1 はじめに
2022年11月、Chat-GPTが世の中に登場したとき、世界中は、その技術水準の高さに驚くとともに、内包する多くの課題を含め、賛否両論の大議論が巻き起こった。だが、時間が経過するに従って、人々は新しい技術を冷静に客観視し、規制やガイドラインを議論しつつ、是々非々で受け入れ始めている。開発メーカーは、生成AIに対する市場が大きいと見て、開発に加速度をつけ、多種多様な新商品を意欲的に市場に投入している。日本政府も開発を強力に支援する方針を打ち出している。
だが生成AIに対する多くの人々の社会学的な最重要関心事は、依然として、雇用への影響である。2013年、マイケル・オズボーンが、AIが雇用に与える影響の試算結果を発表し、それを契機に世界中で、「AIと雇用」に関する研究ブームが巻き起こり、大量の論文、試算値、報告書などが発表された。その発表は、2014~2017年頃がピークであった。
生成AIが登場した今回もまた、雇用への影響が、生成AIに関する人々の関心の中で最も高いテーマであることに変わりはない。だが、かつてのような研究ブームは発生していない。「AIと雇用」に関する推計手法がある程度確立したため、突拍子もない数字が出てくることはないと、専門家たちは想定しているためであろう。推計手法が確立していなかった2014~2017年頃、9割の雇用が奪われるという数字を大真面目に発表した研究者もいたくらいだ。
生成AIが2022年11月に登場して以降、多くのシンクタンク、コンサルタント会社、調査会社、金融機関などが、雇用に与える影響の推計値を発表したが、2014~2017年頃の研究ブーム時と同様、その多くは計算の根拠が示されず、論文に必要な「再現性」を具備した内容になっていない。いわゆる大部分が評論の域を出ていない。論文としての水準を確保している推計値は、今のところ、OECD (2023)、ILO (2023)、IMF (2024)の3つの国際機関が発表した論文くらいしか見当たらない。とはいえ、Chat-GPTが発表されてわずか1年2カ月で、ほぼ「生成AIと雇用」に関する最終結論のようなものが出そろった。これらをもって、本テーマに関する研究はほとんど終了した、もしくはピークを越えた、といえよう。
本稿では、この3つの国際機関が発表した推計値を中心に、「生成AIと雇用」に関して概要を述べてみたい。
2 2014~2017年頃に発表された推計値のオーバービュー
2013年、英国オックスフォード大学教授マイケル・オズボーン(Michael Osborne)が発表した論文(Frey, C. B., & Osborne, M. A. (2013))は、世界に大きな衝撃を与えた。AIが導入されれば、47%の雇用が影響を受ける可能性があるとの試算結果であった。日本では、AIが半分の雇用を奪う、などとショッキングな表現方法でメディアが取り上げ、AIは怖い技術だというプロパガンダが日本国民の間に広まった。そのためAI研究に予算が配分されず、日本がAI分野で世界に大きく後れを取る要因になったとも言われている。
この論文を契機に「AIと雇用」に関する研究ブームが巻き起こり、世界中で活発な研究成果の発表が相次いだが、日本では、メディアが依然として2013年のマイケル・オズボーンの発表だけを取り上げ、世界の研究の進捗を日本国民に伝えることがなかった。やがて、一通りの研究発表が成されると研究ブームは収束した。
「AIと雇用」という研究テーマは、英国オックスフォード大学マイケル・オズボーンとドイツ・マンハイムZEW研究所(Leibniz Centre for European Economic Research in Mannheim)メラニー・アーンツ(Dr. Melanie Arntz)との論争であると言っても過言ではない。メラニー・アーンツは、47%を否定し、米国では9%、ドイツでは12%であると発表した(2015年6月)。そして2人の論争を横目で見ながら、OECDの研究チームが定期的に研究成果を発表している。主要なプレーヤーはこの2人にOECD、米国MIT教授ディビッド・オーター(David H. Autor)を加えた4者である。
これら4者以外、世界中でさまざまな研究者やシンクタンク、調査会社、コンサルタント会社、金融機関が膨大な成果を発表したが、4者の論争の亜流、傍流でしかない。
マイケル・オズボーンとメラニー・アーンツの研究の決定的な違いは、推計の基になっているデータベースの差である。オズボーンは、O*NET(*)を用い、アーンツはPIAAC(*)を用いている。2人の論争の根本は、どちらのデータを用いるのが正しいのかという論争に帰結すると言っても良い。
(*)「O*NET」は、Occupational Information Networkの略で、米国労働省雇用訓練局が1998年に開設した職業情報の総合サイトである。誰でもアクセスが可能で、約1,000種の職種について詳細なガイド情報を提供している。
