3 DXリスキリングの考え方
(1)DXリスキリングは労働力移動
1)移動先の需要と移動元の供給を一致させる
DXリスキリングとは、ある企業内のある職場で培ってきたスキルが、DX導入に伴って機械に代替され、職を失う人に対して、新しい別のスキルを身に付けさせ、そのスキルを必要としている職場に移動させ、新しい産業や大きな雇用を創出するものである。
生産性の観点から言えば、旧職場においてDX導入により生産性は向上し、新職場においても不足しているスキルの保有者が集まることで、生産性が向上する。すなわち、DXリスキリングは、移動元でも、移動先でも、生産性向上に寄与することになる。

2)DXスキリングの対象者の中心はDX導入により職を失う人
DXスキリングの対象者の中心はDX導入により職を失う人である。その人々は、どういう人であろうか。それは、図表2のデイビッド・オーターの図を見ながら説明したい。

共通的な特徴は、その人の行っている頭脳労働がプログラム化できることである。どんなに複雑で難しい頭脳労働であっても、プログラム化できれば、人工知能に代替できる。
その分野は、まず、現在RPAが導入されている分野に代表される帳票処理、すなわち定型のルーティン事務業務である。現在、日本では、PRAは、金融機関、役所、各企業の事務職などに導入が進んでいる。
更に、より高度なスキルが必要とされる頭脳労働の分野である。例えば、株のトレーダーは現在ではほとんど人工知能に代われられたと言われている。さらに、企業の経営報告書を読み込んで解析する経営分析などの領域でも人工知能の導入は進んでいる。また、弁護士事務所でも、定型的な業務である法令検索、契約書の作成などで人工知能の導入が進んでいる。企業の人事部でも新入社員の採用に当たって、マークシートを人工知能が採点し、振り分けている。人工知能が用いられる領域はさらにより高度なスキルの分野にまで拡大されるであろう。
3)DXリスキリング人材の移動先は新しい産業及び大きな雇用を創出する分野
では、DXリスキリング人材が移動する先である新しい産業及び大きな雇用を創出する分野とはどんな分野だろうか。それが今の日本では明確になっていない。米国のGAFAMのように、モノを作らず、データの処理だけでビッグビジネスを行うのか、それともドイツのインダストリー4.0のように強い製造業の基盤の上にデジタル技術を実装して、より高い付加価値を付け、競争力を高めるのか、という方向性さえも定まっていない。今の日本のDXリスキリング対策において、国はどの分野に重点的に日本の限られた資源を投入して産業を成長させるのか、DXリスキリング人材を移動させるのか、この点が大きく欠けている。
(2)メンバーシップ型からジョブ型への転換
1)DXリスキリング人材受け入れ企業のみならず日本企業全体でジョブ型への転換を
改めて強調するが、DXリスキリングとは、ある企業のある職場で培ってきたスキルが、DX導入に伴って機械に代替され、職を失う人に対して、新しい別のスキルを身に付けさせ、そのスキルを必要としている職場に移動させ、新しい産業や大きな雇用を創出するものである。
このため、人材の採用は、その人が持っているスキルが、企業が求めるスキルと一致する場合に採用することになる。すなわち「企業が欲しいスキルを持った人を、欲しいときに」採用することになる。これは完全なジョブ型である。ジョブ型の定義といっても良い。
すなわちDXリスキリングを日本全体で成功させるためには、企業の採用が従来のメンバーシップ型でなく、ジョブ型に転換する必要がある。
2)学生時代からスキルを磨いてスキルで就職を
すると、学生の採用は、新卒一括採用のメンバーシップ型であり、それ以外の人の採用はジョブ型になるという、企業のなかで、2種類の異種的な人事が混在することとなり、混乱を招く。
そもそも学生の本分は学業でありながら、企業は採用に当たって、学業の成績をほとんど見ないで、すなわち学生が持っている専門性やスキルを無視して、「企業の命令であれば、何でもするか、どこへでも行くか」という観点から採用をしてきたこと自体がおかしいといわざるをえない。その結果、企業内で忖度人事が横行し、今のデジタルの時代にあって、専門性を持った経営者不在となり、日本企業は世界に大きく遅れてしまっていたのである。
学生の採用においても「企業が欲しいスキルを持った人を、欲しいときに」採用するというジョブ型に転換すべきである。
スキルによって採用が決まる⇒メンバーシップ型からの転換
