IoT, AI等デジタル化の経済学

第117回「COVID-19後の世界における製造業の方向性(1)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

2020年5月28日、日独の専門家どうしによるWebカンファレンス「Germany-Japan Expert Meeting、Web conference on manufacturing policy in the world of post COVID-19」が行われた。この会合は、ドイツ側は Plattform Industrie4.0とドイツ工学アカデミー(acatech)、日本側はロボット革命・産業IoTイニシアティブ協議会(RRI)の3者による共同プロジェクトとして行われた。

参加者は、ドイツ側はダルムシュタット工科大学のReiner Anderl教授とアーヘン工科大学のThomas Gries教授が参加。日本からは、木村文彦 東京大学名誉教授、三菱電機の馬場 丈典氏、日立製作所の野中洋一氏と筆者の4名が参加した。

ドイツ側のPlattform Industrie4.0は、インダストリー4.0プロジェクトを推進するためにドイツ政府(連邦経済エネルギー省)が推進母体として設立した機関である。Anderl教授はPlattform Industrie4.0 Research Councilの委員長も務めている。ドイツ工学アカデミー(acatech)は、インダストリー4.0を提唱した機関であり、ドイツにおけるデジタルトランスフォーメーションを推進する中心機関である。

ドイツのPlattform Industrie4.0の日本側カウンターパートであるRRIは、「ロボット新戦略」(2015年2月10日、日本経済再生本部決定)に基づいて設立された機関であり、日本における製造業のデジタルトランスフォーメーションを推進する中心的な機関である。

COVID-19による製造業への影響は甚大であったため、COVID-19後の製造業は一体どうあるべきか、という課題に関し、ともに製造業が産業の中心を占める日本とドイツの両国から製造業のデジタルトランスフォーメーションを推進する中核機関と同分野の専門家が、上記テーマに関して議論を行うため、Webカンファレンスを開催したものである。この成果と言える「声明文」は、ドイツ側の Plattform Industrie4.0と日本側RRIのHPに、日独共同研究の成果として掲載されている。

カンファレンスは、まず、日立製作所の野中洋一氏が、Motivation、Fundamental questions、Goal of this discussionを説明した。次いで、討論に入り、「About manufacturing management strategy」のテーマに関して、筆者とReiner Anderl教授がプレゼンを行い、その後、自由討論を行った。次いで、「About manufacturing technologies」のテーマに関して、木村文彦東京大学名誉教授、三菱電機の馬場 丈典氏、Thomas Gries教授がプレゼンを行い、その後、自由討論を行った。最後に、日立製作所の野中洋一氏とReiner Anderl教授がクロージングリマークスを行った。カンファレンス終了後、日立製作所の野中洋一氏が「声明文」(案)を作成し、日独の参加者が追加修正し、最終的に、Plattform Industrie4.0とRRIの双方の内部決済を経て、下記の「声明文」となった。

カンファレンスで合意した内容は以下のとおりである。製造業はリモートワークできないのではないかと言われていたが、リモートワークなど製造の自動化に関わる多くの技術が適用可能状態にあることが合意された。またCOVID-19後は、経済を立て直すために世界中でデジタルトランスフォーメーションが急速に加速されるであろうとの見通しで一致した。ただ導入の仕方については日独間で若干の相違があるとの議論がなされた。またCOVID-19の影響で製造業のサプライチェーンのあり方についても大きな課題としてクローズアップされ、「コスト競争力のある」から「付加価値とリスク競争力のある」へとの転換が重要であるとの認識で一致した。

筆者のプレゼン内容及びそれに続く自由討論の内容に関しては、本稿に続く(2)において記述する。

Program 1.Opening  10:00-10:10CEST Dr. Nonaka 2.Current situation of COVID-19  10:10-10:20CEST Dr. Nonaka  10:20-10:35CEST Discussions 3. New issues and solution policy for manufacturing in the world post COVID-19  3.a About manufacturing management strategy   (Work style reformation, Multinational production, …)   10:35-10:45CEST Mr. Iwamoto   10:45-10:55CEST Prof. Anderl   10:55-11:10CEST Discussions  3.b About manufacturing technologies   (SCM, Production Control, Automation, AR/VR, AM, …)   11:10-11:20CEST Prof.Kimura   11:20-11:30CEST Mr. Baba   11:30-11:40CEST Prof. Gries   11:40-11:55CEST Discussions 4. Closing 11:55-12:00CEST  Our message as the summary Dr. Nonaka  Closing Remarks Prof. Anderl, Prof. Kimura

Motivation

  1. The world of Post COVID-19 have begun at research institutions around the world, and also in Japan, the momentum of this discussion has become hot in industry and academia.
  2. It is said that manufacturing cannot make COVID-19 correspondence because telework cannot be done, so it is necessary to make a detailed analysis and formulate a solution policy.
  3. According to this motivation, a web conference with voluntary experts from Germany and Japan has been organized.
  4. In the end, it seems to an essential problem of Human-Machine-Interaction in a broad sense, human and machine in the digital society, cyber and physical, etc., as we discussed in the last acatech discussion paper, and the policy can be clarified with these discussions.