(*)国際成人力調査(PIAAC、Programme for the International Assessment of Adult Competencies)は、経済協力開発機構(OECD)の成人のスキルを評価する世界規模の調査である。この調査はOCED各国の知識基盤社会における読解力、数的思考力、そして問題解決能力のスキルを評価し、各国国民のこれらのスキルを向上させるための情報を提供するのが主目的である。労働力人口(16歳から65歳まで)に焦点を合わせたこの調査は、2013年10月8日に初めて公表された。
筆者は2人と直接会って意見交換したが、どう見てもメラニー・アーンツの言い分の方に優位性がある。彼女は、「自動運転車が実用化されたからといって、世界中のタクシードライバー全員が、いきなり翌日に全て自動運転車に替わる、などという想定はおかしい、1%、2%・・と順に切り替わっていくと考える方が妥当である」「タクシードライバーといっても、その仕事をしている時間帯は人によって千差万別であり、それ以外の時間帯に別の仕事をしている人もいれば、時間の過ごし方が人によって全て違う。一人一人の時間の過ごし方を記述しているPIACCが現実的である。タクシードライバーという職業1本だけで統計を取ると、世界中のタクシードライバーが全員同じ働き方をしていることになり、そのようなデータを用いることはおかしい」と言っていたが、確かにそうだ。
これに対してオズボーンは、「自分は技術的な可能性を示しただけに過ぎない」と言う。自動運転車が出現すると、時間軸を考えなければいつかは世界中のタクシードライバー全員が職を失う『可能性』がある、ということは確かである。間違っていない。オズボーンの推計は、時間軸を考えず、あまりに単純すぎてラフ過ぎていただけである。要はメディアが、「半分の職がなくなる」などという短絡的かつプロパガンダ的な表現を繰り返して、人々に誤解を与えたことの方が責任が重い。
オズボーンの推計は、他にもさまざまな批判を浴びた。主要な点を挙げると、①推計値を示しているのに、推計値の目標年次がない、すなわち時間軸がない、②雇用が失われるマイナスの影響を出しただけで、AI産業が興って雇用が増えるプラスの影響に言及していない、などである。
オズボーンの推計は、単純化し過ぎていてラフ過ぎた。同氏の趣旨をきちんと理解すれば、それはそれで構わないのだが、世間の要求水準の高さがさまざまな批判となって彼に向かった。同氏はそうした批判に応えるべく2017年に改良版の推計値を公表した。だが、O*NETを用いるという点は、研究の根幹に関わる部分であり、変更していない。もしPIAACを用いれば、アーンツの後塵を拝するだけになってしまうからだ。
Bakhshi, H., Downing, J., Osborne, M. and Schneider, P. (2017).,では、“現在の米国 [英国] の労働力の9.6%(8.0%)が、労働力のシェアが増加する可能性が非常に高い職業に就いており、18.7%(21.2%)が減少する可能性が非常に高い職業に就いていることがわかりました。” (英語原文を筆者翻訳)
という結果となっている。47%でなく、2030年という直近の目標年次を示すことで18.7%(21.2%)という小さい数字となった。また、同氏が主張してきた、AI産業により雇用が増える方が重要だ、という点も数字で示した。だが、AI産業は、まだまだ、雇用に与えるマイナスの影響をカバーするほどまでには雇用を生み出さないようだ。確かに今私たちの周囲を見渡しても、大きな雇用を生み出すようなAI産業は見られない。
2020年11月、ドイツ・マンハイムのZEW研究所にアーンツを尋ねた私に対して、「世間ではオズボーンの方が広く受け入れられている。それは、雇用に大きな影響が出るとした方が利益を受ける人が多いからだ」と言っていた。例えば、研究者は研究予算が増えたり、労働組合は自分たちの主張が通りやすくなったり、事業体は政府から予算が付いたりしやすくなるなどの恩恵を受ける人々が多いからだ。「自分はオズボーンに公開討論を申し入れているが、彼は受けない」と言っていた。
このように、研究ブームの収束を見ると、試算の仕方にはいろいろな考え方があるものの、「AIが雇用に与える影響は、OECD諸国では雇用者の1~2割」と言うのが、世界中の本テーマに関わった人々の納得のいく数字であることが分かる。この数字に対して、以降、誰も異論を提起していないからだ。
なお、彼らの推計方法を見ると、彼らがどのような過程を経て、人間がAIに置き換わっていくと考えていたのかが分かる。
まず、デービッド・オーターは、米国におけるスキル別職業の割合の10年ごとの変化、すなわちパソコンなど情報機器がオフィスなどに導入されてきた1979年以降の状況を計測した。その結果、中スキルの職業の労働者が、情報化投資によって機械に代替されてきたことが分かった。オーターは、過去、職を失ってきた労働者は、機械に代替されてきた「頭脳労働 cognitive」の「ルーティン業務 routine task」であるとしている。「ルーティン業務」は、どんなに難しい仕事であったとしても、また人間が仕事をするために長年の訓練が必要であってとしても、繰り返し行われる業務であり、ロジックに基づいているので、どんなに難しく複雑な業務であっても、プログラム化できるからである。一方、オーターは、中スキルであったとしても、プログラム化できない対人関係業務の労働者は増えてきたとしている。
