IoT, AI等デジタル化の経済学

第107回「デジタル技術が作る未来社会(その5)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。まず最初は、「The Future of Work ; 雇用の未来」からである。

The Future of Work ; 雇用の未来(5)
ストットガルト・フランホーファーIAO研究所 マシアス・ペイスナー氏との意見交換

【ペイスナー】われわれの研究所の4つのチームの内容を説明します。1つ目のチームは、車の中のインタラクションを研究しています。もう1つのチームは、そのインターフェースの設計とか技術について研究しています。3つ目のチームは、ユーザーエクスペリエンスといい、人は新しいデジタル技術とかをどういうふうに体験するのか、そして、人を中心にどのようなデジタル技術が使えるのかということです。4つ目のチームは、ITのセキュリティと、アイデンティティと人に合わせた技術ということについて研究しています。

そして、AIとかデジタル化は雇用市場にどのような影響を与えているかということに関心を持っていらっしゃると思いますが、私たちは、ここであまりそういう一般的な研究ではなく、もう少し細かい研究を行っています。つまり、例えば、各職場とか、雇用がどういうふうに変わるのか、そして人と周りの環境とか、新しい技術の関係について研究しています。

そして、雇用に関する予測をしてみる研究者が何人かいると思いますけど、本当にそれは予測できるのかということは、分からないです。今は、特にAIの影響で、大きな変更がありまして、けっこういろいろなものが早く変わってくると思いますので、ドイツも日本も同じだと思いますが、自分の経済を新しく発明しなければならない。本当に新しく発明して、そして雇用を長期的に確保しなければならないと思います。

よく言われているのが、AIのせいで雇用がなくなるということです。でも私は実はそう思わないです。多分、逆にAIのおかげで雇用が増えるのではないかと思います。ドイツも日本もそうですけど、高齢化社会が進んでいる中で、逆に働く人が足りない恐れがあるんじゃないですかと思います。どう思いますか。

【岩本】日本でも、いくつかの研究機関が雇用の長期予測をしているのですが、日本は非常に速いスピードで、人口減少、少子高齢化が進んでいるので、労働者は減っていて、産業界の強い要望で、2019年の4月から、日本で初めて、外国人の単純労働者を入れ始めたのです。これまでは、高い技能を持った外国人しか入れなかったのです。しかも、AIによって、人間の仕事がなくなっていくだろうというふうに予測されているのですが、これがどういうふうに将来的に雇用が余るのか、足りるのかというのは、まだ、私の知る限り、日本で正確な予測を出した機関はないです。

まだ、目の前に深刻な問題が起きてないので、まだそれほど危機感を持ってはいない、危機に直面してないのですけど、日本では、将来を不安に思っている人が多いと思います。

まさに、こちらが研究しているマンマシーンインタラクションというのでしょうか。ここの現場での、人間を機械がどのようにサポートをするか、それによって、人の働きがどう変わっていくか、雇用がどう変わっていくかという、ミクロの現象については、まだ日本では、あまりほとんど研究がなされていません。

【ペイスナー】ドイツでは、仕事の内容が変わると思います。私たちはそう思います。雇用の数は減らないと思いますが、新しい技術で、その仕事の内容が変わってくると思いますので、特に、人の持っている資格とか、できることに対する要求とかが変わってくると思います。早く変わってくると思います。ただ、ドイツ人は、よく今まで勉強したノウハウとか知識を使いたい、新しいことをあまり習いたくないという傾向がありまして、今、大きなチャレンジだと思います。その人たちに、ドイツ人に、やはり新しいことを習う価値もありますよ、ということを見せたいと思います。そのために、私たちのマンマシーンインタラクションに関する研究は、大きな役割を果たしているかと思います。

