、採用されています。クラウドソーシングで実績を作った人たちがステップアップできる側面や、企業から依頼する業務量が増えることで正社員として採用されるケースもあります。自発的に仕事に就きたがらない人々への就業解決策として、自治体などから相談されることもあります。現時点では推進施策まではいっていませんが、病気や怪我などで通勤ができなくなった方がJob-Hubで活躍されている事例も多く出てきており、今後しくみとして展開を考えることは可能と思っております。

Q:

文系出身者が定年退職後、クラウドソーシングを活用できるものでしょうか。また若い人が、正社員にもならずに専門性を持つことは容易ではないと思いますが、ご意見をうかがいたいと思います。

秋好氏:

2008年からの経験として、専門性の高い仕事のマッチングがメインでした。ただし現在、チームでの仕事が広がっており、今後クラウドソーシングが発展していく中で、チームビルディングやプロジェクトマネジメントのニーズが高まっていくと認識しています。若い人の育成・学習については、まだ専門学校でのセミナー開催といったレベルに留まっているため、今後強化していきたいと考えています。

湯田氏:

定年後の活躍も十分可能です。中高年の方は、ディレクションで活躍されているケースが多くみられます。事業計画を客観的な目でチェックするなど、ジェネラリストとしての長年の知見を生かせる業務もあります。若い人が専門性を磨くという視点では、チラシ作成など、専門学校の教育カリキュラムにJob-Hubが組み込まれている事例もあります。とくに高品質のものでなくていいというクライアントと、まだ修行中のワーカーとのマッチングも起こっています。

この議事録はRIETI編集部の責任でまとめたものです。