IoT, AI等デジタル化の経済学

第111回「デジタル技術が作る未来社会(その9)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。今回の内容は、「Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用」である。

Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用(3)
ストットガルト・フランホーファーIAO・IPA研究所 マシアス・ペイスナー氏との意見交換

【ペイスナー】 仕事の将来について、柔軟性はとても大事です。これからの仕事は、場所とか時間を問わずに、自分がどこで働きたいか、ということを決められます。朝9時から夜9時まで、ではなく、家族と仕事のバランスをうまくとれるようになると思います。従業員にもっといい仕事の条件を提供しなければならないけれど、企業もメリットがないとだめなので、そうすると、企業のおかげで、市場の変更にもうまく反応できる。そして、これからの仕事で、人に、従業員に、楽しく参加してもらいたいし、モチベーションを引き出したいです。自分の仕事だけをやることではなく、責任を持つことが重要だと思います。責任を持ってもらうために、自身で決定させる必要があります。企業が、従業員が楽しく仕事でき、いろいろ決定させなければならないと思います。

去年、東京に行きました。東京のシンポジウム、ドイツ、フランスと日本のAIに関するシンポジウムでした。そこで、三菱の方が、他の会社の同僚とお話して、仕事しながらポジティブなエモーションを測定する方がいらっしゃって、スマートウォッチを使って、聞いたことありますでしょうか。

そして、ネットワークのおかげで、新しい協力の形も出てくると思います。国際的な協力が増えると思います。国境を越えて協力して、新しいエコシステムもあらわれると思います。ネットワークのおかげで、新しいビジネスモデルも生まれると思います。

次は、デジタルのモデルです。デジタルツインのおかげで、複雑さを減らすことができると思います。かなりシンプルになると思います。デジタルモデルのおかげで、複雑さを減らせる、つまり感覚で把握できるようになると思います。重要なトレンドですが、持続可能性と材料の原材料を効率的に使うことです。自動化もドイツでネガティブなイメージがあります。なぜなら、雇用がなくなると思う人が多いのです。でも、逆に雇用を確保するのには、自動化が必要です、そして、競争力をこれからも確保するためにも必要です。

【岩本】 普通の事務所で働いている人にとって、一番身近な、人間と機械の柔軟性といいますか、協力の仕方ですか、オフィスワークをしている人にとって、自分たちの近い将来、近い未来というのは、どの形態になりますか。 日本で働いている人は、事務所でオフィスワークをしている人たちがほとんど大部分なので、その人たちにとって、最も身近な、機械と人間の協力のあり方というのでしょうか。近い将来のですね。それはどの形態になりますか。

【ペイスナー】 アルカテックでは、ラーニングシステムというプラットフォームがあります。ラーニングシステムで、いろんなシナリオを考えました。AIは雇用とか仕事にどのような影響を与えているのかということについて研究して、できるだけポジティブなイメージを作りたかったので、デジタルアシスタントのシナリオを考えてみました。デジタルシステムですね。そこでいろんな情報を収集して、探して、収集して、集めて、私にいろんなソリューションを提案してくれるシステムです。予想、予測して、私のカレンダーも整理してくれました。

【岩本】 事務作業と言うのでしょうか、オフィスワークでAIが繰り返し学習をすることによって、その人の仕事をサポートするという形は、物理的には、目に見えるものですと、どういうものになるのでしょうか。

【ペイスナー】 多分、今既にあるシステムに搭載されているシステムです。アバターとか、ありますけれども、それは多分、長期的に使用されないと思います。でも、アウトルックとか、ワードとかのようなプログラムが、AIの機能を持って、当たり前なこととして、これからも使うように。

その技術とか機械とのインタラクションは、もう目立たない、多分、目で見えないシステムがこれからよく使われるだろうと思います。

今は、ロボットシステムは大体量産で使われています。AIとシンプルなプログラミングを使って、これからも、もっと小さな製造現場で使えると思います。もしかしたら、カスタマイズ製品をつくるためにも使えるかもしれません。だから、ロボットの使用は、これから広がると思います。でも、そういう緊密な協力、人間と機械の協力は、実際に使われている場所が少ないと思います。これから、いろんな企業が、BMWもそうですけど、それはすごくかっこいいと思われているので、宣伝したのですが、実は、多分、そんなに使われないかなと思います。