次いで、メラニー・アーンツは、上記の言葉にもあるように、例えば、売り子の動作を細かくタスクに分解し、そのタスクが1つずつ機械に置き換わっていくと考えた。すなわち、簡単なAI頭脳を持ち、複雑な動きができるロボットが、人間のタスクを1つずつ代替していくと考えた。かつて日本で話題になった「ペッパー君」「アシモ」のようなロボットを想定して頂くとよい。
マイケル・オズボーンは、メラニー・アーンツとは違って、世界中で、いきなり1人の人間が1台のロボットに置き換わると想定したが、それでもAI頭脳を持ったロボットが人間に代替していくと考えるという点では、メラニー・アーンツの想定と同じだった。当時は、自動車にAIを搭載した自動運転車が間もなく実用化されると考えられていたので、タクシードライバーが機械に置き換わることが想定されていた。
だが、その後のAIの開発の歴史は、彼らの想定とは違っていたのである。
3 デービッド・オーター、メラニー・アーンツ、マイケル・オズボーンらが想像もしなかった方向に進化したAI技術
ところが、その後、実際に世の中に広く普及していったのは、「cognitive routine task」を単純に処理する情報機器でもなければ、売り子ロボットでもなければ、タクシードライバーロボットでもなければ、自動運転車でもなく、RPA(Robotic Process Automation)だった。
RPAは、当初、経理処理ソフトに毛の生えたような簡単なソフトで、とても「cognitive」とは呼べないような「ルーティン」的な経理の繰り返し業務を処理するに過ぎなかったが、やがて、RPA技術が高度化するに従って、人間の深い思考を前提とする「cognitive」かつ「非ルーティン」的な事務処理全般にまで処理できるようになっていった。すなわち、中身はどうあれ、パソコンを使って処理する作業であれば、ほとんど何でも処理することができるようになったのである。
すると、デービッド・オーター、メラニー・アーンツ、マイケル・オズボーンらが当時想定していた人々とは違った職業の人々が、AIに代替されるようになってきた。要は、どんなに難しく、複雑な業務であっても、パソコンを使って処理する作業でさえあれば、AIが処理できるようになってきたのである。
そうした傾向を、OECD (2021)は、次のように述べている(下線部:筆者)。まだ生成AIが世の中に登場する前である。
“近年、人工知能(AI)は、情報の順序付け、記憶、知覚速度、演繹的推論などの分野で大きな進歩を遂げました。これらは全て、非ルーティンの頭脳タスクに関連しています。結果として、AIの進歩とAIによる自動化の影響を最も受けている職業は、高度なスキルを持つホワイトカラーの職業である傾向があります。それは、マネジャー、科学および工学の専門家、法律、社会、文化の専門家などです。これは、以前の自動化技術の影響とは対照的です。以前の自動化技術は、スキルの低い労働者が実行するルーティン業務を主に代替する傾向がありました。
AIにさらされる機会が増えることは、これらのテクノロジーを効果的に使用するスキルを持っている限り、労働者にとって良いことかもしれません。新しいOECDの調査では、2012年から2019年にかけて、AIへの露出が多いほど、コンピューターの使用頻度が高い職業での雇用が増えることが分かっています。これは、強力なデジタルスキルを持つ労働者は、職場でAIに適応して使用する能力が高く、従って、これらのテクノロジーがもたらすメリットを享受できる可能性があることを示唆しています。
対照的に、AIへの露出が多いほど、コンピューターの使用が少ない職業での平均労働時間の伸びが低くなるといういくつかの兆候があります。全体として、これらの調査結果は、AIの採用により、AIを効果的に使用するスキルを持つ労働者とそうでない労働者との間の労働市場の格差が拡大する可能性があることを示唆しています。従って、労働者が新しいテクノロジーを扱うための適切なスキルを身につけていることを確認することは、重要な政策課題です。” (英語原文を筆者翻訳)
という調査結果を発表している。最近のAI技術の発展はすさまじいので、頭脳だけしか使わない労働は、それがいかに難度が高い複雑な作業であっても、その大部分がAIに代替できるようになってきたと述べられている。むしろ、デービッド・オーター、メラニー・アーンツ、マイケル・オズボーンらが当時想定していたAIの頭脳と手足になるロボットの組み合わせ(例えば、店舗の売り子)は、機械を作ることがはるかに難しく(AI頭脳とロボットとの電気的な接続が難しい)、かつロボットのコストが高く、店舗の売り子の人件費の方がはるかに安いのでどう逆立ちしても採算が取れないことが分かってきたようだ。一方、手足を使わず、単に頭脳労働だけであれば、どんなに難しく高度な作業であっても、パソコンで処理できる作業であれば、AIに代替できる時代に入ってきたのである。むしろ、そうした高度頭脳労働者の年棒はとても高いので、AI使用料やAIプログラム作成費が多少高くても、人件費よりも安く、採算を取れるようになってきたのである。
そうしていよいよ2022年11月、生成AIが世の中に登場する。
4 いよいよ生成AIが登場
