1 はじめに
2020年、コロナの影響で訪問が困難なドイツとの間で、国際カンファレンスを行っている。本来ならドイツ側のチームが来日する予定であったが、コロナの感染拡大のため、ウェブ会議となった。1回あたり約2時間、計4回という形態であり、従来のように丸1日潰すようなカンファレンス形態でなく、参加者全員が時間を融通し合っている。国際カンファレンスはむしろこの形態の方が無理がなく、今後はこの形態の方が主流になるのではないかと感じている。
私は日本側の代表を務めているが、ドイツ側は、ヘッセン州のミッテルヘッセン工科大学ビジネススクールを中心とする以下のメンバーである。
本プロジェクトは、「Digital Manufacturing Research Initiative」、略して「DIGIMARI」(デジ真理)と呼ばれている(注1)。同プロジェクトは、ドイツ政府教育研究省が実施する国際研究マーケティングキャンペーン「仕事の未来(The Future of Work)」傘下で運営されている10のプロジェクトのうちの1つである(注2)。
本稿は、このうち、ドイツにおける中小企業・製造業のデジタルトランスフォーメーション事情に関するドイツ側の発表資料の中から、一部を引用して紹介するものである。
2 ヘッセン州に立地する企業の人工知能の使用状況
本章では、Prof. Dr. Sven Kellerのプレゼン内容から引用紹介する。資料のタイトルは、
Knowledge and usage of Artificial Intelligence in companies of Central Hessen - Analysis of the AI maturity of companies in a qualitative study –
である。アンケート調査に回答した企業数は15社である。その属性は以下の通りである(図表1、図表2)。
まず、AIにより何を追求するか、いう問いに対しては、プロセス・オートメーション&最適化が13社、製品・サービスの改善が9社、誤りの低下が8社、マーケティング予測が6社である(複数回答)。回答企業は15社のうち7社が200人未満である。中小企業であっても、AIを用いてかなり高度なことを追求しているというのが実感である。日本の中小企業と比べて目線がかなり高いと感じる。
雇用に対する影響に関しては、雇用を失うという恐怖が7社ではあるが、それ以外の19社は、AI導入を前向きにとらえている。ここにも、中小企業であっても、AI導入を前向きに捕えようとするドイツ企業の気風が感じられる。
AI導入に当たって支援を求めた先は、大学が6社、他の企業が6社などとなっていて、自分の会社だけで悩むのでなく、外部に協力を求めるオープンイノベーションの気風が感じられる。ここにも日本との違いが感じられる。
次は、AIを主に適用する分野を聞いたものである。私は、この回答は大企業かと見間違うほどだった。中小企業であっても、将来に期待する先進性が日本とは違っているという印象を受けた。
3 ドイツ企業の人工知能・ビッグデータによるビジネス状況
本章では、Prof. Dr. Gerrit Samesのプレゼン内容から引用紹介する。資料のタイトルは、
Industry 4.0 Research Results Concerning Business Processes and Economical Results from Smart Electronic Factory
である。アンケート調査の発送数は868社、回答した企業数は155社である。その属性は以下のとおりである(図表7、図表8)。
同教授は、ドイツ企業におけるデジタル化の進捗はまだまだ初期段階にあると結論付けている(図表9、図表10)。
だが、同調査の中の下記の調査項目を見ると、機械の稼働データを入手して機械の状況をモニターする事業を行っている企業がグレード3が8%、グレード4が3%もある。さらに、AIをメンテナンス予測に用いている企業はグレード3が4%、グレード4が4%ある。この回答は、ドイツ企業は日本企業よりもはるか先を行っていると感じる。
注1)「デジ真理」プロジェクトの概要
「デジ真理」は、中小規模製造業のDX推進のための日独プラットフォーム構築を目的とするプロジェクトである。ミッテルヘッセン工科大学経営学部教授ニルス・マデーヤ氏が、同僚ゲリット・ザーメス教授の協力のもと2019年に立ち上げた。ヘッセン州から3つの団体がパートナーとして参加している。詳細はプロジェクトホームページを参照。https://digimari.net/
デジタルビジネス研究を専門とするマデーヤ教授は、同プロジェクトを通して「デジタル化や人工知能、インダストリー4.0は製造業の未来にいかなるチャンスをもたらすのか」という問いに挑み、新たなビジネスモデルの可能性を追究する。
注2)国際研究マーケティングキャンペーン「仕事の未来(The Future of Work)」
ドイツ連邦教育研究省は2006年以来、「Research in Germany」ブランドの下8つの国際研究マーケティングキャンペーンを実施し、優秀な産学ネットワークの国際展開を支援してきた。これまでに総額720万ユーロを投じて計82組のネットワークを助成し、新規研究開発プロジェクト立ち上げ100件、連携協定締結192件という成果を収めている。現行の「仕事の未来(The Future of Work)」キャンペーンは、科学技術イノベーション基本政策「ハイテク戦略2025」で定義されたミッションの1つである「経済と労働4.0」の推進を目的としており、連携対象国は日本、米国、フランスの3カ国である。2019年6月から2020年11月までの18カ月間、10のプロジェクトがキャンペーン傘下で活動を展開する。詳細は同キャンペーンホームページを参照されたい。https://www.research-in-germany.org/the-future-of-work.html