IoT, AI等デジタル化の経済学

第112回「デジタル技術が作る未来社会(その10)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。今回の内容は、「Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用」である。

Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用(4)
ウィーン工科大学 セバスチャン・シュルンド教授との意見交換

【シュルンド】 私はHMI、ヒューマンマシーンインタラクションに関する研究を行っています。トラストロボットと呼ばれているプログラムで、全員で12人のPHDスチューデントが参加しています。そして10人ぐらいのウィーン工科大学の教授が参加します。それぞれの教授と学生は違う分野に集中して研究を行っています。違うアスペクトに集中して研究を行っています。ヒューマノイドも使われています。ペッパー2人、ナウ1人です。私はあまりペッパーとかヒューマノイドに関わってないですけれども、私は主に組み立てラインで使われているロボット、コーボットに集中して研究を行っています。

まずは私の研究している内容は組み立てラインで人間とロボットの役割分担の定義です。役割分担には、いろんなアプローチがあります。

まずは1つ目、左目の方はレフトオーバーと呼ばれていますが、できるだけ、全部自動化にするアプローチです。自動的に行われる、つまりロボットにやらせる。ロボットができない仕事だけを人間にやらせるというアプローチがまず1つ目の形です。

2つ目の方は、コンペンセーチュレイトというアプローチです。つまり人間とロボットにそれぞれのできるタスクを1回決めてやらせる。それは50年代に初めて導入された、昔から使われているアプローチです。ただ、一度には結構柔軟性がなくて、スタティックと呼ばれています。静的なシステムで、動的でなくて、つまり1回タスクを決めて、後で環境が変わっても何も変えられないので、現在結構製造環境がよく変わってしまうし、プロセスも結構柔軟性が高いです。例えばロットサイズが変わると、合わせられない、対応できないという問題があります。そして他のデメリットは、人間は一度、これだけの仕事をずっとやっていて、ロボットはずっと同じ仕事をやっていて、そうすると人間が全体的なイメージとか、その機械で何ができるのかとか、その製造ラインで何が実際にやられるのかということを忘れて理解できなくなるので、あまりよくないと思います。

ですから私は3番目のコピーマネージャーという3つ目のアプローチに集中して研究を行います。つまり人間とロボットは1つのチームになります。実際に製造ラインとか組み立てラインで仕事をするオペレーターが、ロボットが何をすればよいかということを決めたほうがよいと思います。

こちらでもう一度、左側のほうは1度2番ですね、静的なアプローチがあります。1回この役割分担を決めて、その後何も変えないというアプローチで、右のほうは柔軟性の高いアプローチです。だから人とロボットに、本当に状況によって役割分担を決める。つまり例えばロットサイズとか品質とか、いろいろな状況、条件に基づいて毎回柔軟的に決めるということです。

私の研究で一番の大きな質問は、その3つ目のアプローチをどういうふうに位置付けていけるのか、その3つ目のアプローチを実現するための仕組み、やり方を見つけることです。そしてもちろんそのシステムの評価も行いたいと思います。

そのシステムを評価するためにいろいろな実験も行います。すでにいくつかのテストとか実験を行いました。それは1つのテストで、作業台にロボットを、人間と協力しながらあるタスクをやらせました。その時間、かかる時間とコストを分析しました。今はその結果を基にしてペーパーをこれから発行する予定です。

そしてウィーン工科大学のPHDコレッキーで行われているプロジェクトに、ペッパーというヒューマノイドはそのタスクをやっている人を応援しました。行動的に応援しました。そのロボットの応援で、その人の製造性が上がったかどうか、変わったかどうかということも確認しました。

もう1つの活動は、ワークショップですが、そのロボットをどういうふうにプログラミングできるか、どういうふうに教育させるか、ティーチングできるか、ということを教えるワークショップも行います。

そしてウィーン工科大学では、それらを行うパイロット工場があります。研究用の工場がありまして、そこでいろいろデモンストレーションを行うため、または学生に、その技術の使い方を教えるために、また実験を行うためにロボットを使っています。今、私たちがそのパイロット工場で持っているコーボットですが、いろいろな実験を行っています。その技術を使うことで人はどういうふうにベネフィットできるものか、どのような使い方があるのか、そしてイントゥイティブ・プログラムと呼ばれていますけれども、ユーザビリティが高く分かりやすいプログラミングをどういうふうに実現できるかということを、いろいろな実験で研究しています。

