6 国際化の遅れ - ドイツとの比較で見えてくるもの -
6-3 中小企業の国際化に関する日独比較
ドイツも日本も中小企業の国であるといえる。中小企業の国際化が、産業全体の国際化を大きく左右する。ドイツは輸出を行う中小企業の割合は19.2%(日本2.8%)、対外投資を行う中小企業の割合は2.3%(日本0.3%)であり、ドイツと比べて日本は大きく国際化が遅れている。


ドイツの中小企業は、大企業を凌ぐペースで成長、付加価値および雇用者数の双方で大きく成長した。失業率低下に貢献したのも中小企業である。このためドイツにおいて中小企業は国の経済の屋台骨を支えるという意味を込めて「ミッテルシュタンド(Mittelstand)」と呼ばれている。
ドイツの中小企業の特徴は、①外国指向が強い「隠れたチャンピオン(Hidden Champion)」が圧倒的に多いこと、②それが大都市に集中せずに全国各地に点在していること、③そのROAが大きいこと、④Family owned company (家族経営、同族経営)が95%と多いこと、である。
吉村(三菱総合研究所)は「隠れたチャンピオン」の輸出に関し、以下のように分析している。ハーマン・サイモン『グローバルビジネスの隠れたチャンピオン企業』(2012年、原著2009年)に取り上げられている隠れたチャンピオン企業1,307社の売上高の平均は約400億円、従業員数平均は2,000人、売上高合計が50兆円超ほど。これら隠れたチャンピオンの輸出比率は推定6割以上とされる。すると、輸出額は約30兆円程度であり、これは日本の自動車・同部品の輸出額(14兆円)の約2倍に相当する。
隠れたチャンピオン(Hidden Champion)の定義は、Dr.ハーマン・サイモン(Herman Simon)によると、以下の通りである。
1 世界市場で3位以内に入るか、各大陸市場で1位。市場の地位は一般的に市場シェアで決まる
2 売上高が40億ドル以下
3 世間からの注目度が低い


縦軸;付加価値の変化率 横軸;雇用者数の変化率




「21世紀の隠れたチャンピオン」(2012.08.08)の執筆者であるハーマン・サイモン(Dr. Hermann SIMON、サイモン・クチャー&パートナース会長)が、日本と日本企業への教訓を提示してくれた。以下はその抜粋である(出所;経済産業研究所(RIETI)世界の視点から)。
日本にはドイツより大手企業が多い。日本にはフォーチュン・グローバル500企業が68社あるが、ドイツには34社しかない。しかし、日本の輸出額はドイツの半分である。日本の隠れたチャンピオン企業の数は、ドイツの6分の1に過ぎない。
日本の中小企業とドイツの隠れたチャンピオン企業には、はっきりした違いがある。 日本の中小企業は海外に目を向けず、むしろオペレーション面や効率性に気をとられている。企業文化、リーダーシップのスタイル、言語に関しては、依然としてかなり日本中心である。ドイツの隠れたチャンピオン企業は、より多くの外国人を雇用し、責任を負わせている。日本の中小企業は、かなりリスク回避的である。この姿勢は、組織が新しいことを習得することを大きく妨げる。
日本の中小企業の多くは、隠れたグローバル・チャンピオン企業になるだけの社内的な能力と技術力を持ちあわせている。しかしながら、ドイツの隠れたチャンピオン企業のように、精力的、迅速に国際化を進めていないため、潜在力を十分に活かせていない。日本はこのような自己抑制によって、グローバリゼーションの進展につながる多くのチャンスを逃している。
ドイツの隠れたチャンピオン企業は、日本の中小企業や、若くて野心的な起業家が同じような戦略を追求する上でのロールモデルとなり得る。日本企業は、世界で成功できる潜在力を秘めている。中小企業の国際化を大胆に進めることにより、日本の弱い輸出力を高め、高度な仕事を新たに創出できる。
*詳しくは原本をご覧下さい。 RIETI 世界の視点から 2012.08.08
https://www.rieti.go.jp/jp/special/p_a_w/
日独両国の産業構造に詳しいドイツ人は、ほとんど全員が、「日本の中小企業の技術力はまあまあ。だが、ドイツの中小企業と比べて決定的に違うのは、国際化していないこと」と声をそろえて言う。すなわち、日本の中小企業の生産性が低い最大の要因は、国際化していないことであるとの指摘である。だが、下記のように、日本には国際化できる実力のある中小企業は多い。ではなぜ実力はあるのに国際化していないのだろうか。その理由を上記のハーマン・サイモン氏が述べているのである。

