IoT, AI等デジタル化の経済学

第105回「デジタル技術が作る未来社会(その3)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者は、2019年11月、ドイツの各所を訪問し、「デジタル技術が作る未来社会」に関して専門家と意見交換した。その具体的なテーマは以下の4つである。

  • The Future of Work ; 雇用の未来
  • The Digital New Business Model- The Future of Manufacturing ; 新しいデジタルビジネスモデル-製造業の未来
  • Man Machine Interaction (MMI) ; 人間と機械の相互作用
  • The Digital Transformation of SME ; 中小企業のデジタルトランスフォーメーション

これらの分野は、社会科学と自然科学の双方の知識が必要なため、日本ではほとんど専門家がいない分野である。そのため、筆者は外国に赴いて議論の相手を求めないといけない。

日本ではようやく最近「雇用の未来」に関する関心が高まってきたが、ドイツでは同分野は数年前に収束しており、いまは次のテーマであるMMIが研究の主流である。だが日本では同分野は立ち上がっておらず、同分野の専門家がほとんどいない。

今回の連載では、各専門家との意見交換の主要点を順に紹介していきたい。まず最初は、「The Future of Work ; 雇用の未来」からである。

The Future of Work ; 雇用の未来(3)
マンハイム欧州経済研究ライプニッツセンター(ZEW)メラニー・アーンツ氏との意見交換

【岩本】 日本では、Frey and Osborneの「デジタル化で47%の仕事が失われる」という 推計値がいまだに多くの人々によって語られています。その原因は、メディアが、Frey and Osborne以降の研究成果を報じることなく、ただひたすらFrey and Osborneの推計値を説明し続けているからです。そのため、日本国民は、人工知能は怖い技術だととらえる人々がいて、それが人工知能への予算配分や人材育成を大きく遅らせてきました。メディアは、極端なことを言えば、視聴率が上がるという単純な理由でそうしたのかもしれませんが、そのことが日本の将来に与えたマイナス影響は計り知れないものがあります。

メラニー・アーンツさんの推計は、より科学的で冷静な内容であり、真実に近いものです。私も講演のときは必ずメラニー・アーンツさんの推計値の方がより真実に近いと紹介しています。

2016年10月、マイケル・オズボーン氏が来日した際、彼と面会し、彼の主張を伺いました。次にメラニー・アーンツさんの主張を伺いたかったのですが、それがやっと実現できてとても嬉しいです。

今、ドイツ国内では、将来の推計値に関して、どの数字がどのような扱いを受けているのでしょうか。そして、Frey and Osborneの推計値に関して、どのような評価がなされているのでしょうか。

【メラニー・アーンツ】 Frey and Osborneの推計値が発表されたとき、多くの人は驚きました。日本でも企業または労働組合は仕事がこれからなくなるということについて心配しているということですか。

野村総研の推計値が49%とおっしゃいましたが、その日本の研究者はFrey and Osborneの結果を日本の市場に合わせたということですか。つまり、Frey and Osborneの手法を使ったということですか。

【岩本】 そのとおりです。ただ職業数は、Frey and Osborneよりも少なく602です。

【メラニー・アーンツ】 Frey and Osborneの手法を使うと、大体いつもどの国でも50%くらいになりますね。それはFrey and Osborneが使っている手法の必然の結果です。Frey and Osborneは、私たちをあまり好いていません。好きじゃないといいますと、私たちのアプローチがあまり好きじゃない。つまり、自分は正しいと今まで思っています。私たちが言っていることをなかなか受け入れてくれないです。

今、私たちとFrey and Osborneの間で、対話しているところです。Frey and Osborneは私たちが言っていることを受け入れない。つまりFrey and Osborneのように「職業」を分析するときと、私たちのように「仕事の内容」を分析すると、大きな違いが出ます。それをFrey and Osborneは信じようとしません。

