IoT, AI等デジタル化の経済学

第109回「デジタル技術が作る未来社会(その7)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。今回の内容は、「Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用」である。

Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用(1)
レーゲンスブルク大学 マイケル・ダウリング教授との意見交換

【ダウリング】 多くの企業で、例えばデータを分析できる人とか、データアナリスト、またはAIの専門家とかがこれから多分ますます必要となると思いますが、その分、仕事がなくなる職種がでるもしれません。ただ、そのような職種、例えば秘書だった人は、簡単にデータアナリストとかAI専門家になれないので、それが一番大きな課題だと思います。

私が1つこの実例を挙げますと、例えばグーグルで通訳機能を今、開発している人がいます。すでに何人か存在しています。研究していて、開発もしています。だから、ドイツ語で何か言うと、日本語に自動的に翻訳されるという通訳アプリを今、開発している人がいて、それは多分20年間ぐらいかかるかもしれない。しかしそれが使えるようになったら、私のような普通の通訳の仕事がなくなるだろう。多分グーグルで、そのアプリをプログラミングする人は必要となるけど、私は通訳だからプログラミングできない。1つの実例ですね。

【岩本】 マン・マシン・インタラクション、MMIの研究がかなりドイツでは盛んになってきているなという、驚きがありました。日本ではMMIの研究はまだほとんど始まっていないです。

【ダウリング】 ロボットと人間の協力とかに関して、ドイツでは結構盛んです。ドイツで多くの大学でMMIについて研究しています。そして、いろんな分野で使われています。使うことができます。例えば医療分野で重い患者さんを運ぶためにロボットアシスタンスシステムを使う。または、手術を行うときのロボットがアシスタント、サポートする。または、昔は工場の中で、安全柵がないと、すごく事故が多かった。でも、今はKUKAという会社が、もともとドイツの会社で、いまは中国に買収されたけど、KUKAは今そういう安全柵がなくても、人が近づくとその人の存在を検知できるので、停止しますというロボットがいるので、MMIは非常に大きな、大事な分野だと思います。

MMIが一番使える大きな市場は医療・介護分野です。確かにそうです。薬に使われていますし。特にドイツでは、介護をしている人が少ない。これからも少なくなるので、その少ない人材を効率よく使わなければならない。1年前ぐらいにミュンヒナー・クライスは医療分野でのデジタル化について、丸1日かけて、会議を行いました。

【岩本】 ウィーン工科大学を訪問したときも、そこでMMIの研究をされていたんですが、そこは事務作業ですよね。事務作業でロボットと人間が役割分担をしていました。事務作業でロボットが導入されるのであれば多分、日本でもそのマーケットはとても広いと思います。日本の人たちは多分熱心になると思うのですが、医療・介護分野だと、日本はなかなかマーケットが小さいし、介護を受ける方々の多くが経済的にあまり余裕がないので、ロボットを使うほどの出費ができないので、日本で介護の分野でロボットというのは、技術を開発してもマーケットは小さいような気がします。

ドイツは製造業の国なので、清掃現場でロボットが人間をアシストするとかいう研究というのはされていないのですか。

【ダウリング】 そうです。その使用率が上がり続けています。ドイツでは日本ほど高くないと思いますけど、アメリカより高いと思います。統計を見ると、1人当たり何台のロボットが使われているか、特に自動車業界で使われていると思います。

2020年3月3日掲載

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