IoT, AI等デジタル化の経済学

第118回「COVID-19後の世界における製造業の方向性(2)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

2020年5月28日、日独の専門家どうしによるWebカンファレンス「Germany-Japan Expert Meeting、Web conference on manufacturing policy in the world of post COVID-19」が行われた。この会合は、ドイツ側は Plattform Industrie4.0とドイツ工学アカデミー(acatech)、日本側はロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)の3者による共同プロジェクトとして行われた。

参加者は、ドイツ側はダルムシュタット工科大学のReiner Anderl教授とアーヘン工科大学のThomas Gries教授が参加。日本からは、木村文彦 東京大学名誉教授、三菱電機の馬場丈典氏、日立製作所の野中洋一氏と筆者の4名が参加した。

筆者のプレゼン内容を以下に紹介する。

1 ものづくりにとっての緊急の課題

われわれ人類は、ワクチン・治療薬が開発されるまで、COVID-19と共存せざるを得ない。その期間は、1年先かもしれないし、数年先になるかもしれない。しかもMERS、SARSなどを見ればわかるように、最近のインフルエンザウイルスの変異は早く、かつ急速に強力になりつつあり、今後、更に強力なウイルスが登場する可能性がある。我々は次期ウイルス到来に備える必要がある。

世界中の企業が、COVID-19の影響で大きく落ち込んだ業績を回復するため、デジタル化を一気に加速する。強い米国企業が、更に強くなる。わが国の製造業は、そのデジタル化の早い流れに追従しなければならない。

2 人間の配置の「最適化」

製造業はこれまで、工場およびサプライチェーンの配置を「最適化」してきた。だが、人間の働き場所の配置は「最適化」してこなかった。全員を1カ所に集め、9時から5時まで働かせるという大量集団方式である。昭和初期に出来上がった、この働き方が、その企業にとって、最大パフォーマンスを発揮させる「最適化」なのだろうか。恐らく「否」であろう。

昭和初期は、同一的な人間を大量生産する教育が一般的であったため、旧軍隊的なチーム制でよかったのかもしれない。「和を以て貴しとなす」という言葉が表すように、仕事のパフォーマンスよりも、人間関係が重視されたのもこうした背景がある。「出る杭は打たれる」とも言われた。だが、今の日本企業は、出る杭を打ったり、仕事よりも和を大切にするほどの余裕はない。ある人は、片道2時間かけて通勤すると会社に着いたときには疲れ切ってしまっているかもしれない。ある人は小さな子供や親の面倒を見なければいけないかもしれない。ある人は喫茶店でパソコンを打った方が能率があがるかもしれない。私見だが、今の若い人の中には「通勤時間は人生の無駄な時間だ」と公言する人々がかなり増えていると感じている。

昭和初期ならともかく、今の日本人は多様な個性と才能を持つ。個々人によって最大のパフォーマンスを発揮する「働き方」は恐らく全員同じである筈がない。しかも、今回のCOVID-19の影響で、テレワークを実際に体験した人々のなかには、その方が働きやすく、仕事の能率も上がることがわかった人々も多いだろう。そういう人々は、もはや元の働き方には戻れない。

製造業はこれまで、工場及びサプライチェーンの配置の「最適化」には熱心でも、人間の配置の「最適化」には無関心だった。だが人間の配置を「最適化」すれば企業の生産性は増え、売上はもっと増えることを企業は理解したのである。

誤解を恐れずに大胆に言えば、「製造業は、どうしても目の前のモノを扱う必要がある業務以外は、全てリモート化することが可能である。技術的には可能である。繰り返し業務は全てAIによる代替化により自動化が可能である。これもまた技術的には可能である。」と言って良い。どのような高度な技能であっても、繰り返し業務である限り、必ずプログラム化が可能である。

日本企業は、あらゆることが、横並びで進む。現在、日本企業において、リモート化・AI化が、横並びで急速に進んでいる。リモート化・AI化は、企業の業務改革、無駄な作業の洗い出し、働きやすい職場の実現、生産性の向上などの一環として進めると、容易に進めやすい。