(1)生成AIは、①読み込んだデータに基づき、文書、画像、音楽などパソコンを用いて人間の頭脳活動によって得られる成果物を生成することができる、②機械と人間のインターフェースが極めて自然であり、まるで人間と会話している感すらある。その機能は、日本の長尾真教授(元京都大学総長)による自然言語処理の研究の成果が開花したものであり、今や、通訳・翻訳は、一部のケースを除き、機械で十分対応可能である。
こうした機能を持つ生成AIの登場で、「文書、画像、音楽など」を作る仕事をしていた人の多くの仕事が代替される可能性が出てきた。すなわち、デービッド・オーター、メラニー・アーンツ、マイケル・オズボーンらが想定していたAIによる業務のカバーをはるかに超える範囲をカバーすることが明らかになってきたのである。それは、AIが雇用に与える影響も、彼らが想定していたよりもさらに広範な範囲に及ぶことを示している。
2023、2024年に発表されたOECD (2023)、IMF (2024)、ILO (2023)の論文も、こうした状況を踏まえて雇用への影響が試算されている。
(2)まず、OECD (2023)は次のように述べている。(下線部:筆者)
“企業のAI導入率はまだ比較的低いものの、生成AI(ChatGPTなど)を含むAI技術の急速な進歩、AIコストの低下、AIスキルを持つ労働者の確保などは、OECD諸国がAI革命の瀬戸際にいる可能性を示唆しています。職場でのAIの取り込みと使用について、どの仕事が変化、創出、消滅するか、スキルのニーズがどのように変化しているかなど、新しくより良いデータを収集することが不可欠です。AIを含む全ての自動化技術を考慮すると、27%の職業が自動化のリスクが高い職業です。7カ国の製造業と金融部門におけるAIの影響に関するOECDの新しい調査からの最初の調査結果は、AIがもたらす機会とリスクの両方を浮き彫りにしています。” (英語原文を筆者翻訳)
(3)次にILO (2023)は以下のように述べている。(下線部:筆者)
“この研究は、職業やタスクが生成AI、特にGPTにさらされる可能性についての世界的な分析を示しています。GPT-4モデルを使用して、潜在的暴露のタスクレベルのスコアを推定し、その後、世界レベルおよび国の所得グループごとに潜在的な雇用への影響を推定します。事務作業の広範な職業が高度に曝露されており、事務業務の24%が高度に曝露され、58%が中程度に曝露されていることが分かりました。他の職業グループでは、高度に曝露されるタスクの最大割合は1~4%の間で変動し、中程度の曝露を受けるタスクは25%を超えません。その結果、このテクノロジーの最も重要な影響は、職業を完全に自動化するのではなく、仕事の増強、つまり職業内の一部のタスクを自動化し、他の業務に時間を割くことになる可能性があります。
影響は性別に大きく左右され、自動化の影響を強く受ける可能性がある女性の割合、その効果は男性の2倍以上です。低所得国の雇用の10.4%、高所得国の雇用の13.4%に影響を与える可能性があります。しかし、そのような影響にはインフラの制約が考慮されていないため、低所得国での使用の可能性が妨げられ、生産性ギャップが拡大する可能性があります。
・・・・・・
この論文では、世界的な観点から、職業に対する生成型AIの潜在的な影響のいくつかを定量化することを試みました。私たちの調査により、世界的な雇用数の推定値が得られました。GPT-4と同様の機能を備えたテクノロジーに最もさらされているカテゴリーで、ISCO-08の国際標準に依存し、タスクレベルのスコアをILOの公式統計に反映される雇用分布に関連付けることによって行われます。その後、われわれは、各国の所得水準に応じて予想される影響の違いという観点から、これらの調査結果がもたらす影響について議論しました。また、デジタルテクノロジーが雇用に及ぼす影響についての議論ではあまりにも無視されてきた、仕事に対するこの重要な影響に注目を集めるために、私たちは仕事の質に起こり得る影響にも焦点を当てました。
この分析は、現在の技術的可能性の最高水準の値に基づき、3つの大胆な仮定に基づいています。まず、自動化スコアの対象となるタスクを次のように仮定しました。高所得国の状況下で実行されると推定されています。これは、必要なインフラが整備されていない低所得国での展開の可能性がより限定されているという点を無視しています。低所得国では、一般に、AIの標準が低く、信頼性が低く、高価であることが多く、スキルや賃金レベルが低いため、技術導入コストが比較的高くなります。次に、GPT-4に依存したスコアを予測することは、導入の容易さに関して技術的な楽観主義の頂点を反映している可能性が高く、実際には運用するのが困難です。第三に、将来の技術進歩について信頼できる予測ができないため、私たちは、新たに生まれる可能性のある仕事の数について推測することなく、現時点でのタスクを前提とし、その自動化の可能性に焦点を当てました。
このアプローチにより、純雇用喪失の憂慮すべき推定値が生成されることが予想されたかもしれませんが、実際はそうではなく、むしろ、私たちの世界的な推計は、仕事が変革される未来を示しています。