Frey and Osborneの研究についてですが、基本的には専門家にアンケートするのは非常によいアイデアだと思います。Frey and Osborneはいろいろな専門家に、70職種ぐらいの自動化の確率はこれから10年間、20年間においてどれくらいあるのかということを聞きました。そして、その答えを全ての職種に採用しました。もちろん専門家に聞く方法以外、よい方法はないと思うので、それはよかったと思います。特にその専門家はみんなロボティックとかロボット技術とかプログラミングとかの専門家なので、技術上の制約もよく分かっている専門家です。

でも、私たちがあまりよくないと思っているのは、米国のO*NETというデータベースがあります。そのデータベースの中でいろいろな職種の内容が説明されています。その仕事の内容が説明されています。Frey and Osborneはそのデータベースのデータとその専門家のアンケートの結果を合わせてモデルをつくりました。それは70職種に関する評価でした。そのモデルを使って、その70職種の自動化の確率はどれぐらいあるのかということを試算しました。その後、そのモデルを使って他の職業の自動化の確率を推定しました。

ただ、問題になっているのは、その職業の説明はステレオタイプに近いです。1つの職業の仕事の内容はそれぞれの人に関係なく、同じです。1つの職業で働いている人はみんな同じ仕事をやっているという推定に基づいて研究されています。でも、私たちはそうじゃないと思います。1つの職業でもそれぞれの人がやっている仕事の内容は全然違うと思うからです。つまり、1つの職業でもいろいろな仕事の内容があります。いろいろな活動があります。例えば普通の建設労働者であれば、大体同じような仕事をやっているでしょうと思っている人がいます。つまり、どのアプローチを選んでも、職業レベルまたは個人個人の仕事の内容のレベル、どのアプローチを選んでも同じ結果は出るだろうと思っている人がいます。でも実はそうではないです。

私たちはFrey and Osborneと同じ専門家の予測を使いました。つまり、その研究のベースは同じです。ただ、その後、私たちは他のデータベースを使いました。つまり、OECDのPIAACというデータベースです。PIAACです。それはOECD加盟国の被雇用者のさまざまなデータの入っているデータベースになります。そこで、いろいろな職業でその仕事の内容、具体的な内容が説明されています。つまり、私たちはそういう一般的な職業の説明ではなく、本当にそれぞれの、個人個人がやっている仕事の内容を研究ベースとして使いました。そしてそのモデルに基づいて、それぞれの職業の自動化の確率はどれくらいあるのかということを予測できます。そして、それはFrey and Osborneとの大きな違いですが、私たちが使っているデータベースを使うことで、個人個人の仕事が自動化されるかどうかということを予測できます。

だから、私たちがやってみたのは、Frey and Osborneと同じように1つの職業の平均的な仕事を分析して、仕事に基づいて自動化の確率を予測しました。そうすると、Frey and Osborneとほぼ同じ確率になるのではないかと思いました。で、やってみたら、本当にそうでした。私たちも驚きました。だから、Frey and Osborneと同じように職業の一般的な、平均的な仕事に基づいた予測をすれば、Frey and Osborneの結果とほぼ同じ結果が出ます。だから、PIAACを使ったとしても、同じモデルを使うと、Frey and Osborneの確率に近い確率が出ます。ただ、その平均的な仕事ではなく、本当にそれぞれの個人個人がやっている多種多様の仕事の内容に基づいて予測すると、Frey and Osborneよりだいぶ低い確率になります。

私たちもその理由を探してみました。なぜそういう直線のアプローチを使ったのにそういう結果になるのかということを疑問に思って、考えてみました。職業の仕事の内容は不均衡だからだと思います。例えば建設労働者の例を挙げますと、1人の建設労働者はいろいろな自動化できない仕事をやっているけれど、その自動化できない仕事の内容もさまざまあります。多種多様の仕事をやっている。だから、同じ建設労働者が1つだけではなく、いろいろな自動化できない仕事をやっているわけです。それは私たちの解釈です。

