IoT, AI等デジタル化の経済学

第110回「デジタル技術が作る未来社会(その8)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。今回の内容は、「Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用」である。

Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用(2)
ドイツ科学工学アカデミー(acatech)セドル・マイヤー氏との意見交換

【岩本】 マンマシンインタラクション(MMI)についてですけれども、ドイツでMMIの研究がとても盛んだというのはよく分かりました。それで、MMIのロボットが人間をアシストするというのが導入される一番の有望な分野が、医療介護だというのを何人かから聞いたのですけれども、ドイツは製造業の国なので、製造現場にロボットが人間をアシストするというのを、最大のマーケットと考えているのかと私は思っていたのですが、非常にこれは意外でした。

【マイヤー】 ロボット技術とかMMIの研究者であるサミ・ハダディン博士は、ミュンヘン工科大学で教えていらっしゃるし、この分野で世界中で多分一番有名な研究者だと思います。例えば、最初にロボットは安全策なしで直接人間と協働することについて研究しています。それと、技術的な内容について、直接その方と意見交換したほうがおもしろいと思います。

御質問についてですが、確かにおっしゃるとおり、ドイツで生産業が非常に大事ですので、これからも、AIとか自動化とかロボットを製造業、まあ企業でも製造現場でも使うようになると思います。研究も盛んですし、実際にいろいろなプロジェクトが既に行われていますが、それはそして、インダストリー4.0とも関連しますが、医療と介護で一番使われている理由は、日本と同じように、ドイツは高齢化社会で、その問題が結構深刻な問題になってきました。介護で働いてくれる方、そのスタッフも足りないという問題もありまして、今はいろいろな、例えば東ヨーロッパの国とか、南ヨーロッパの国とかの人をドイツに呼んで、アピールしていますが、それでも足りない。それでもそのスタッフが足りない、問題に対応できないので、機械をさらに使わないといけないと思います。

特に、介護だったら、患者を上げたり運んだり、そういう重い仕事が多いので、機械にアシストしてもらう、または完全に機械にやってもらう傾向が多いと思います。多分、それは、ドイツも日本もそうだと思います。日本も多分高齢化社会という問題があって、同じようなニーズがあるのではないかと思っております。

【岩本】 日本も少子高齢化、人口減少が進んでいるので、介護が必要な老人がとてもたくさん増えているので、その介護現場にロボットが導入されれば、とてもいいな、ハッピーだなというのは、それはみんなそう思っているのですけれども、介護現場にそういう手助けをするロボットの導入がなかなか進まないのは、介護を受ける老人が、大体多くは、あまり裕福ではない人々なので、介護サービスに対して、あまりほとんどお金を払えない。払う余裕がないので、だからそこにロボットを導入しても、そのロボットサービス代金を払えないという現実があるので、介護してほしい人はたくさんいるのだけれども、マーケット、市場がとても小さいという意味です。だから、市場が小さいと、そこに民間企業は参入しないので、なかなか日本では介護分野はロボットが導入されればいいなと皆さん思っているけれども、なかなか導入が進まない分野なのです。

だから、ドイツでそのMMIの一番の有望分野として、介護分野が考えられているのであれば、介護を受けようとする高齢者の人たちが、よほど金持ちの人たちが多いか、それとも政府が莫大な補助金を出しているか、多分いずれかどちらかのような気がするのですけれど。

【マイヤー】 実はドイツで、介護で既にそういうロボットが普及されているかどうかということは、わからないですね。これから使われるようになると思います。これからますます重要になると思います。ドイツの社会保険の中で介護保険がありまして、その介護保険は非常に重要な役割を果たしているので、ドイツ人とか、社会保険者は、御年配の方の介護に対する強い責任感を感じていると思いますね。だから、ドイツでも、金持ちのお年寄りもいるけれど、全くお金のない方も多いので、多分、それはあまり関係ないと思います。その患者さんが自分で払わないと思いますね。

でも、まだ実はドイツで、そういうロボットはあまりまだ普及されていないと思いますね。これから介護の分野でも重要になると思いますけれど、社会保険者はこれからますます、MMI、デジタル化、そういうロボットが大事になるということを既に分かっていると思いますので、多分、ある程度対策してくれると思います。そして、その技術が普及すればするほど、最終的に使用料も下がってくると思いますので、さらに使えるようになるのかなと思います。使えば使うほど安くなるので。

そして、大体のお年寄りの方は、多分、まだそういう新しい技術になれていないと思いますので、それを受け入れてくれるのかどうかということもまだわからないですよね。私のおばあちゃんは、もしかしたら、人間にやってもらいたいと思いますね。ロボットに介護してもらいたくないと思います。

【岩本】 介護分野はそういういろいろな問題があるので、私はやはり、一番の導入を優先すべき分野は、やはり製造業の現場だろうと思うのですが、今回のacatechのプロジェクトでも、日立は製造現場でのMMIというのを強調していましたけれども、日本もドイツもその製造現場にMMI、ロボットを導入するという方法が一番正しいような私は気がするんです。

ウィーン工科大学で、事務作業、オフィスワークでロボットを導入して、人間の作業の一部をロボットに代替してもらうというのを研究を見たのですが、2番目がオフィスワークの現場である気がするのですけれども、ドイツでのMMIの研究の優先順位、重要度というのはどうなっているんでしょうか。

【マイヤー】 私の個人的な意見にすぎませんが、やはり、一般の人は多分、デジタル化とかロボットとかを考えると、まずは製造業を想像すると思いますけれど、多分、実際にも製造業で一番使われているかと思いますが、やはり、ほかの分野でも、実は全ての分野でデジタル化またはMMIが既に導入され始めた感じがします。例えば車のナビですね。ナビの制御とかもMMIが導入されています。またスマートフォンからの温度とかエアコンとかの制御とか、いろいろな分野で既にデジタル化もMMIも進んでいると思います。デジタル化といいますと、やはり、デジタル化イコールMMIだと思いますよ。MMIも非常に大事なアスペクトだと思います。

そして、もちろん、多分、一番補助金とかが出されているのは製造業であるかもしれませんが、確かに、製造業でのMMIが、一番進んでいる気がしますが、ほかの分野でも全ての分野で既にいろいろな対策がとられている気がします。

2020年3月3日掲載

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