9 人材育成投資の遅れ
現代は、将来が不確実な時代に突入している。すなわち、第4次産業革命と呼ばれるほど技術革新が早い時代、人口減少という未体験の時代、急速にグローバル化が進む時代である。その中にあって、企業にとっての最大の「宝」は人材である。
そのため、各国企業は、新しいアイデアを創造するための研究開発投資、人材を育成するための人材育成投資を大きく増やしているが、日本企業だけ世界の流れに逆行し、研究開発投資の伸びは少なく、人材育成投資に至ってはマイナスになっている。
日本企業は、雇用者に占める非正規の割合を増やし(図表3)、労働分配率を下げ(図表4)、人材育成投資(図表1,2)を減らしてきた。筆者は、かつて、ジャパン・アズ・ナンバーワンと言われた頃、日本企業の経営が、米国企業の経営者や米国の研究者に向かって「日本企業の最大の競争力の根源は従業員を大切にすることだ」とさまざまな場面で主張していたことを鮮明に覚えている。だが、今の日本企業にその面影はない。
(図表2)は人材育成投資の推移であるが、その中身は「OFF JT」である。すなわち、①研修、②企業派遣の海外留学である。特に筆者が若い頃、盛んだった外国留学、特にMBA留学は、今ではほぼ全ての日本企業で全廃された。
日本企業は、「新卒一括採用」で雇った新入社員を「ON JT」で訓練することは引き続き行っていることは各種調査で明らかとなっている。
だが、「ON JT」では、個人が仕事を通じて経験した「企業内経験値」しかない。
これでは、不確実の大きな時代にあって、新しいアイデイアを出す、新しい商品を開発する、企業を牽引する、といった「幅広い情報、幅広い世界、幅広い人脈」を必要とする仕事ができない。外国企業とのグローバル競争に勝ち残っていくことなど、到底不可能であろう。しかも「企業内経験値」しかないと容易にAIに代替可能である。
だが日本企業は、これまで人間への投資をどんどん削ってきたのである。これでは、企業の生産性が低く、グローバル競争に負けることは、自明であろう。人材への投資を軽視してきたツケが今、日本企業を襲っているのである。



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株式会社日本総合研究所山田久(2017)によれば、成人教育参加率が企業の専門職比率を高め、それが企業の生産性を高める(図表6,7)。すなわち、企業派遣の留学がほぼ無くなったことが、企業の生産性を減少させているという因果関係がわかる。


スイス・ダボス会議の事務局であるWEFは2016年に下記のレポートを発表した。すなわち、今後の第4次産業革命など不確実な時代においては、
・ICTのリテラシーや能動的学習などのスキル、認知能力,情報処理能力は中核的スキルとしての需要が高まる
・特に、そのなかでも多くの産業で、社会的スキル(感情のコントロール、コミュニケーション能力)が求められる
・そういった需要が高まるコンピュータ・数理関係,建築・工学関係,その他の戦略的・専門的職業は、良い人材を得るための競争が激しくなり、企業における人材の状況は2020年まで、より悪化する
・膨大なデータを分析・解釈できる人材、自社の専門技術を解説できるような専門的な営業担当者が求められる
・テクノロジーが変化するスピードが速く、人材の育成が困難である
と報告している。
日本企業は、WEFレポートの報告に逆行する道を歩んできたのである。

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