Fundamental questions

  1. Isn't it true that manufacturing cannot handle pandemics because it cannot do telework?
  2. Is it true that there is no choice but to cut off the supply chain, and we cannot manufacture products because the materials do not come?
  3. In the first place, in the history of humankind, the social system that has strongly promoted horizontal division of labor under the name of globalization at the individual, village, national, and global levels to improve economic efficiency, has caused the current worsening situation beyond the Great Depression. If so, what are the issues that were overlooked so far?

Goal of this discussion

  1. Understanding the COVID-19 impact on manufacturing, understanding the similarities and differences between Germany and Japan.
  2. What should be solved in a co-operative way for the world of Post COVID-19?

声明文

日独有識者会合「アフターコロナの世界におけるものづくり」

アフターコロナの世界に向けたものづくりの課題と方針について、日独有識者会合を5 月28 日にWeb で開きました。これはロボット革命・産業IoT イニシアティブ協議会 (RRI)、ドイツPlattformIndustrie4.0、ドイツ工学アカデミー(acatech)の共同事業として開催したものです。

ものづくりはテレワークができないのでコロナには対応ができないと言われていますが、果たしてそれはそうなのか、解決に向けた社会課題が潜んでいないか、このモチベーションで日独の有識者が集まり、アフターコロナの世界におけるものづくりの指針を議論しました。

コロナ災厄によってAutomation と高度なデジタル化が加速されるか、の問いについては、両国のデジタル化が全般的に強化される点で合意しましたが、その度合いや適用の考え方については日独で差が見え、非常に興味深い議論が交わされました。日本は人の作業を機械に置き換えていく考え方、ドイツはエンジニアリングプロセスの自動化や人と機械のコラボレーションなどのデジタルツールが人の活動をサポートしていく、つまり人の作業を機械に置き換えるよりも製造プロセスを中心にした考え方がありそうだと意見を交わしました。さらにドイツからは所謂デジタルツインの潜在能力を最大限に活用するための、サプライヤーや顧客間でのデータの共有の重要性が提起されました。COVID-19 により既存のバリューチェーンがいかに脆弱であり、透明性が欠けているかが示されましたが、既存の標準とセキュリティメカニズムに基づいた共有デジタルツインがより透明で機敏性のある経済的な製造プロセスを可能とするという考え方です。また、Model-based Digital Product/Digital Production/Digital Value Chain、これが今後の世界を形作る上で大事な考え方だ、とのドイツ有識者の主張に対し、AI、AR/VR、Robotics など適用できそうな要素技術は揃っており、技術的には可能であるため、論点はそれをどう社会に実装していくか、人々の意識をいかに変えていくか、システムデザインが非常に大事になる、と日本の有識者は返答しました。

そして、ゴールは「POST COVID-19」ではなく、危機への耐性を高めた「WITH COVID-19」だ、パンデミックの歴史をみると、経済回復には3~9年を要しており、我々はデジタル技術を用いて、社会の仕組みをその前提で早急に作り変える構造改革を加速しなければならないと合議し、以下の共同声明を作成しました。

  1. 社会のデジタルトランスフォーメーションによって、「コスト競争力のある」パラダイムの時代から、「付加価値とリスク競争力のある」パラダイムの新しい時代へと変革を加速し、持続可能で回復力のある経済と社会の実現を目指さなければならない。
  2. そのためには、新たな時代における、製品、生産、サービス、価値ネットワーク、サプライチェーン、システム、社会の設計の方針を国際的に議論し作成する必要がある。
  3. 実際の設計においては、日本とドイツの違いだけでなく、企業のニーズのいにも考慮しながら考えていく必要がある。私達はそれぞれの技術における異なる視野を取り入れることで、新しい先進的な洞察とソリューションをもたらすことができると考える。

今後は、上記声明の実現を目指して、日独連携を更に強化していきます。

2020年7月9日掲載

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