その3つ目のアプローチを私はどういうふうに使いたいか、どういうふうに実現したいかということを見える化してみました。

ニック社の組み立てですが、まだ全自動化されていない組み立てで、ロボットはハンドリングだけをして、人間とロボットの役割分担を見せたいと思います。自分でどれが何をやればよいかということを選びます。プロセス見える化になります。役割分担が見えます。

そして、もし必要であれば、人間がロボットに全部やってもらう可能性もありますが、本当にその状況によって人に、人がやるかロボットがやるかということは毎回決められます。例えばロットサイズが小さい場合は人間がやったほうがよいかもしれませんが、例えば新入社員がいれば、その新入社員に今の作業を見せるためにもロボットじゃなくて人間が見せたほうがよいかもしれないので、非常に柔軟性が高いアプローチだと思います。

先ほどの話と関連しますが、その見える化というステップから完全に自動化されるステップのときまで結構時間がかかるので、その間の期間において、そういう柔軟性の高いシステムが実現すると思います。

【岩本】 いろいろな状況によってロボットと人間の役割分担を変えるのですけれども、この例ですと、その役割分担の、ピンとキリといいますか、ロボットの方にものすごい役割を置いた場合、人間にすごい役割を置いた場合という、その変化の幅はどのくらいあるのですか。

【シュルンド】 製品とそのユースケースによりますが、例えばこの場合はニック社の設計はもう人間が組み立てる設計でしたので、ロボットができる作業は少し限られていましたが、他のユースケースだとロボットがもっとできます。

コストも考慮しなければならないが、このロボットは1万ユーロから2万ユーロまでぐらいします。でも、何でもできるわけでもないです、例えばあるものを組み立てるには、特別な角度とかの部品の組み立てには特別なツールがまた必要となるので、そういうツールがないとやはりこのロボットにもできないタスクもいくつかもあります。矛盾に聞こえるかもしれませんが、人間ではなくロボットができる範囲がある程度限られている。

そして、ここには書いていないのですが、安全性とセキュリティが非常に大事になってきます。このビデオでロボットが非常にゆっくり動きました。その理由は、普通に企業でロボットを使うと、もちろん速く動けるけど、特別な安全性に関する認証を取得しなければならないため、手間がかかるから、今回やらなかったのです。だからゆっくり動かせました。もちろん、最終的にロボットが人間より遅いのであれば、あまりロボットを使う意味もないと思いますけどね。

私たちが主に研究しているのはまず安全性、そしてツールの交換の段取りがいいかとか、そしてユーザビリティですね。

【岩本】 人間とロボットの役割分担を決めるときに、その判断基準になるものは何でしょうか。時間を短くするのか、コストを安くするのか、それともそのロボットと一緒に仕事をする人間の感性といいますか、その人間が一番働きやすいというように、要するにケースバイケースで、人によって全部、こういう同じ作業をしていてもロボットとの役割分担が全部違うという形なのでしょうか。

【シュルンド】 私の研究で、そのことを今考えているところです。つまりどの基準、どの条件を考慮すればよいかということを、私は今研究しています。普通は、考えられるのはロットサイズですね、そして品質に関する要求です。例えば人間は達成できないとか、ロボットが達成できない品質レベルがあるかもしれません。または重さ、その部品、運ばなければならない部品の重さとか、大きさも、非常に小さい部品であれば、または非常に重い部品であればロボットが運んだほうがよいときもあると思います。または柔軟性とその技術的な限界もあると思います。例えばある製品によって、多分設計上、もうロボットが組み立てできない部品、製品もあるかと思います。または特別なツールがないとロボットでできない作業もあるので、毎回その基準を評価しなければならない。

【岩本】 製造現場で、ここのシステムが、導入可能性が高い、導入する可能性が高い現場はどういうところでしょうか。

【シュルンド】 普通、種類がよく変わる、つまりいろいろな製品の中でいくつかの種類があると、こういうシステムがあったほうがよいと思います。またはロットサイズが小さいときの場合も多分意味がある、使う意味があると思います。

アンケートの結果を見ると、リードタイムがどんどん近くなり、つくっている種類が、バリアントが多くなるので、ロットサイズも常に変わる製造ラインが多いと思います。1個、または1万個とか、それは予測できない現場があるので、その非常に早く、そしてよく変わる現場、条件で、そういう柔軟性の高いシステムがあれば早く反応できる、早く対応できると思います。

2020年4月9日掲載

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