IoT, AI等デジタル化の経済学

第115回「デジタル技術が作る未来社会(その13)」

岩本 晃一
リサーチアソシエイト/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。今回の内容は、「Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用」である。

Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用(3)
ドイツ国家プロジェクトに参加している専門家との意見交換

【専門家】 今のドイツにおける背景を説明したいと思います。それがインダストリー4.0の背景でもあります。

ドイツでは、サイバーフィジカルシステムが2012年に導入されました。そこに科学者や企業が参加をして、インダストリー4.0プラットフォームをつくりました。インダストリー4.0には4つのワーキンググループ、それは研究ワーキンググループ、標準化ワーキンググループ、雇用ワーキンググループ、法律ワーキンググループがつくられました。

プラットフォームでは、技術、法律だけではなくて、ビジネスモデルを考えないといけません。企業のビジネスモデルが大きく変わるので、スマートサービスワールドブロックも同時に進みました。2017年に、スマートサービスワールドブロックをインダストリー4.0に組み込みました。新しいワーキンググループができまして、デジタルビジネスモデルをつくることになりました。このワーキンググループで、さまざまなビジネスモデルの研究が始まったわけです。

このテーマはなぜ重要か、ということを説明したいと思います。ビジネスモデルが変わると、付加価値構造それ自体も変わってきます。特に、企業は柔軟性の高いビジネスを展開していかないと、特に中小企業ではそれがとても大事です。デジタル経済のインパクトは、これまではB to Cの分野で非常に大きい進展がありました。例えば、米国のアマゾンとか、ウーバーなどでは大きな変化がありました。また、ドイツでも状況が非常に大きく変わりました。社会に対する影響も非常に強かったわけです。

ドイツや欧州で、米国のプラットフォーマーは、デジタル技術によってとても大きく成長しました。今のままでは、ドイツの企業は米国に負けてしまうかもしれませんが、従来のドイツのノウハウを使うことによってデジタル化することによって、ドイツの企業もこれから大きく成長できるかという段階に、今、差しかかっています。

その考え方は、サッカーに例えられています。これまで、サッカーは前半戦でした。その前半戦ではB to Cという戦いですが、そこでは米国が圧勝しました。けれど、後半戦の戦いはB to Bです。このB to Bで、ドイツは勝てるだろうか、ドイツはこのB to Bの戦いで勝たなければいけないというふうに考えています。このB to Bの戦いでは、政治、社会、労働組合からのサポートが必要です。

B to BのビジネスとB to Cのビジネスは大きく違います。B to Bビジネスの現実がどうなっているかというのを説明したいと思います。それは、デジタルにとって付加価値とは一体何かということです。これまでは、アナログのセンサーを付けて、センサーからデータを収集してきました。ですが、これからアナログからデジタルの世界に変わるわけですが、デジタルの世界にとりましてデータはまさに材料です。デジタルの付加価値は、まずハードを付けることが必要です。そこからデータを取り、それを分析するデータ分析という2つのものが必要です。このように、B to BとB to Cの違いは、全く違うわけです。

データはデジタル化にとりまして、いわゆる原材料と考えられます。付加価値を創出するのは、データそのものです。ですが、個人データを収集することは非常に難しい点があります。まず、われわれは、データを取るためにいろんなアプローチが必要です。まず、データ管理のモデルをつくる必要があります。これは、B to Bでどのようにアクセスするかという定義をする必要から始まります。われわれは、企業と協力しながら、この定義をつくり上げなければなりません。

ドイツで初めてこの定義を開発したのが自動車業界でして、それはネバダモデルと呼ばれています。車、自動車でのアクセスを定義したわけです。そこは、契約書を作ることでデータを決めることができます。

そのデータを管理する上で、私たちは3つのバランスを取らなくてはなりません。1つ目はイノベーション、2つ目は個人データの保護、3つ目は平等な競争を可能にするという点です。企業は、安全な環境の下でデータを提供するためには保護を受けなければなりませんし、あと、競争ルールを守らないといけません。安全な環境を守るためには契約書を作らないといけません。契約書がないと、新しいビジネスモデルを作ることができません。

