IoT, AI等デジタル化の経済学

第134回「日本企業にDXを普及させる最大のカギは、下請け構造からの脱却」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

1 従業員の首を切るDXが日本の主流

日本企業のDX投資の主流は「守りの投資」と呼ばれる「コストダウン・人員削減」であり、「攻めの投資」と呼ばれる「新しい商品の開発、新しいビジネスの展開」にはあまり向かわない。日本企業のこうした傾向は、過去、さまざまな調査によって明らかにされてきており、いまだにその傾向は変わっていない。

「コストダウン・人員削減」の投資は、投資対効果が小さく、投資金額の割に利益がさほど生まれない。しかも、従業員にとっては、次は自分の首が切られるのではないかと疑心暗鬼になり、会社の雰囲気が暗くなる。日本企業が、こうした傾向を持つことが、日本企業のDX投資が世界の周回遅れと言われる最も大きな原因である。

2 なぜ日本では「従業員の首を切るDX投資」が主流なのか

日本では、系列による下請け構造が存在する。中小企業の約3/4が、系列の傘下にあると言われている。

親企業から発注を受け、決められた量を生産すれば、全量を買い上げてくれる。すなわち、商品の研究開発や企画をする必要がなく、かつ販売活動をする必要もない。そうした下請け企業は、生産現場しか存在していない。すなわち、「工場=企業」なのである。

図1 日本における系列参加の下請け構造
図1 日本における系列参加の下請け構造

筆者が知る限り、「工場=企業」という形態が存在したのは、中華人民共和国の文化革命時代の人民公社しかない。企業は研究開発をして新しい商品を生み出す必要がなく、国から指示のあった商品を、指示のあった量だけ生産すればよかった。

この企業形態では、親企業からの発注が増えない限り、利益を出そうと思えば、「コストダウン・人員削減」するしかない。すなわち、DX時代になるかなり以前から、日本企業の多くは「守りの投資」を行ってきたのであり、DX時代に入ってからもなお、「守りの投資」を続けているのである。

すなわち、日本においてDX投資が進まないことと、日本において系列による下請け構造が存在することとは、同根なのだ。

しかも、過去数年間、日本企業全体の付加価値はほとんど増えていない。米中などのGDPは増加傾向を示しているが、日本のGDPはほとんど一定で変化していない。すなわち、大企業、親企業の付加価値が増えていないので、下請け企業への発注も増えていない。そのため、下請け企業のDX投資は、必然的に「守りの投資」に向かうことになる。

だがそれではいけない。日本経済全体が収縮してしまう。ただでさえ、人口減少が進み、日本市場全体の収縮が進む傾向があるのに、なおかつ「守りのDX投資」が主流となれば、収縮に加速がかかる。

3 日本におけるDX投資の拡大=下請け構造からの脱却

すなわち、日本企業がDX投資を拡大するためには、下請け構造から脱却し、新しい商品、新しいビジネスを展開する「攻めのDX投資」に転ずることである。系列の傘下から、いきなり100%脱却する必要はない。ほんの少しで構わないので、親企業に納入する以外にも、新しい商品を別の顧客に販売するように努力することである。そこにDXを使うのである。

図2 「攻めのDX投資」により新しい商品、新しいビジネスを始め、付加価値を増やす展開
図2 「攻めのDX投資」により新しい商品、新しいビジネスを始め、付加価値を増やす展開

例えば、売り上げが100だったところ、親企業からの発注が90になったとしても、「攻めの投資」を行い、新しい商品を開発し、20の売り上げが新たに生まれれば、合計110の売り上げとなる。すると、従業員は、賃金が上がり、ボーナスも増え、有給休暇も消化できるなど、「わくわく感」が高まる。

図3 「守りの投資」と「攻めの投資」の比較
図3 「守りの投資」と「攻めの投資」の比較

2021年10月18日掲載