私たちの調査結果は、これまでの技術変革の波に関する進化する学術文献とほぼ一致していますが、LLM、より具体的にはGPTにのみ焦点を当てた結果、私たちが特定した傾向の一部は新しいものです。AI導入の可能性に関する初期の研究では、自動化の可能性が最も高いのはスキルが低く、反復的で定型的な仕事であると特定されていましたが (例: McKinsey 2016、Frey and Osborne 2017)、そこではコンピューターベースのシステムとシステムを組み合わせることで、手作業による生産作業で人間の代わりに機械を使用します (Autor 2015; Acemoglu and Restrepo 2020)。最近の文献では、機械学習システムが非定型タスクのパフォーマンスを向上させる能力を強調しています (Brynjolfsson et al., 2018; Ernst et al.,2019; Webb 2019; Lane and Saint-Martin 2021)。私たちは、テキストの分析、文書やメッセージの草稿、追加情報のプライベートリポジトリやウェブの検索などの認知タスクを実行する洗練された能力により、GPTの出現がこの変化する状況を強化すると主張します。結果として、私たちの研究は、少なくとも短期的には、この自動化の新たな波が、通常は「知識労働」に関連する別のグループの労働者に焦点を当てることを示しています(Surawski 2019)。
GPTテクノロジーにさらされているタスクの割合が最も高い職業グループは事務職であり、タスクの大部分が少なくとも中レベルにさらされており、タスクの約4分の1が潜在的な自動化に高度にさらされています。テクノロジーの進歩の結果、こうした仕事の多くは、伝統的に女性の雇用を増やす手段として機能してきた発展途上国では決して出現しないかもしれません。他のタイプの「知識労働」の場合、露出は部分的であり、雇用の置き換えではなく、より強力な潜在力と生産性のメリットを示唆しています。これらの発見は、世界的に焦点を当てた生成AIシステムに関する最新の文献の一部と一致しています。マッキンゼーによる最近の研究(2023)は、同様の「知識労働」グループの存在を指摘しています。
最も高いレベルの曝露を伴う職業や任務であるものの、推奨される避難レベルがかなり高い大企業に焦点を当てたWEFの世界的な調査では、最も急速に減少すると予想される職業の中に事務職や管理職も挙げられています(WEF 2023)。ゴールドマン・サックスが提供した推計(2023年)もまた、その可能性が高いことを示唆しています。自動化は私たちの計算よりも優れていますが、一般的な結論は、「ほとんどの仕事と産業は部分的にしか自動化されないため、AIに代替されるよりもむしろ補完される可能性が高い」という私たちの主要な調査結果と一致しています。
私たちの推定で観察された中程度の影響は、いくつかの要因から生じています。まず、タスクと職業のソースとしてISCO-08に依存しています。これは、米国のO*NETデータベースよりもグローバルな性格を持つ研究に適しています。第二に、ILOの国レベルの雇用統計を適用すると、各国に存在する実際の雇用数に重要なニュアンスが加わります。これらのカテゴリーを比較することで、所得に基づく差異が明らかになり、世界レベルでの最終的な雇用効果に影響を及ぼします。第三に、私たちはテクノロジーの進化について予測しようとはしていません。生成AIの機能の向上と、このテクノロジーに基づいて構築できる二次アプリケーションの範囲により、私たちの論文で特定された拡張と自動化の両方のカテゴリーの仕事の数が増加する可能性がありますが、私たちの分析において、この研究で特定された変化は、今後数年間有効であり続けるでしょう。” (英語原文を筆者翻訳)
(4)最後に、IMF (2024)は以下のように述べている
“世界の雇用のほぼ40%がAIにさらされており、先進国はより大きなリスクにさらされていますが、新興市場国や発展途上国よりもAIの利点を活用する態勢が整っています。先進国では、認知タスク指向の仕事が普及しているため、仕事の約60%がAIにさらされています。
AIの潜在的な補完性に関する新しい尺度は、このうち約半数がAIによって悪影響を受ける可能性がある一方、残りはAI統合による生産性向上の恩恵を受ける可能性があることを示唆しています。全体的なエクスポージャーは新興市場国で40%、低所得国で26%です。多くの新興市場国や発展途上国では、AI関連の混乱はそれほど差し迫ったものではないかもしれませんが、AIの利点を活用する準備も整っていません。これにより、デジタル格差と国を越えた所得格差がさらに悪化する可能性があります。
AIは所得と富の不平等に影響を与えるでしょう。中級技能労働者に最も大きな影響を及ぼしたこれまでの自動化の波とは異なり、AIによる置き換えのリスクは高賃金者にも及んでいます。ただし、潜在的なAIの補完性は収入と正の相関があります。従って、労働所得格差への影響は、AIが高所得労働者に取って代わるか、あるいはそれを補完する程度に大きく依存します。モデルシミュレーションによると、高い補完性により、高賃金所得者は労働所得の比例以上の増加が期待でき、労働所得の不平等の拡大につながる可能性があります。これは、高所得者に生じる資本利益の増大から生じる所得と富の不平等の拡大を増幅させるでしょう。AIの財産権の定義、再分配やその他の財政政策に関する各国の選択が、最終的には所得と富の分配への影響を形作ることになります。