だから、おそらく職業も今の転換に合わせてくるだろうと思います。Frey and Osborneのモデルでは1つの職業の中でいろいろな仕事の内容、ニッチな仕事ですね、そのニッチな仕事はきちんと反映されていないと思います。

2つの大きく異なるアプローチがあると思います。Frey and Osborneのアプローチは、1つの職業で全ての仕事の内容は同じだということを推測します。例えばさっきの建設労働者の場合は、建設労働者はみんな同じ仕事をやっているということを推測します。それと違って、私たちのアプローチではそれぞれの仕事の内容は同じじゃないと思っています。

だから、私たちのモデルでも職業レベルに基づいて予測すると、自動化の確率は40%から42%ぐらいになります。職業レベルではなく個人の仕事の内容のレベルで分析・予測すると、確率は10%だけになります。つまり、職業レベルでやるか、個人の仕事の内容のレベルでやるのか、結果は30%ぐらいも違いますね。

私たちはある職種がこれから10年間、20年間において自動化されるかどうかという確率を試算してみましたが、私たちの結果は10%ぐらいになります。現在、Frey and Osborneとまた違うアプローチを使っている他の研究者もいます。その他の研究の結果を見ると、同じぐらいの確率になります。つまり大体10%ぐらいになります。もちろんそれだけで私たちが正しいということを証明できないけれども、逆に私たちは間違っているということも証明できないですね。

Frey and Osborneが一番間違っているところは、1つの職業で働いている人はみんな同じ仕事をやっているということを前提としていることです。そしてその職業のデータベースのデータをそのまま使っていることです。

ある仕事の自動化の確率を判断するには、70%というしきい値を使います。ある仕事を自動化できるかどうかということを判断するには、まずその仕事のそれぞれの活動を自動化できるかどうかということを評価します。その結果は0%から100%までの値です。比較できるために、私たちもFrey and Osborneもその70%というしきい値を使っています。だから、ある仕事の活動の70%以上を自動化できるのであればその職業を自動化できるという結論になります。

その確率の分布はFrey and Osborneと私たちのアプローチで違います。Frey and Osborneは代表的な職種を使いました。そこで、それは実際の仕事よりもちょっと極端な結果になると思います。つまり、私たちの予測でももちろんある程度自動化できる仕事は入っていますが、70%を超える職種は非常に少ないので、Frey and Osborneと比べたら、私たちの自動化の確率は非常に低いです。

その職業の説明では、代表的な仕事の内容は確かに説明されていますが、自動化できない仕事は説明されていません。それを考慮すると、私たちのモデルを使うと、Frey and Osborneであまり自動化の確率が高くないという仕事は、私たちのモデルで少し高くなります。確率が少し高くなります。逆に、Frey and Osborneで非常に自動化の確率が高いと思われる職種は、私たちのモデルでその70%というしきい値を下回ります。

例えば小売業者の例を挙げますと、小売業者はFrey and Osborneによると100%自動化できる仕事とされています。でも実際に小売業者も販売で働いている人に質問したりアンケートをしたりすると、やはり自動化できない仕事もいっぱいあります。特に、例えばお客さんとのやりとり、または同僚とのやりとり、または新社員に情報を渡すこととか、そういうコミュニケーションに関する部分は自動化できない。だから、私たちとFrey and Osborneのアプローチは反対であるということも言えませんが、いわゆる一応シフトされています。でも、違うアプローチを使うと、結果に大きな影響を与えます。

【岩本】 タクシードライバーに関してはいかがでしょうか。

【メラニー・アーンツ】 タクシードライバーに関しては、私たちの予測は今ちょっと分からないですけれど、いろいろなことを考慮しなければならないと思います。まずは自動運転を本当に実現できるかどうかということですね。ドイツで今、いろいろな法律上の問題が課題になっています。もし例えば自動走行のタクシーが事故を起こすのであれば、誰がその責任を持つのでしょうか。そして、タクシー、自動運転であってもそのタクシーの運転手はお客さんと話さなければならないので、タクシードライバーも100%自動化できないと思います。

