IoT, AI等デジタル化の経済学

第127回「コロナ禍で加速する製造現場のリモートワーク化」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

1 はじめに

コロナ禍でリモートワークが拡大しているが、世間の注目が集まっているのは、ホワイトカラーによるオフィスワークの領域である。一方、製造現場は、出勤して、モノと対峙しないいけない作業なので、リモートワークを検討する対象にはならない、というのが恐らく多くの人の考えではないかと思う。

だが、現実には、コロナ禍を契機に、製造現場でもリモートワーク化が加速化している。それを紹介しよう。

2 製造現場におけるこれまでのデジタル・トランスフォーメーション

第4次産業革命の進展の下、これまで製造現場でもデジタル・トランスフォーメーションは着実に進んできた。その背景は以下のとおりである。

(1)技術進歩

下記に全ての作業を人間が行う「人海戦術」の状態から、機械が担う作業と人間が担う作業への分化についてのイメージ図を挙げている。

技術進歩に伴って、これまで人間が行ってきたさまざまな作業が、機械が担う作業と、人間が担う作業に分化していく。

分化が進化すると、人間がどうしてもやらなければならない作業だけが残る。

人間に求められる能力は、ますます「高いスキル」が求められるようになる。

(2)熟練作業員の高齢化・不足化

日本全体の高齢化に伴い、製造現場で働く熟練作業員も高齢化し、かつ必要な人数自体が不足してきている。そのため、必然的に、不足した人数分や作業量分を機械で代替してきた。

機械が人間を代替していく過程 イメージ

3 コロナ禍で進んでいる製造現場でのデジタル・トランスフォーメーション

以上の通り、従来から製造現場では、デジタル・トランスフォーメーションが進んでいたが、さらにコロナによる追い打ちをかけられ、デジタル・トランスフォーメーションがさらに一層加速化することとなっている。

コロナ禍を要因とするデジタル・トランスフォーメーションはリモートワーク化である。既に技術的には可能ではあったが、なかなか導入する必然性が乏しかったが、コロナの影響を受けて、今、一気に加速している。

例えば、以下のような事例がある。

1)Webカメラで製造現場を離れて監視
2)製品の検査をリモートによる遠隔で実施
3)ほとんど人間の手のような繊細な動きが可能なロボットを導入(注1)(注2
4)設計工程で用いている3D/CDADを自宅で使用
5)生産準備工程の支援ツールをリモートで自宅から操作
6)職人が自宅から沿革操作で工場内の溶接機を操作して溶接を行う

4 おわりに

ニーズがあるところに、製品は生まれる。オフィワークにリモートワーク化のニーズが生まれたのと同様、製造現場でもリモートワーク化のニーズは当然生まれている。企業はそのニーズを見逃さない。

製造現場でのリモートワーク化が進めば、製造企業の業務のなかで、本当にリモートワーク化が出来ない業務は、ほとんど無くなるのである。

脚注
  1. ^ これまで、工場の現場では、例えばとても細かい部品を取ってきて小さいものを組み立てたり、機械の裏側に人間が入り込んで組み立てるような作業は、ロボットにはできない、人間でないとできないと言われてきた。
    だが、今のロボットは、人間の手とほとんど同じような繊細な動きができるロボットが作られている。床から人間の手が生えている、という錯覚に陥るようなロボットだ。
  2. ^ こうした需要の高まりを受けて、ロボットメーカーにおいても、そうしたロボットの生産を増やしている。例えば、下記の新聞記事を参照。
    「コロナ対策でロボ需要、人と協働、ファナック、3倍に増産」、『日本経済新聞(電子版)』、2020年9月7日、https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63509970W0A900C2MM8000/?unlock=1 (2021年2月24日アクセス)
    概要:工場での感染リスクが高まる中、生産ラインで人間のそばで作業できるロボットの需要が高まり、ファナックは2021年には2020年の3倍に増産する。三菱電機や芝浦機械も参入する。

2021年3月2日掲載

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