IoT, AI等デジタル化の経済学

第101回「新潟県長岡市による中小企業へのIoT導入支援事業」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

新潟県長岡市では、市内の中小企業へのIoT導入を支援する事業を行っている。その取り組みについて紹介したい。

はじめに

新潟県中越地区に位置する長岡市は、明治中期の油田開発に端を発し、石油掘削用の機械製造業が発達した地域である。工作機械メーカーをはじめ、精密機器、鋳造、繊維、食料品など幅広い分野にわたり、ものづくり企業が立地している。

しかし、近年は、人口減少や後継者不足などにより、各企業の技術力や生産性の向上、技術伝承・人手不足の解消等が課題となっている。

そこで、これらの課題を解決する有効な手段となり得るものとして、製造業をはじめとする市内産業へのIoTの導入を、市を挙げて支援することとした。

平成29年8月に経済産業省の「地方版IoT推進ラボ」第三弾地域として選定された「長岡市IoT推進ラボ」は、市内企業の生産性向上、生産管理、人手不足等の課題解決のため活動を続けている。

1. 個別相談について

企業のIoT導入に係る疑問や課題を解決するため、市の産業イノベーションアドバイザーを中心とした個別相談を行っている。これは平成29年9月から実施し、現在も継続して行っている事業である。

アドバイザーや現場改善の専門家であるコーディネーターが企業を訪問し、個別の疑問や課題を相談する。必要によっては、相談員として登録している市内のITベンダーを紹介し、IoT導入の内製化を目指している。

図1

2. 導入啓発・人材育成事業について

市内企業の多くが、IoTとは何か・IoTで何ができるか分からない・費用対効果が分からない、という疑問や課題を抱えており、その疑問を解消すべく、平成29年度から導入啓発事業を継続して実施している。また、ITベンダーに頼るばかりでなく、社内にITリテラシーを持つ製造業従事者を育成することを目的に、人材育成事業も併せて行っている。

図2

全国での先進事例に詳しい講師を招へいし、市内企業のIoT導入への機運醸成につなげるほか、市の補助金等を活用しIoT導入を行った企業による事例紹介などを実施した。

アンケートでは、身近な市内企業の事例を聞くことができ参考になった、自社にも改善が必要だと感じた、といった意見を得ており、IoTの有用性について一定の理解を得られている一方、導入するには費用面や経営者の意識面で課題があるという意見もある。

人材育成事業では、長岡工業高等専門学校と共同で実施。加速度センサーや照度センサーを使って、「データの見える化」を体験した。学生もスタッフとして加わり、疑問点があればすぐに解決できるような体制をとった。

図3

3. 長岡IoTイノベーション・ハブについて

長岡市IoT推進ラボでは、平成30年度より「長岡IoTイノベーション・ハブ」(以下、ハブ)を立ち上げた。IT・IoT・AIを活用し長岡地域のものづくりに共通した課題を解決することで、市内産業全体の生産性の底上げを図るとともに、「長岡発のIoTシステム」開発に向け、活動を行っている。ものづくり企業・IT企業・学生・金融機関・行政など、異業種が参加し、フリーディスカッションで意見を出し合うことで、イノベーションの創出を目指す。

図4

平成30年7月から、月に1回2時間程度のディスカッションを行い、平成31年3月までに全5回のハブを実施。1回から5回までで参加したものづくり企業から課題抽出を行い、市内企業の共通課題を把握した。

共通課題となった「見積もり」「技術・技能の見える化」「日報のデータベース化」については、ワーキンググループ(WG)を設置し、少人数でより深く議論を行っている。

図5

①見積もりシステムWG

ハブのディスカッションの中で、長岡市内の製造業は多品種少量生産の企業が多く、リピート品が少ない、新規品や一品ものが多いという特徴があり、見積もりに苦慮しているという課題を抽出した。
リピート品が多ければ前回の見積もり額を参考にすることができるが、新規品の注文が多い場合、どのくらいの工数がかかるか予測がつかず、原価割れや失注が起きることも少なくないという。
社長や工場長といった、特定の人物しか見積もりができないという課題も浮き彫りになり、見積もりシステムWGでは、IoT・AIを活用した自動見積もりシステムの開発を進めている。

②技術・技能の見える化WG

熟練技術者の技術・技能は、勘や暗黙知によるところが大きく、後継者を育てるに当たり、言葉で伝えることが難しいという課題を抽出した。また、人材不足により、近年は文系の学生が入社する場合も多く、技術指導も難しい状況が生じている。
工学の基礎を勉強していない人にも、できるだけ早く技術を習得させ、今までよりも短い期間で熟練技術者に成長してほしいという経営者の意見に応えるため、技術・技能の見える化WGではVR・AR・モーションキャプチャー等を活用した技術承継を検討することになった。
技術や技能は、体験することや人に教えることで学習の定着率が高くなることが分かっており、WGでは体験や教育を活用したシステム開発の検討を行っていく。

③日報のデータベース化WG

日報には不良の際の修正情報や、対策を行った内容が記載されているが、現状多くの企業では、紙文書として綴るため、見返すことが難しい。そのため、社内の「有益な技術情報の喪失」が生じているという意見が出た。
日報のデータベース化WGでは、スマートフォンやタブレット端末を使い、作業者が簡単に入力できるシステムを開発することとし、社内全体で情報共有や過去の実績の検索ができるものを目指した。
実証フィールドを提供した企業と、ITベンダーの協力のもと、簡易システムによるPoC(概念実証)を実施。まずは紙文書で作成していた、部署間を行き来する依頼書等をシステム入力によりデータベース化した。活用を続けていく中でデータを蓄積し、AIの活用により過去の情報から必要な情報を検索するなど、技術情報を有効化できるよう検討を行う。

4. 最後に

長岡市では、平成29年に「長岡市IoT推進ラボ」が発足されて以降、市内企業のIoT導入に向けて活動を行っている。今後もこのような活動を通して、長岡市内企業の高付加価値化および生産性向上を目指していく。

2019年10月21日掲載