現在、自動化はリスクであるということをよく聞くんですけれども、実は私はそんなに危なくはないと思います。技術的な面から見ると、多分技術を自動化できるかもしれませんが、その技術があるからといって必ず実現されるのかということは分からないです。1つの例を挙げますと介護ロボットです。介護ロボットは確かにありますが、実際に使用されるかどうかということは誰もまだ分からないですよね。まず社会に導入できるかどうか、社会のニーズにもよります。そして、法律によります。そして、実際にその介護を必要とする人は本当にロボットを使いたいか。ロボットを買うのにお金を使いたいか。そういうことはまだわからないです。

実は私たちの研究はそんなに大変ではなかったです。ただ、違うデータベースを使っただけで、違うデータベースを使うと結論ももちろん変わってきます。基本的にはデータを反映しただけです。そして、Frey and Osborneの予想、つまり1つの職業の中で行われている仕事は同じだという予想を除いて予測しただけです。

日本とドイツの違いがあるかもしれませんが、私は日本に行ったことがないですが、日本人はドイツ人より技術に関心を持っている気がしますが、そうですか。

ドイツは技術に反対する人はあまりいないと思いますが、そういう技術に対して疑いを抱く人は結構いると思います。だから多くのドイツ人はそういうロボットとか技術は介護で使われることを想像すると、違和感を抱く人が多いと思います。

Frey and Osborneが使っていた推定に基づいてFrey and Osborneの計算は間違っていないです。ただ、私たちのモデルはFrey and Osborneのモデルより複雑ですが、それなのに、平均の職種、平均の職業に基づいて予測すると、Frey and Osborneとほぼ同じ結果が出ます。

ドイツでもその話はだいぶ進んでいる気がします。もう技術的な可能性についてあまり議論していない。そのかわり、仕事は多分これから変わってくる。仕事の内容も変わってくるし、いつか多分、ある仕事もなくなるかもしれませんが、最終的に仕事は減るとも思われていないです。

自動化の確率についてはこの1つの調査しか行っていないですけれども、2016年にいろいろな企業を対象にしてアンケートを行いました。その時に、企業にどういうふうに新しい技術を使っているのかということを聞きました。そのアンケートの結果を分析して、過去2、3年前から今まで分析しています。まだ終わっていないですけれども、企業または雇用、一般的にドイツの雇用市場に、または給料にどのような影響があるのかということを、今、分析しているところです。

雇用市場への影響を分析した結果を言いますと、ドイツで2011年から2016年までの期間で企業の新しい技術への投資のおかげで、雇用が、仕事が増えたという結果でした。

だから、ドイツもそうですけれども、欧州、米国もそうですけれど、3年前ぐらいにすごくパニックを感じていたと思いますね。自動化のせいで仕事がなくなるというパニックですが、今はもうそのパニックをあまり感じていないと思いますね。

おそらく私たちの研究結果も影響を与えたかと思いますが、私たちではなく、他のドイツとか米国の研究も同じ方向で、技術の経済へのインパクトはゼロまたはポジティブなインパクトになるという研究結果も発表されました。

もちろん、それは研究の対象にもよります。他の研究でロボットが中心になっています。ただ、ロボットは新しい技術の一部だけです。ロボットだけを中心にした研究の結果を見ると、やっぱり仕事がなくなるというリスクが割と高かったです。