だが誤解して欲しくないのは、私は何でもかんでもテレワークしろと言っているのではない。人によっては、会社に出勤した方が能率が上がるという人もいるだろうし、面と向かい合って話をした方が自分には合っているという人もいるだろう。同じ業務であっても人によって最適な「働き方」は違うのだ。業務内容によっては、リモート化してはいけない業務、必ずしもリモート化する必要がない業務がある。それをなんでもかんでもリモート化しろというのもまたまた企業のパフォーマンスを落とす要因になる。人間にとって働きたやすい職場を作ることが理想なのだ。

製造業のそれぞれに業務について考えてみよう。間接部門は、事務職であり、テレワーク化・AI化は可能である。直接部門であっても、目の前にモノがないとできない仕事以外は全てオフィス業務であり、全てテレワーク化・AI化が可能である。例えば、商品の企画開発部門及び設計部門はテレワーク化・AI化が可能である。商品を販売した後のユーザーが使用中の製品から得られるビッグデータに基づき行なわれる各種サービスもテレワーク化・AI化が可能である(図表1)。もしかしてこの部分がこれからの製造業の主要な収入源になる可能性もある。製造ラインも、ロボットやAIを導入し、リモート制御することで、テレワーク化が可能である。

図表1:将来の製造業のデジタルトランスフォーメーション
図表1:将来の製造業のデジタルトランスフォーメーション

(図表1)の左側が、現在のビジネスモデルであり、右側が将来のビジネスモデルである。ユーザーは、製造メーカーから提供された製品を使用し、そこから得られたビッグデータをIoTプラットフォーマーに提供し、サービスプロバイダーが、データを分析し、新しいサービスを開発し、それをユーザーに提供する。このビジネスは、リモート化・AI化が可能である。

筆者自身、先日、ドイツの専門家との打ち合わせをWebで行ってみた。また最近の研究会、セミナー、打ち合わせ会議などが全てWebであることを体験した結果から言えば、①自分の部屋でくつろぎながら参加できる。トイレにも行ける。コーヒーを飲みながらも可能。②夏の暑い日、豪雨の日であっても、移動する必要がない。そのため一部の時間だけでも簡単に参加できる。移動する場合には、出立して帰って来るまでの間、他のことは何も出来ない。③会議に参加しながら、同時並行的にパソコンで仕事ができる。④国際会議も簡単にできる。わざわざ海外出張する必要がない。といういいことばかり。デメリットは何もない。これらもずっとWebを続けたいと思う。

そうすると、人間と機械の役割分担について、よく検討する必要がある。製造業の業務は、人間と機械がお互いに、役割分担をしながら、作業を進めるものである。だが、COVID-19以降、人間の役割、機械の役割、人間と機械の役割分担の境界が見直される可能性がある。今後のインフルエンザの影響を考慮し、将来を見据えた、人間と機械の良好な関係とはいったいどのような関係なのだろうか。その研究は、MMI(Human Machine Interaction)と呼ばれている。

3 第四次産業革命のデジタル化の流れ

これまでのデジタル化は、大きな2つの流れがあった。
(1)これまでは現場のブルーワーカーの手作業のルーティン業務(Routine manual)がロボットに置き替わってきたが、今後は、オフォスで働くホワイトカラーの事務作業のルーティン業務(Routine cognitive)がAIに置き替わる。
(2)センサー、半導体、メモリ、通信容量等が急速に、高速化、小型化、大量化が進む。個人ごとのニーズをとらえることが可能になり、一人一人のニーズに合った商品・サービスを提供する「カスタマイズ化」が進行する。
(3)更に、今後は、3つ目の大きな流れとして、企業における業務のリモート化が加速するため、そのニーズに応えるリモートビジネスが大きな市場として急成長すると予想される。
新型コロナ後、企業は業績を回復するため、上記の流れが一気に加速するだろう。

人間も企業も、その行動様式が大きく変容するとき、失われる市場もあるが、新しく生まれる市場もある。その新市場は恐らく、巨大で、しかもデジタル技術が優劣を決める市場であろう。

2020年7月29日掲載

この著者の記事