生産性の向上が大きければ、ほとんどの労働者の成長と収入の増加につながる可能性があります。資本の深化と生産性の向上により、AI導入により総収入が増加すると予想されます。AIが特定の職業で人間の労働を強力に補完し、生産性の向上が十分に大きい場合、成長と労働需要の増加は労働タスクの部分的なAIによる代替を十分に補って余りある可能性があり、所得分布のほとんどに沿って所得が増加する可能性があります。
大卒の労働者は、強制退去のリスクのある仕事から補完性の高い仕事に移る準備ができています。高齢の労働者は、AIによる変化に対して、より脆弱になる可能性があります。英国では、大学教育を受けた人々は、歴史的に、現在では置き換えの可能性が高いと評価されている仕事から、補完性の高い仕事への移動がより容易でした。対照的に、中等教育以上の教育を受けていない労働者は、機動力が低下しています。適応力があり、新しいテクノロジーに精通している若い労働者は、新しい機会をよりうまく活用できる可能性もあります。対照的に、高齢の労働者は再雇用、テクノロジーへの適応、流動性、新しい仕事のスキルの訓練に苦労する可能性があります。
世界中の労働者の約40%が高曝露の職業に就いています。先進国ではそのシェアが60%であり、マクロ経済に大きな影響を与える可能性があることを示しています。先進国は、新興市場国や低所得国に比べて、補完性の高低にかかわらず、曝露量の多い職業の割合が高くなります。平均的な先進国経済では、雇用の27%が露出度が高く、補完性が高い職業に就いており、33%が露出度が高く、補完性が低い職業に就いています。比較すると、新興市場経済のシェアはそれぞれ16%と24%であり、低所得国のシェアはそれぞれ8%と18%です。
より洗練された分類を使用して選択した個々の国を観察すると、同様の結果が得られます。英国と米国の雇用のほぼ70%と60%は、それぞれ、露出の高い職業に就いており、補完性の高い職種と低い職種にほぼ均等に配分されています。新興市場経済における高リスク雇用は、ブラジルの41%からインドの26%までの範囲にあります。
AIの導入は課題をもたらしますが、大学教育を受けた若い労働者のキャリアにとってはチャンスでもあります。大卒の労働者が20代と30代に補完性の低い仕事から補完性の高い仕事に移行することが多いのです。彼らのキャリアの進歩は30代後半から50代前半までに安定し、通常は上級職に到達し、大幅な転職をする傾向が少なくなります。大卒でない労働者も同様のパターンを示していますが、その進歩はそれほど顕著ではなく、また、露出の高いポジションを占めることも少なくなります。これは、教育を受けた若い労働者が、潜在的な労働市場の混乱と、AIの影響を受ける可能性が高い職業での機会の両方にさらされていることを示唆しています。一方で、相補性の低いポジションの場合、事務職などの職種は、補完性の高い仕事への足がかりとなる一方、補完性の低い職業への需要が減少すると、若年層の高スキル労働者の労働市場への参入がより困難になる可能性があります。一方で、AIにより、大卒の若い労働者が新しいテクノロジーへの慣れを活用して生産性を向上させることで、より早く経験を積むことができるようになる可能性があります。生成AIの導入により、AIの使用自体がはるかに簡単になりました。最近の調査によると、AIベースの会話アシスタントの生産性への影響は、経験が浅くスキルの低いカスタマー・サポート・ワーカーにとって最も大きかったことが示されています。経験豊富で高度なスキルを持つ労働者への影響は最小限でした(Brynjolfsson、Danielle、およびRaymond2023)。
高齢労働者は適応力が低下し、退職後の再雇用の可能性が低いことに反映されているように、移動に対するさらなる障壁に直面する可能性があります。退職後、高齢労働者は若年層や働き盛りの労働者に比べて、1年以内に新たな雇用を確保する可能性が低いです。この不一致はいくつかの要因で説明できます。まず、高齢労働者のスキルは、かつては需要が高かったものの、急速な技術進歩の結果、現在では時代遅れになる可能性があります。さらに、特定の場所に長期間滞在すると、配偶者や子供などの地理的および感情的な結び付きが生じ、新しい仕事の機会を求めて移住することを思いとどまらせる可能性があります。長年にわたって蓄積された金銭的義務により、減給のあるポジションを受け入れる可能性が低くなっている可能性もあります。最後に、特定の分野や職業に何十年とまではいかないまでも、何年も投資してきたため、まったく新しい役割や業界への移行には自然と抵抗が生じたり、知覚的な障壁が生じたりする可能性があります。
これは、使い慣れた環境による快適さ、新しい領域での学習に対する懸念、または年齢による偏見の認識の組み合わせを反映している可能性があります。これらの制約は、AIによる混乱の状況にも関連する可能性があります。