そして、米国とドイツでロボットのリスクの評価は違います。それは2人の米国の研究者が説明してくれましたが、MITの研究者ですが、1人はAcemogluさん、もう1人はRestrepoさんです。その2人はいろいろな特にデジタル化とかロボットに関するいろいろなおもしろい論文を発行しました。2人が言っているのは、技術の経済へのインパクトは使われているロボットの種類にもよります。どのロボット、どの技術を実装するかということによって経済へのインパクトが変わります。そして経済状況にもよります。ロボットといってもいろいろな種類があります。米国とドイツで使われているロボットも違うと思います。AcemogluとRestrepoはそう思います。例えばコボットと呼ばれている協働ロボット、つまり人間と協働するロボットもありますし、そして人間のかわりに使用されるロボットもあります。

そして労働者によりますが、例えば非常にモチベーションの高いそして給料の安い労働者がいたら、その労働者を勤め続けたいが、機械を使うことで製造・生産性を上げたいと思っている企業が多いと思います。だから、それは企業がまずそのメリットとかデメリットを分析して判断して、その後、技術を使うか使わないかということを決めます。

予測だけだから信用できないというふうに言っている人は必ずいます。でも、過去の転換、とにかく雇用市場の転換とか変革を見ると、昔も何回も変革があったけれど、それでも仕事がなくなっていないので、今も仕事はなくならないと思います。

推定に信用できないというふうに思っている人は、今回の技術的な変革は過去の変革と違うと思っている。なぜならば、現在機械は非常に賢くて何でもできるから、今回の変革は違うと言っています。でも、そうじゃないと思います。過去の変革も今回の変革も同じ仕組みになっています。仕組みはいつも同じです。確かに機械は今まで人間がやってきた仕事をやるけれど、過去の機械化も電化もそうでしたし、その後PCがオフィスに導入されて、今はいろいろな機械が連結されるわけです。でも仕組みはいつも同じです。

今までもそうだったけれど、これからもそうだと思いますが、仕事がなくならない理由は2つあると思います。1つは、企業は新しい技術を導入するのは、人を解雇したいからじゃないです。新しい技術を導入する理由は2つあります。まずは生産性を上げるためです。つまり同じ製品をもっと安い値段で提供できる製造目的です。または新しい製品を製造したい、という2つの理由です。だから新しい機械を導入することで、もしかしたらまず一時的に仕事が減るかもしれませんが、その機械のおかげで生産量が上がると、最終的に仕事がまた増える。

2つ目の理由を説明しますと、AcemogluさんとRestrepoさんもおっしゃっていますが、新しい仕事の創出という仕組みです。今までもそうでしたけれども、これからもそうだと思いますが、機械化、電化とかの時もそうだったけれども、その変化のおかげで新しい仕事が創出されました。今もそうですけれど、例えば人工知能をプログラミングする人が必要となってきました。昔はそういう仕事はなかったけれど。

だから、その1つ目と2つ目の理由、つまり生産性の向上と新しい職業の創出のおかげで仕事は増える、または変わらないという予測はできると思います。

そして、先ほど岩本先生は労働組合でも講演されるとおっしゃいましたので、もう1つコメントを申し上げたいと思います。AcemogluさんとRestrepoさんもそうおっしゃっていますが、やはり導入する機械の生産性が代替する人間の生産性より高くないと導入する意味がない。だから、新しい機械の生産性が高いと企業のメリットにもなります。それで、最終的に従業員のメリットにもなります。つまり仕事が増えるわけですね。もし新しい機械を使うことで例えば2ユーロだけ安くなると、あまり影響がない、あまり生産性が上がらないので、最終的に仕事もあまり増えないと思います。つまり、機械の導入で生産性があまり上がらないと、強制的にプロセスを改善する意味はないと思います。

そして新しい仕事の創出について1つコメント申し上げます。やっぱり新しい技術と新しい仕事を海外から輸入するのか、または国内でつくるのかということも大きな影響を与えていると思いますね。例えばそれは教育システムにも関連しています。そういう新しい技術を開発できる人、開発できる人材を自分の国で育てられるかどうかということは、大きな、大事なことだと思います。

