IoT, AI等デジタル化の経済学

第133回「コロナで加速するデジタル投資、加速する雇用への影響」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

1 コロナが加速させたデジタル投資

ロボットは人間の肉体労働を代替する機械であり、人間の手と足の役割をする。人工知能は、人間の頭脳労働を代替する機械であり、目を持っているという特徴があることから、人間が目と頭を使って行う労働を代替する。ロボットは、これまで現場に導入され、肉体労働を代替してきた。大手企業の生産現場を見ると、ほとんど人がいない。人の役割は、ロボットが正常な動きをしているかどうかを監視し、もし不都合が生じた場合には、それを直すことが主な仕事である。人工知能は、事務部門(オフィスワーク部門)に導入され、やがては、今の生産現場と同様、人の役割は、機械が正常に機能しているかどうかを監視し、不測の事態に対応するというのが主な仕事になる。今の生産現場における機械と人間の役割分担が、そのまま事務部門において出現すると考えられる。

機械は、教えたことしかできないので、繰り返し作業しかできない。ただし、その繰り返し作業がどんなに複雑でも、繰り返しであれば、機械はできる。現在、事務部門で繰り返し作業を行っている人は、早晩、機械がその仕事をするようになる。

日本は、デジタル化が遅れているため、加速しなければならないという国や財界挙げての号令に背中を押されて、かつ、コロナの影響から脱却するための景気回復策としてデジタル化が、切り札として投資が加速している。

2 雇用への影響を減らす対策の選択は少ない

日本における付加価値が伸びていないことは数字に明確に現れている。企業の付加価値全体の合計はGDPであるが、米国や中国などはGDPが伸びているが、日本のGDPは、ここのところ、ほぼ平坦である。日本の産業構造は、系列による下請け構造が多く、親企業の付加価値が伸びなければ、下請け企業への発注も伸びず、従って下請け企業の付加価値も伸びない。親企業からの買い上げ金額が伸びないのであれば、企業のデジタル投資は、「守りの投資」と呼ばれるコストダウン・人員削減に向かわざるを得ない。

コロナによって、雇用調整助成金や失業手当の原資が底を突いたとの報道があったが、この中には、コロナの影響を受けてデジタル投資を行い、余剰となった人員の雇止めなども含まれているのではないか。もし企業の付加価値が伸びていれば、人員を削減しなくても、企業内部での配置転換、例えば、事務部門から営業部門に配置転換すれば売り上げは伸びる。こうして雇用を守ることはできるが、付加価値が伸びないと、デジタル投資がそのまま雇止めにつながる可能性がある。

こうした雇用への影響をどう食い止めるか。米国は政府が企業活動に介入しない国なので、企業活動を放置していたため、国民の間の経済格差が広がった。米国政府はこれを是正しようとしない。だが日本ではこうした放置はできないだろう。国が何らかの手を打つことが求められると思われる。その対策としては2通りしかない。それは、事前対策と事後対策である。

事前対策は、雇用への影響が少なくて済むように、事前に対策を打つものである。企業の雇用者にデジタル教育を施し、企業にデジタル化の波が押し寄せても、それに対応できるよう、スキルを高めることである。企業における未来への投資とは、研究開発投資と人的投資の2つがあるが、これまで日本企業は、その2つとも怠ってきた。それはこれまでの統計数字が物語っている。だが、これからは、そのように何もしないでいると、デジタル化により、仕事がなくなる人が続出するだろう。

そうした事前対策を講じてもなお、どうしても雇用へ影響で出ることは避けられない。その事後対策として、影響を最小限にとどめる対策である。その手法も2つしかない。1つ目は、現在の税体系を前提とし、税制を強化することである。すなわち、豊かな人からもう少しだけ税を徴収し、貧しい人への配分をもう少し増やすのである。税体系はそのままにしておく。何か新しい税制が必要かもしれないが、税体系を抜本的に変えることはしない。もう1つの対策は、ベーシックインカムである。これは従来の税体系を抜本的に変え、理由なく全国民に一律に再配分を行うものである。

3 本来の王道

だが、本来の王道は、日本企業が付加価値を伸ばすことである。そうすると、デジタル化されて事務部門の仕事が機械に代替されても、雇用を依然として維持し、社内の配置転換により、雇用を守ることができる。日本企業の成すべきことは、雇止めをすることでも、ベーシックインカム導入を推進することでもない。企業の将来に向けて新しい商品、新しいビジネスを創出し、付加価値を伸ばすことである。それがデジタル化による雇用への影響を最小限に食い止める最善かつ王道の策なのである。

2021年10月13日掲載