1つのシンボルとして、人間と機械が協力しなければならないというシンボルになっています。もちろん、組み立てなら今も使われるかもしれませんけど。

ここで、AIは危険ではなく、AIは人間の仕事をおもしろくする。そして、その協働がパートナーシップのような関係になります。

【岩本】 確かに、機械にAIを搭載して、機械が賢くなって、しかも人間に対しても安全と言いますか、危害を与えない、そういう状態になると、それはとてもいいシステムだと思います。

【ペイスナー】 そこは、日本のシンポジウムでの1つの課題として取り上げられていましたが、日本とドイツ、フランスの間に共通点が多いです。文化とか、生産もそうですけど、私たちの立場です、中国と米国に対する立場も似ていると思います。ドイツ、フランス、日本が協力すれば、もっと強くなれる、いろいろ実現できると思います。それぞれの国は自分のAI戦略を紹介しました。日本のAIストラテジーはすごくおもしろかったです。それは、やはり、ヨーロッパと日本のシステムは非常に似ていることにも気づきました。その価値観も似ていますし、米国は100%自動化を目指しています、中国はあまり人権とか大事にしてないですよね。ヨーロッパと日本はAIシステムを人間のために使いたいという立場があるので、とても重要な方向だと思います。

そして、教育の進出です。先ほどの資格について話しましたが、労働組合と企業も関連すると思いますが、企業はもっと頑張らなければならない。従業員が毎日学習できるように、企業は、その責任を持っていると思います。コンピテンシーと資格とマネー管理のインフラをつくらなければならないです。どのような資格が必要、そして、要するにその資格を取得できるのかということを検討しなければならないです。フランホーファー研究所は、経済と科学は協力しなければならないと私たちは思っています。そうしないとイノベーションの力を確保できないと思います。ドイツでフランホーファー研究所は、それを既にやっていると思います。私たちは、そういう基本研究だけではなく、技術を実際の企業とかにも導入しているので、科学と実際の世界を結ぶ役割も持っていると思います。

私たち、ドイツとか日本、またはフランスは、それに対してどういうふうに答えるのかということが、大事な問題だと思いますが、ヨーロッパでワーキンググループがありますが、2019年の4月にガイドラインを出しました。

【岩本】 日本の新聞にも載っていました。小さく。

【ペイスナー】 ヨーロッパで、人間の営みとか、平等とか、透明度とかは、ハードルではなくUSPであるということはすごいと思いました。そういうシステムはこれからも、他の国でも注目されると思います。ドイツでは、そういう研究を行いました、300社の企業に参加してもらいました。16%は、既にAIを使っています。16%だけです。つまり、これからいろいろやることがあります。もし、グローバルの競争に勝ちたいのであれば、いろいろやることが、まだまだあります。その資格についても先ほど申し上げましたが、クレームの管理です。エネルギー事業者のクレーム管理です。AIを使って、そのプロセスを改善してみました。いろんなアプローチがあります。入ってくるクレームを集めて、自動的に検証するのか、または共通点、クレームの共通点の検出もできますから、テキストの文章のモジュールを提供できます。または、クレームの一部だけに自動的に答えられる。大体の場合、人間と技術の協力は必要ということが明確になります。この本、ご存じでしょうか。ヒューマンアンドマシーン、ドーアティアンドウィルソンという方が書いた本です。とてもおもしろい本です。AIの一番大きなメリットは、自動化ではなく、柔軟性です。そして、アダプタクティブプロセスです。特に人間と技術の協力です。AI、人間がないとAIは生きていけない。AIを評価するためには人間が必要です。逆にAIのおかげで、人間はスーパーヒューマンになれるというメリットがあります。実例もあります。ロボットとの協力です。先ほど言いましたように、ロボットをプログラミングできます。そして、あわせることができます。調整できます。

【岩本】 こんな簡単にプログラムできるのですね。すごい。

【ペイスナー】 まだデモンストレータだけですけど、その方向を示しているだけで、まだ製造では使われていない、将来の予測です。そして、プロセスはすごく複雑な場合、AIはそのプロセスを管理できます。次のプロセスを予測できます。ここでフロイデンベルクという自動車メーカー、工場で、半分くらい自動化されている職場で、1人は5つの機械を管理して、プロセスによって、人間は次のステップ、次の工程を選ばなければならない。今はそういうアルゴリズムを開発しました。そのアルゴリズムは機械データとか、他のセンサーのデータも使って、適切な順番を計算してくれます。工程の順番。そして、メールか、システムを開発しました。オペレーターに次の工程を見せるシステムです。例えば、機械の下に、LEDがありまして、あとはスマートウォッチで、または大きなディスプレイ、大きなモニターで次の工程が表示されています。そのシステム、既にイギリスのある工場で、パイロットプロジェクトとして、使われています。これから本当にそのプロジェクトが始まることに気づきました。