お見せしたいことがあります。ドイツで毎年、研究に関するモットーが変わってきます。2018年はちょうど、フューチャー・オブ・ワークというテーマでした。私は、このフランホーファーIAO研究所のプロジェクトのプロジェクトリーダーとして活躍しています。そこで、その仕事の将来に関する研究を行いまして、そして、それを、雇用はどう変わるのかということを見せたかったのです。そのために、例えば、2030年とか2035年まで、いろいろなインタラクティブなプロジェクトというか、展示会を準備します。その展示会を1週間ブリュッセル、1週間ベルリンで行いました。このパンフレットの中で展示会をやっています。将来は、フューチャーワークです。そのような、インタラクティブなアンケートもありまして、私たちも、もちろん、仕事の将来はどうなるか分からないです。だから、そのような質問がありました。AIとかデジタル化は人間の仕事を支えていくと思いますか、または仕事を奪うと思いますか。大体の人は、人間から仕事を奪うリスクもあるけど、人間の仕事のサポートとして利用できる、使用できる可能性もあると思っています。そして、仕事はこれから難しくなる、複雑になると思う人が多くても、いろいろな、おもしろい仕事が生まれ、そして責任を持たなければならないと思っています。多くのご質問もありまして、今お見せしたいのは、デモンストレータですけど、2つのテーマ、テーマのカテゴリがあります。まずは、製造に関する仕事と、医療関係の仕事で、製造はドイツで非常に重要なテーマです。生産業はドイツで重要ですし、移動分野もそうです。高齢者、高齢化社会の1つの結果として、医療分野がさらに重要になると思います。日本もそうだと思います。

全部で8つのテーマがありまして、まずはデジタルとネットワークです。これから、いろいろなデジタルデータがあると、仕事はどういうふうに変わるのか、つながっていると仕事はどういうふうに変わるのか、特にIoTではどのように変わるのか。大きなVR室がありまして、インダストリ4.0の工場でいろいろなシナリオを見せました。例えば、予防保全とかが、人間の仕事にどのような影響を与えるのかということも見せました。各テーマで、経済科学と政治の責任はどうなるのか。

そして、2つ目のテーマは、それぞれの人を支えるという、特にアシスタンスシステムに関するものです。仕事しながら、特にAIを使うことで、新しいことを勉強できると思います。

今度はハンドインハンドというテーマで、つまり人間と技術が緊密に協力できる、どういうふうに協力できるのか、そのヒューマンマシーンインタラクションとAIのおかげで、人間がやることと、機械がやることは、完全に分けることはできないと思います。その代わり、本当に一体になって、協力する形になると思います。例えば、ロボットとの協力もそうですけど、後でお見せしたいと思いますが、ブレーンコンピューターインターフェース、脳とコンピューターのパソコンのインターフェースもあります。これは機械ツールですが、各プログラムのパラメータを正しく設定するためのサポートするときのサポートです。グーグルマップもそうですけど、ここから駅まで行きたいのであれば、1つのルートだけじゃなくて、3つか4つくらいのオプションを提案してくれます。私は、一番早いルートがよいのか、一番の渋滞のないルートとか、いろいろ選択できます。

次は、ロボットとの協力。後で、ラボでお見せしたいと思いますが、いろいろなジェスチャーで、身振り手振りで、ロボットのプログラミングもできます。ロボットのプログラムを自分のニーズに合わせることができます。

医療分野ですが、バーチャルテストは、多分これから増えると思います。デジタルのモデルのデジタルツインをつくって、実際にやる前に、いろいろなモデルをテストできます。そのモデルを使うことで、私たちの、最適な決定をすることができます。医療も、例えば、薬とか、薬の量とかを、実際に患者さんにあげる前にテストできます。後はカスタマイズ。例えば、骨の印刷です。または、内臓も今三次元プリンタでつくれるようになりました。それで新しい仕事が出てきたり、仕事のプロセスも変わってきたりするでしょう。

人間が中心に、例えば介護とかで、ロボットはうちでどういうふうに使われるか。日本人はよくロボットに名前をつけて仲間のように可愛がっているようですが、ドイツ人にとってロボットは単なる機械でしかありません。ドイツ人はよくロボットが怖いと思っています。やはり親しさを感じないから、人間による介護が全てなくなるということが怖い。ロボットは、人間の形じゃなくてもいい、小さいアシスタントシステムでも、例えば、洋服を脱いだり、脱がせてくれたりして、人間の補助役にとどめて欲しいと思っています。後は、これは医療機関のサポートですが、医療業界がどういうふうにつながっているのかということも見せます。例えば、1人の患者さんが家で倒れてしまったら、自動的に警告を鳴らして家族に警告を出して、その家族が救急車を呼ぶかどうかということを自分で決められます。

そして、結論です。これは一番重要な仕事の変更です。それをどういうふうにうまく使えるのか、仕事をポジティブに変えるには、どういうふうに使えるのかということを、お渡ししたレポートの最後に書いてあります。

2020年2月17日掲載

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