歴史的に、高齢の労働者はテクノロジーの進歩に対する適応力が低いことが実証されてきました。人工知能も、この人口グループに同様の課題をもたらす可能性があります。再就職後、これまで露出度が高く、補完性の高い職業に就いていた高齢労働者は、壮年期の労働者に比べて、同じカテゴリーの職業に就職する可能性が低くなります。再雇用のダイナミクスにおけるこの違いは、技術革新、労働者の好みの変化、補完性が高く露出の多い職種における採用プロセスにおける年齢に関連した偏見や固定観念を反映している可能性があります。
テクノロジーの変化は、新しいスキルを学ぶ必要性を通じて、高齢の労働者に影響を与える可能性があります。企業は、キャリア期間が短い労働者に新しいスキルを教えることに投資することが有益であるとは考えていないかもしれません。また、高齢の労働者は、残りの期間が限られているため、認識される利益が限られている可能性があるため、そのような訓練に参加する可能性が低い可能性があります。
勤続年数の効果は、年金や失業保険プログラムの寛大さによってさらに大きくなる可能性があります。これらのチャネルは、テクノロジーが失業後の収入損失の45%に寄与していることを発見しました(BraxtonandTaska (2023))。これは主に、新しいスキルを持たない労働者が、既存のスキルは評価されるものの、賃金が低い仕事に転職するために起こります。
職業転換は労働者の収入にも影響を与えます。ブラジルと英国の両国では、露出度が高く、補完性の高い職業への進出は賃金の上昇と関連しています。従って、これらの種類の仕事へのアクセスの拡大は、先進国や先進国の労働者にとって収入増加の重要な推進力となる可能性があります。新興市場と発展途上国において、例えばブラジルでは、曝露量の多い職業から曝露量の少ない職業に切り替える労働者は、時給が低下する傾向があります。従って、そのような移行は収入の損失を伴う可能性があります。
前述の実証結果を補完するものとして機能し、AIが経済に影響を与える可能性がある3つの重要なチャネル、(1)労働移動、(2)補完性、および(3)生産性の向上に焦点を当てています。これら3つのチャネルは、AI導入の潜在的な影響を評価するために不可欠です。まず、AIの導入により、これまで労働者が行っていた業務がAIに移行し、労働収入の減少につながる可能性があります。第二に、AIの導入により、人間の労働とAIの補完性が高い職業において、AIに代替されないタスクが増加し、そのタスクの重要性がより高まる可能性があります。これにより、付加価値と労働需要が他の職業からAI補完性の高い職業にシフトすることにつながります。第三に、AIの導入は広範な生産性の向上につながり、投資が増加し、全体的な労働需要が増加し、労働力の減少の一部を相殺する可能性があります。” (英語原文を筆者翻訳)
5 ILO (2023)、OECD (2023)、IMF (2024)の論文による推計結果
(1)生成AIが雇用に与える影響に関する推計値
まず生成AIが雇用に与える影響に関する推計値であるが、それぞれ計算の仕方が異なリ、雇用者ベースの数字、タスクベースの数字、事務職のみの数字、事務職を含む全職業の数字、cognitive taskのみの数字、cognitive taskを含む全taskの数字、生成AIのみの影響の数字、生成AIを含む全AIの影響の数字、先進国と途上国の数字など、多様でさまざまな数字が挙げられている。
例えば、雇用者ベースで見ると、ILO (2023)では、「英国・米国において雇用者の60~70%が影響を受ける」と述べている。職業ベースで見ると、ILO (2023)は、「27%の職業が自動化のリスクが高い職業です。」と述べている。そのうち事務職だけを見れば、ILO (2023)は、「GPTテクノロジーにさらされているタスクの割合が最も高い職業グループは事務職であり、タスクの大部分が少なくとも中レベルにさらされており、タスクの約4分の1が潜在的な自動化に高度にさらされています。」「事務作業の広範な職業が高度に曝露されており、事務業務の24%が高度に曝露され、58%が中程度に曝露されていることがわかった。」と述べている。すなわち、事務職の約4分の1は、生成AIに代替されると試算されるのである。デービッド・オーター、メラニー・アーンツ、マイケル・オズボーンらが想定した「AIが雇用に与える影響は、OECD諸国では、雇用者の1~2割」とは大きく異なっている。
こうした総計の推計値以外にも、3つの論文は、きめ細かい分析を行っている。1)女性への影響が大きいことを強調している。2)高齢者や低学歴者への影響が大きく、かつ高齢者はリスキリングしても新しい技術に追従することが難しく、時代に取り残される可能性があると指摘している。3)高学歴者や若者は、AIにより代替されたとしても、他への転職が容易であり、また、AIを用いることで生産性を高め、より高い収入に結び付けることができると指摘している。4)AIを用いて、企業のある部署の人間を代替したとしても、AIにより企業全体の生産性が上がれば、代替された人の収入を含め、全雇用者の収入は上昇する可能性があるとしている。3つの論文とも、この4)の路線を取ることを推奨する記述が成されている。
6 今後の政府の対応すべきこと