また、「隠れたチャンピオン」はオーストリアに存在している。長年、日本に駐在し、日本の中小企業と比較して、なぜ日本の中小企業の国際化が進まないか、その要因について、オーストリア大使館商務部アーノルド・アカラー副商務参事官は以下のように述べた(2016年10月)。
1 どうやら、外在経済機関による海外進出に対するサポートが日本とは違うようだ
世界中、どこにでも商工会議所の事務所がある。この事務所も、商工会議所が大使館のなかに入っているだけなので、自分は外交官ではなく、オーストリアの本部は商工会議所である。世界の商工会議所は、無料のサービスを行っている。ある企業が、日本市場に関して問い合わせがあったとする。すると、私たちは、実際に日本企業を訪問して説明する。このように最初の市場開拓のステップは自分たちが行う。それがうまくいけば次にその企業から人がやってきて、自分たちが説明に行く。この事務所には職員が13名いて、実際に日本企業を訪問する専門家は5~6人である。オーストリアでもドイツと同様、企業は法律に基づいて商工会議所に強制加盟なので、会費を払っているのだからちゃんとやってくれという期待がある。
2 どうやら、海外勤務に対する人事上の処遇が、日本とは違うようだ
オーストリア人は海外勤務が大好だ。給与が上がるし、手当もある。日本に来るオーストリア人は、まず若い技術者が半年から1年、単身で来る。滞在期間中、2~3回、帰国できる。次に、子供の心配がない45歳以上の人が来る。オーストリアもドイツや米国と同様、CEOになりたいならば、3~4年は外国の支店で働いてもらう。帰国するとポストがあがる。帰国後、自分が戻るポストがないという不安があるため、赴任する前に人事と交渉してから赴任する。それはドイツも同じである。だが、45歳くらいになると、自分はどこまで上がれるか大体わかるようになる。そのため、一旦、外国に行ったら、もう帰国せず、その国の支店長になり、また別の国の支店長になるという道を選択する人もいる。
同氏以外にも、日本とドイツの産業構造の双方に詳しい専門家の方々にインタビューを続け、その結果を以下の図にまとめた。

7 経営者がリスクをとらないため投資が進まない
企業が保有する利益余剰金は毎年積み上がり、財務省が発表した2017年度の法人企業統計によると、企業の蓄えた利益剰余金が、金融・保険業を除く全産業で前年度比9.9%増の446兆4844億円となり、過去最高を更新したと発表した。企業は投資しようと思えば投資できる資金は保有しているのである。

日本の設備投資は金融危機後、伸びが鈍化した。特に、規模が大きい企業ほど設備投資の伸びが低い。

金融危機後、日本は世界的にも珍しい程の大幅な生産性の低下を招いた。

金融財政政策で需要を喚起しても、その効果は時間と共に減少し、最終的に、GDPは潜在成長率に収束していく。そのため、持続的な成長のためには潜在成長率を高めないといけない。だが。投資不足、イノベーション不足により、潜在成長率は益々低下している。

一方、ドイツは日本と同じく出生率が低く、人口減少が始まっているため、生産年齢人口も減少しており、潜在成長率に占める労働投入寄与度はマイナスになっている。だが投資とイノベーションの寄与度が高いため、ドイツの潜在成長率は高い。

日本では生産設備が老朽化し、製造業の国際競争力低下を招いている。