(図表1)の左側は、非常に伝統的なモデルです。例えば、工作機械メーカーがユーザーに工作機械を販売します。ユーザーとメーカーの間で契約を結ぶことにより、メーカーはこの機械に対するメンテナンス契約、メンテナンスサービスを行ってきました。従来の伝統的なモデルは、メーカーが単に販売した機械のメンテナンスを行うというだけでした。ですが、最近では、ユーザーがメーカーに対して、機械関係のデータを提供することによって、メーカーがユーザーに対して様々なデータに基づくサービスを提供するようになってきています。これが現状です。

図表1:ドイツにおける製造業の未来
図表1:ドイツにおける製造業の未来
(出典)2019年11月のドイツ専門家との意見交換を基に岩本作成

どのデータを提供するかというのは、ユーザーとメーカーの間の契約によります。ユーザーは、いろんなメーカーの機械を使っていますので、ユーザーはいろんなメーカーと契約を結ぶことになります。ですが、メーカーは同じテーマ、同じデータをユーザーからもらいたいというふうに思っております。ユーザーは、いろいろなメーカーから機械を買っており、様々な提供を受けています。

B to Bがうまく働くためには、データが使われる、データの提供範囲、その保存について決める必要があります。まず、第一に、IoTプラットフォーマーが直接メーカーと契約することでデータの提供を受けます。二番目に、独立したサービスプロバイダーにデータを提供します。これは、ユーザーが了解をしなければなりません。この新しいサービスプロバイダーが新しいビジネスモデルになります。

この形態は非常に複雑であり、ユーザーが非常に多くてデータが、もしこの新しいサービスプロバイダーが存在しなければ、メーカーがメンテナンスサービスを直接ユーザーに対して提供することになります。ユーザーにとってはメリットかもしれませんが、メーカーにとってはデメリットになるかもしれません。

今のドイツの現状を見ますと、まず独立したサービスプロバイダーがとても少ないです。機械のノウハウも持っていません。機械メーカーは損を出したことがないので、機械メーカー自体が提供するということはありますが、このように機械を販売した後のサービスの提供の形態としては2つのパターンがあります。1つは、機械メーカー自体がユーザーに対してサポートを、サービスを提供するという手段、パターンであります。2つ目は、第三者が現れて、まったく新しいサービスを提供するという新しいビジネスモデルであります。

IoTプラットフォーマーが、この全体のネットワークの中でオペレーショナルテクノロジーを担うわけです。アマゾンの中には、すでにIoT、ITプラットフォーマーが、すでにオペレーショナルテクノロジーが入っております。そこに、ドイツは今、チャレンジしているわけです。

その収益性を考えてみたいと思います。ドイツのシーメンスの例を挙げたいと思います。シーメンスは、電車の貨車を販売していますが、これにセンサーを付け、データを収集するという新しい分野を開拓しています。

この電車のルートでは、モビリティーを保障しなければなりません。その2つの例があります。スペイン、マドリッド、バルセロナのデータサービスを行いました。その結果、電車の稼働率が99.9%になりました。ロシアのサンクトペテルブルク、モスクワにおきまして、ここは非常に雲が多いところであり、雨が多いところで、センサーを付けることにより、1000万キロメートルをノンストップで走るという予防保全を実現することが可能になりました。ロシアには、シーメンスは17台の電車を販売しました。

基本的なことをご紹介すると、米国のGAFAは、B to Bといえるものでは、現在、ありませんが、B to Bに非常に強い意欲を示しています。B to BとB to Cの共通の技術は、GAFAにとっても非常に強いプラットフォーマーとしての経験があります。グーグルは、ドイツにおいて、このB to Bのサービスを始めるために、ネストという会社を買収しました。グーグルは、このB to Bのビジネスでも、非常に意欲的です。このままでは、ドイツがノウハウを蓄積しないと、米国や中国に負けてしまうことになるのではないかと思います。

2020年4月15日掲載

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