IoT, AI等デジタル化の経済学

第144回「ロボット導入で加工効率を高め、不良率が大幅に低下」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/立命館アジア太平洋大学

本稿の本文は、日刊工業新聞社の記者(栃木支局圷満義氏)が野中啓太氏((株)野中工業所代表取締役社長)に取材したものを、同社の雑誌「機械技術」(第69巻、第14号、2021年12月号)に掲載されたものである。同社の了解を得て下記に掲載する。

取材を受けた野中啓太氏は、2016年4月に筆者が経済産業研究所において立ち上げた「IoT、AIによる中堅中小企業の競争力強化研究会」(岩本が主催、プロジェクトリーダー)にモデル企業として参加されている(同研究会は、現在、Webで定期的に開催している)。

(株)野中工業所 会社概要
会社名 (株)野中工業所
代表者 代表取締役 会長 野中修
設立 1969年5月
従業員数 38名
事業内容 自動車や産業機械、建設機械、半導体装置向け部品の切削、研削加工

1 独自生産方式の自動化ライン

(株)野中工業所(栃木県佐野市)は、自動車向けやコンプレッサー用のシャフトなどの生産で、計測と検査工程にロボットを活用する自動化ラインを導入した。約4500万円を投じ、ハンドリングロボットや画像寸法測定器などを導入。自動化により加工効率が従来に比べ3倍以上向上し、不良発生率は80%低下した。1ロットの加工に必要なオペレーターも、従来の6人から2人へ省人化した。今後も自動化ラインの増設やオペレーターの配置転換で生産効率をさらに高める。

従来は材料供給から切削加工で自動化ラインを運用していた。今回、人手で作業していた加工品の外径や長さの測定、検査を自動化することで生産効率が大幅に向上した。導入した設備は(株)不二越製のハンドリングロボット3台、(株)東京精密製の測定器2台、キーエンス製の画像寸法測定器1台。オペレーター1人あたりの生産能力はこれまで月産約1万本で、需要の増加への対応が課題になっていた。ラインの自動化による生産効率向上で、こうした課題も解消した。

野中啓太専務取締役社長は「今後は、コアコンピタンスである加工ノウハウだけでなく、間接部門の膨大な管理業務をIoT管理したい」と業務効率化に向けた体制を構築する。将来的には工場の増設を視野に入れ、生産ラインやオペレーターの最適な配置で生産効率の向上、部品加工の付加価値を高めていく。

2 生産効率を追求し、技能者育成

野中工業所は、今から50年以上前に小型モーターの組立工場として創業した。その後、自動車や産業機械、建設機械、半導体装置向け部品の切削、研削加工を手がけ、独自の加工方法を探求してきた。1/1000mm単位の加工精度と難削材に対応した加工ノウハウが強みだ。自動車やコンプレッサー向けのシャフトなど丸物部品の加工を主力として、生産効率の向上を追求してきた。

野中修会長は30年ほど前から自動化という概念を持っており、「いかに効率良く製造できるか」を考え、自動化による生産ラインを築いてきた。「機械のレベル出し、メンテナンスをする習慣があります」と野中会長は、機械の修理やメンテナンスなどを自社で行う技術力に自信を持っている。機械の修理を通して、加工方法の最適化を理解することにもつながる。また、従業員それぞれの習熟度によって技能者育成のために技能検定や国家資格の取得を推奨する。

「技能者育成に注力し、30代が活躍しています。生産現場のIoTにも取り組んでいます」と野中会長は若手技能者の育成とIoTでさらなる最適化を目指す。

野中工業所にとって大きな後押しとなった出来事がある。経済産業研究所(RIETI)の岩本晃一リサーチアソシエイトが取りまとめるプロジェクト「IoT、AI等による中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会」の参画だ。そこから得た気付きを基に、自社の加工ノウハウにIoTを活用した自動化の概念が加わり、生産ラインに付加価値を生み出した。

3 強みである加工ノウハウを体系化

自社の存在意義を明らかにし、顧客の要望に応えるために生産効率の向上と加工技術の追求を目指す。中小製造業として付加価値を高めるためには、多種多様な受注形態の部品を効率良く加工しなければいけない。世の中から必要とされる価値ある企業として、“なぜ”を繰り返し自問自答し、会社を継続してきた。価値ある会社として存続させるために、利益の最大化を目指している。世の中から必要とされる価値ある企業という概念を野中工業所は、至上命題として掲げる。従業員、顧客や取引先などステークホルダに示した概念として「Nonaka Product System(NPS)」があり、「野中生産方式」として掲げる。変種変量に対応し、中小製造業の弱みを強みに変化させ、加工ノウハウを付加価値として進化させる。産業構造や顧客のニーズの変容とともに、従来とは違った受注形態に対応できる体制を整える。

2021年4月までの3カ年の中期経営計画の中にも、IoTを活用した自動化の概念が盛り込まれている。野中社長は「次期の第三次中期経営計画においては、どのリソースに投資をするか見極めます」と説明し、将来的に自動化に向けた研究開発費として、営業利益の15%を投資していく構想を明かす。

独自の生産方式を野中生産方式として概念化したNPSは、3つの生産方式の概念から成り立つ。

1つ目が、加工部品の外径検査などの測定を含めて自動化した生産ラインである「Nonaka Factory Automation(NFA)」。2つ目が、機械オペレーターとハンドリングロボットを組み合わせた「マルチライン」。3つ目が、技能者が機械を操作する「Man-Machineライン」。この生産ラインを組み合わせて、生産工程を集約し、加工ノウハウを凝縮させて生産効率を向上させている。

重要業績評価指数(KPI)の考え方についても特徴がある。1時間あたりの換算労働生産性を、「労働付加価値額」としてとらえている。NFAラインによる1時間あたりの労働付加価値額は、従来のオペレーターによる機械加工と比較すると、生産効率が向上し、約5倍の付加価値額を生み出す。今後は、加工ノウハウにさらに付加価値を生み出すための研究開発に投資をしていく。

2022年9月26日掲載

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