3つの論文は、生成AIが雇用や社会に大きな影響を与えることから、政府に対して適切な対応を求めている。
まずOECD (2023)は以下のように述べている。
“この調査では、労働者が現在の仕事でのAIの使用についてどう考えているかと、将来に対する不安との間に明確な隔たりがあることが明らかになりました。この結果は、誰一人取り残さないための政策行動が今、緊急に必要であることを浮き彫りにしています。
政府に何ができるのか? それは、AIのトレーニングを確実に行うことです。AIの開発と導入がますます加速するにつれて、新しいスキルが必要になり、他のスキルは変更または時代遅れになります。低技能労働者と高齢労働者の両方だけでなく、高技能労働者にも訓練が必要です。各国政府は、雇用主に対し、より多くのトレーニングを提供し、AIスキルを教育に統合し、AI人材の多様性を支援するよう奨励すべきです。” (英語原文を筆者翻訳)
次いでILO (2023)は次のように述べている。
“私たちは、生成型AIは本質的に良いものでも悪いものでもなく、その社会経済的影響はその普及がどのように管理されるかに大きく依存すると主張します。パワーバランスの問題、労働市場の調整によって影響を受ける労働者の声、既存の規範と権利の尊重、国の社会的保護と技能訓練の適切な利用システムは、職場でのAIの導入を管理するための重要な要素となります。適切な政策が導入されなければ、一部の有利な立場にある国や市場参加者だけが移行の恩恵を享受するというリスクがあり、影響を受ける労働者のコストは甚大になる可能性があります。従って、政策立案者にとって、私たちの研究は、心を落ち着かせる声としてではなく、むしろ、私たちに迫りつつある技術的変化に対処するために政策を活用するよう求める呼びかけとして読まれるべきです。” (英語原文を筆者翻訳)
そしてIMF (2024)は以下のように述べている。
“AIの可能性を最大限に活用するには、優先順位は各国の発展レベルによって異なります。先進的でより発展した新興市場国はAIのイノベーションと統合に投資すると同時に、AIの利用増加によるメリットを最適化するために適切な規制枠組みを推進する必要があります。準備が整っていない新興市場や発展途上国にとっては、基礎的なインフラ開発とデジタルスキルを備えた労働力の構築が最も重要です。全ての経済にとって、包括性を確保するには社会的セーフティーネットとAIの影響を受けやすい労働者の再訓練が不可欠です。
・・・・・
AIの潜在的な影響には、政策立案者による社会的一体性の維持に向けた積極的なアプローチが必要です。AIによる長期的な生産性の向上は見込まれますが、移行期間中は雇用の喪失や所得分配の変化が政治経済に重大な影響を与える可能性があります。歴史的に見て、経済的圧力や社会不安が政治的変化の要求につながる可能性があることを示しています。社会的一体性を確保することが最も重要です。政策はAIの公平かつ倫理的な統合を促進し、これらの新しいテクノロジーについて次世代の労働者を訓練する必要があります。また、現在混乱の危険にさらされている労働者を保護し、再教育を支援する必要もあります。AIが簡単に国境を越えるという性質により、AIの倫理的およびデータセキュリティーの課題が増大し、要求が高まっています。最近、28カ国とEUが署名したブレッチリー宣言に規定されているように、責任ある使用を確保するための国際協力が求められています。これらの問題に対処する能力は各国によって異なり、調和のとれた世界的な原則と現地の法律の必要性が浮き彫りになっています。” (英語原文を筆者翻訳)
3つの論文が共通的に主張している点は、再教育・再訓練、いわゆるリスキリングである。こうした政府による対策を実施することで初めて、生成AIは社会にとって大きなプラスの貢献を達成することが可能になるのである。
7 おわりに
2013年にマイケル・オズボーンが論文を発表して以降、世界中で「AIと雇用」に関する活発な議論が繰り広げられ、多くの研究成果が発表された。そうした議論の動向を紹介するために、筆者は、書籍を1冊書かなければならないほど、紹介すべき議論や研究成果が多くあった。(岩本 (2018))
だが今回、生成AIによる雇用への影響に関する紹介としては、本ペーパーで十分、研究成果を取りまとめることができた。個々の内容が薄いというのではない。2014~2017年頃に「AIと雇用」のテーマで世界中が熱心な議論を行ったがために、「生成AIと雇用」というテーマに関しても、推計方法や抑えどころが明らかであるため、そこを抑えさえすれば、短期間で結論にたどり着くのである。
3つの論文が出された以上、今後、個人的関心で局所的事項を追求する論文くらいは出ることはあっても、3つの論文を超える研究成果はもはや出ないだろう。
「生成AIと雇用」のテーマに関する世界の関心は、もはや雇用への影響がどうなるか、ではなく、生成AIをいかに企業の競争力に生かすか、そして企業の生産性を上げ、国力を高めるために政府もリスキリングなどの対策を講じなければならない、規制も導入しなければならないと言う、活用の仕方の方に多くの人々の関心が集まっている。その方が健全であり、AIの未来、ひいては人類の未来にとって有益である。