【岩本】 よく、工場の中に、従業員の人が作業指示を、ディスプレイで表示するようなものがあるんですけれども、それよりも、さらに、より緻密で、しかもそこに人工知能が入っているという、そういう理解でいいですかね。

【ペイスナー】 マシーンラーニングで改善されます。そして、指示もできますけど、私たちが今研究しているのは、アマゾンとかの物流部門で、既にそのようなシステムが、物流で働いている人は、それはストレスだと思っている人が多いです。常にAIからそのような指示をもらうとストレスを感じる人が多いので、私たちは、こういうシステムを、どういうふうに変えれば、人間がそのシステムをストレスじゃなくて、そのシステムのおかげで、自分の仕事の品質が上がるという、それを実現するためにシステムを変えなければならないです。そして、そのシステムがあっても、人間は自分でいろいろ決定できるのも重要だと思います。システムがいろいろ提案していても、人間が最終的に決定します。

専門家だから。人間のノウハウと、AIのマシーンラーニングの結果を、もっといいプロセスに、どういうふうにもっといいプロセスになるのかと。これはケアロボットですけど、ご存じですか。フランホーファーで開発しました、家の介護で使われる介護ロボットです。

ある記者にインタビューされたときに、あなたの研究所でも開発されていますよね、あなたはいつか、老人になったら、本当にそういうロボットに介護を任せるのか、すごく怒られました。私が答えたのは、77歳の友達がいまして、女性ですけど、彼女は、ケモセラピーを受けて、そのせいで、右の手も動けない。それ以外は、友達と会ったり、劇場に行って、車を運転したり、何でもできる人です。だから、右の手を動けないので、自分の服を脱ぐこととか着ることはできない。そういうアシスタンスシステムがあればうれしいです。彼女は他の人がわざわざ来てほしくない、自分でやりたい。それは、AIとも関連すると思います。人間の代わりではなく、もうちょっと広い意味で、人間はそのAIをどういうふうに使えるのか、今まだ想像できない可能性も幾つかあると思います。そうすると、将来の仕事をロボットにやってもらうのではなく、人間がやる仕事がロボットのおかげで楽になるのが重要だと思います。これは私たちのアプローチですが、まずは人間のニーズがありますね。人間は自分で考えていることを言いたい、自分で正しいと思っていることをやりたい、新しいものを習いたい、それらを技術を使って、どういうふうにサポートできるのかということを、検討しています。

経済学の面から、そして私たちはヒューマンマシーンインタラクションの面から、多分、仕事の将来を予測するには、多分両方が必要だと思います。

【ペイスナー】 両方の視点から、日本とドイツが参加する研究プロジェクト、御存知でしょうか。協力できるプロジェクトありますでしょうか。

【岩本】 何て言えばいいのでしょうか。デジタル分野やAIの分野は、日本では、自然科学の研究者や技術開発をしている人たちはたくさんいるのですが、経済学とか社会学とかの分野を研究している人は、本当に、手で数えられるくらいしかいないのです。

私はたまたま大学で、情報学、インフォマテイクを習ったので、技術の内容がわかるので、それを経済学からもアプローチして分析しているのですが、普通、日本で経済学をやっている人は人工知能という難しい分野に近寄ろうとする人は、ほとんど、いないのです。

【ペイスナー】 ドイツと日本の研究協力分野の補助金があると思いますので、補助金をもらえるために申請できるのではないかと思います。

【岩本】 これも日本固有の現象なのですけども、人工知能の研究では、自然科学分野の研究費というのは、膨大な金額が付いているのでが、社会科学系の分野の人工知能の研究費というのは、はっきり言ってほとんど予算がないです。

【ペイスナー】 ただ、このテーマとてもおもしろいので、もし何か、日本とドイツの間に研究プロジェクトやろうということになれば、私がそういう可能性があると言うのでしょうか、可能性のある研究者とか若い人に声をかけて、研究チームを作る、それは可能です。

私もちょっと探してみます。たまにいろんなテーマについて、そういうプログラムがありまして、例えば、ドイツには、日本とドイツのチームが申請できる補助金はあります。

2020年4月9日掲載

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