IoT, AI等デジタル化の経済学

第132回「デジタルトランスフォーメーション(DX)がもたらす製造業の未来」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

はじめに

製造業へのデジタル技術の実装化が始まって以降、世界中でさまざまな案が出され、実際にさまざまな試みが行われてきた。

そのなかで、実用化が難しいもの、投資金額が大きくて回収できないもの、など現実的でないものが消えていき、その結果、現在では、事業として実用化されそうな形態がほぼ見えつつある。

それは次の5つの局面に分類される。

1)工場の生産現場
2)事務部門のオフィスワーク
3)製品の販売
4)製品へのデジタル技術の実装化
5)アフターメンテナンス

1 工場の生産現場

以下の方法を用いて、工場のなかの全ての稼働中のものの動作をきめ細かく把握する。生産性が低い箇所、非効率な箇所などを突き止め、その原因を解明し(人間による解明、又はAIによる解明)、改善し、工場内の全ての箇所で生産性を上げていく手法である。

  1. 機械設備・生産ラインは、電気信号の取り出し、センサーによる感知、AIカメラによる画像などにより、稼働状況を把握する。
  2. 人間の動きは、AIカメラにより、その動きを把握する。
  3. 原材料・部品・半完成品は、それらにRFIDを付けて、その動きを把握する。

例えば三菱電機では、これまで培ってきたファクトリーオートメーション(FA)の技術にIoTを組み合わせた「e-F@ctory」というサービスが会社一番の稼ぎ頭になっている。日立製作所も「Lumada」というIoTとビッグデータを生かしたデジタルソリューションを今後の柱にすべく力を注いでおり、売上目標もかなり強気である。これらのシステムは既存の出来上がった生産ラインに実装して稼働率を上げる又は止まらない機械を目指すものである。これらの売り上げの好調さに「止まらない機械」「止まらない生産ライン」を実現するDXに対する需要の大きさを見ることができる。

2 事務部門のオフィスワーク

人工知能は、文字どおり、人間の頭脳を人工的に作るものであり、最大の特徴は、目を持っていることである。

今、人間が、目と頭脳を用いて行っている仕事は、基本的に全て人工知能に代替可能である。例えば、領収書、帳票、書類など人間が目で見て判断する業務や人間がパソコンを使って行っている業務などは、全て人工知能により作業可能と言ってもよい。

その結果、人間に残された仕事は、AIが正しく書類をデータとして読み込んでいるかなどAIの誤りを確認する作業、パソコンのなかでの処理が間違っていないかを確認することなどAIの監視業務になる。

現在、大企業の工場のなかでは、自動化された機械設備が動いていて、人間は、その機械を監視するだけになっているが、事務部門も同様の形態になるものと思われる。

3 製品の販売

現在は、消費ニーズの平均値の製品を大量に生産し販売している。この手法は、マスプロダクションと呼ばれる。だが、「早い、大容量、安い、小さい」、というデジタル技術が進化すると、1人1人のニーズに合った製品を個別に生産し販売できる。いわゆる「カスタマイゼーション」が可能になる。

個々人のアプリやSNSなどの操作情報から、その個人のニーズや指向をAIが読み取り、その個人に合ったマーケテイングを行うことができる。例えば、靴の中にいくつかセンサーを埋め込んでおき、靴の使用状況をAIが把握する。靴が、摩耗して使えなくなる直前に、個人のスマホに、間もなく靴が履けなるというアラームとその個人のニーズに合ったいくつか靴の宣伝を送ることができる。「今、この靴を買うと、〇%安く入手できます。」という宣伝文句も一緒に入れておくと、大部分の人は新しい靴を購入するだろう。しかもAIが読み取ったその個人のニーズや指向に基づき、価格を変える、という価格カスタマイゼーションの手法を採用することで、企業は個々人に対する製品と価格の最適化を実現し、利益の最大化を達成することが可能になる。

今、アマゾンなどで行われてるカスタマイズされた宣伝販売法が、もっと大規模、かつきめ細かく、全ての製品と全ての人間に対して行うことができるようになる。マス・プロダクション、マスセールスからカスタマイズ・プロダクション、カスタマイズセールスに変化する。デジタル技術の進歩がそれを可能にするのである。

図表1
図表1

4 製品へのデジタル技術の実装化

製品に新たな付加価値を付け加え、他社と差別化し、利益を得るために、製品にデジタル技術を実装化する手法である。例えば、コマツの重機のなかのチップから取り出した電気信号を、衛星に飛ばして、コマツ本社にて重機の稼働状況を把握する。重機が故障する直前にサービス員がかけつけ、止まらない重機が実現する。もし深い山中の中の露天掘りの現場で、重機が故障して動かなくなれば、巨額の損失が発生する。

DMG森精機の工作機械のなかの各箇所にセンサーが埋め込まれ、工作機械の稼働状況を本社にて把握し、例えば、治具が摩耗する直前に、サービス員が来て交換する。止まらない工作機械となる。もし生産ラインのなかの1台でも工作機械が故障して動かなくなれば、工場全体が停止し、ここでも巨額の損失が発生する。

5 アフターメンテナンス

製品を売って収入を得る、というのが現在の製造業が収益を得る中核的事業形態であるが、今後、アフターメンテナンスが、販売に次ぐ、第二の大きな収益源として拡大するだろう。

製造業は、これまではものの売り切りが中心であった。ものを作って、売ることで利益を得てきた。しかし、ものが行き渡って市場が飽和してくると、以前のような売上は見込めなくなくなる。製造のノウハウを生かした新しい第二の収益源としてアフターメンテナンスが注目されるようになった。

その背景には、アフターメンテナンスを収益の柱にするだけの技術的な環境が整ってきたことが挙げられる。AI、IoT、5G……など、アフターメンテナンスを用いるに当たって、これらの技術を生かし、顧客に新しい価値を提供し、利益を得る手法が確立されてきた。

アフターサービスというと「売ったものが壊れたら駆けつけ、部品を交換して直す」という旧来のイメージがあるが、発想を変えて新しいビジネスモデルを築いた企業が成果を挙げつつある。多種多様なデータを集めた者が勝つ。機械を納め、その稼働状況のデータをリアルタイムで入手して分析し、顧客にサービスを提供する。コマツや森精機など、すでに多くの企業がこのようなサービスを展開してはいるが、これだけではなかなか事業拡大は難しい。大切なのはいかに多くの、多種多様なデータを集められるかであり、さまざまなデータを集めれば集めるほど高度で多面的なサービスを生み出すことができる。

自社が売ったものだけでなく、他社のあらゆる事業の製品、さらには外国製品からもデータを収集してAIで分析すれば、非常に質の高いサービスを生み出すことにつながる。企業内にその専門会社を設立すべきであろう。すでに米国ではそのような企業が生まれており、ドイツをはじめとするヨーロッパも続こうとしている。日本企業は、気が付いたら欧米企業にデータを提供するだけの下請けになり、一番おいしいところは欧米企業に持っていかれることになりかねない。

図表2
図表2

2021年9月9日掲載