このOECDの論文では、その結果を見ると、これは先ほどの70%のしきい値ですが、私たちの10%はここの70%以上の部分だけに関連しますので、相当しますので、この黄色い部分ですね。だからこの黄色い部分だけをとると、多分15%ぐらいになります。15%にはなるけれど、Frey and Osborneの50%にはなりません。

そして、そちらの部分は自動化の確率は50%から70%までの段階です。だから、その結果は私たちの結果とあまり変わらないですね。そのNedelkoska-Quintiniという研究は、確かに違うアプローチ、Frey and Osborneと違うアプローチを使ったのに、私たちの結果とほぼ同じ結果が出ました。なぜなら、この黄色いところだけを私たちの結果と比較するとほぼ同じ結果です。

その確率を判断するために使われているしきい値、70%のしきい値は本当に無作為に選ばれたと思います。ある仕事の活動の72%は自動化される可能性が高いのでその仕事は自動化されるけれど、68%しか自動化できないのであればその仕事はもう自動化されないというふうに、何でそういうふうに判断するのかよくわからないです。だから、もうちょっと違う解釈方法を使ったほうがよいと思います。この研究でもそうされていると思います。この青い部分を見ると、やはりそれは職業の中で自動化できる活動ですね。その割合が高ければ高いほど、その仕事が完全になくなるわけじゃなくて、仕事の内容は変わってくると言えると思います。

【岩本】 メラニー・アーンツの研究はドイツ政府の委託であり、ドイツ政府の表紙で発表されています。ですが、おなじドイツ人でありながら、オーストラリア人であるFrey and Osborneのことはよく知っていても、同じドイツ人であるメラニー・アーンツの偉大な研究成果を知らない人々が多いと感じるのですが、なぜでしょうか。

【メラニー・アーンツ】 私たちの研究の結果も実はメディアで報道されたし、ドイツの中でも、そして外国でも、米国とか日本でも普及されたと思いますが、やっぱりFrey and Osborneの研究結果はいろいろな理由で残っています。Frey and Osborneの結果は自分の目的にも合うので、政治家とかいろいろなステークホルダーはそのFrey and Osborneの結果を主張して使い続けています。

労働組合もそうですけれど、深刻な予測のほうが、より自分たちの役に立つのだと思います。

そして、私たちは一応研究者ですね。もちろん、いろいろな連合会とかでも講演はしているけれど、主な目的は研究することです。だからあまりそういう発表とか講演する時間はないという問題もあります。

そして、私たちはドイツの連邦労働・社会省とも緊密な協力関係を持っています。ドイツの連邦労働・社会省の中でデジタル化に関するシンクタンクがあります。そのシンクタンクの方はもちろん雇用の将来に詳しいし、いろいろな発表された結果もよく知っているけれど、普通の企業だったらまだそんなに多分詳しくないと思います。

そして、ドイツのある程度、多分ドイツではある程度知られている哲学者がいます。Precht氏です。Prechtという哲学者は雇用の将来に関する本を発行しました。実はそのPrechtさんはFrey and Osborneの結果だけを使いました。いろいろな人はやっぱり雇用の将来に対していろいろ心配しているので、その本はすごくよく売られているが、それは無責任だと思います。だから科学者の責任は人々に正しい情報を流すことだと思います。だからそういうのを見ると、本当にいらいらします。科学者はそれは正しくないということを強く言うべきだと思います。

【岩本】なるほど、より深刻な影響が出ると言った方が、本が売れたり、視聴率が上がったり、予算が付いたり、自分たちの主張が通るなど自分にメリットが大きい人々がたくさんいるのですね。そういう人々はメラニー・アーンツの成果を知りながら、Frey and Osborneの数字を使い続けているのですね。日本でも同じ現象が見られます。国が違ってもみられる現象は同じなのですね。

ですが私は科学者です。自分が正しいと信じる真実を主張することが科学者の本文と思います。

2020年2月4日掲載

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