IoT, AI等デジタル化の経済学

第85回「中堅・中小企業にIoT導入を円滑に進めるためのノウハウ(3)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者が主催する「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化研究会」は、2018年度で3年目に入った。今年度もモデル企業2社を対象に検討を進めている。

これまで2016、2017年度と2年間、モデル企業7社を対象に検討を行い、中堅・中小企業にIoT導入を円滑に進めるためのノウハウが研究会に蓄積されてきた。

そのノウハウの公開は、今回で第3回目である。

1 まず最初に作成するのは、IoTシステムの基本コンセプト

いきなり技術から入るのではなく、何をしたいのか、誰が見るのか、何をどう変えたいのか、という基本コンセプトの作成が最初である。
IoTシステムは、設備のように既製品を買ってくるものではない。1つ1つを手で作り上げる手作り品である。そのためには、「基本コンセプト」が必要である。
また、判断に迷ったとき、立ち戻ることができる原則が必要である。
また誰が見るのか。現場の作業員か、班長か、課長か、工場長か、役員か、社長か。誰が見るかによって見たいものが違うため、収集するデータ内容およびデータの加工内容が異なる。
当初は、ある一部設備群のみを対象にIoTを導入したとしても、やがて工場全体のIoTへと進化したとき、個別ごとのIoTのつぎはぎとならないよう、将来の完成した姿を想像した基本コンセプトを決めておくことが重要である。

2 「As is」「To be」をあらゆるプロセスに関して作成する

 As is =  現状どうなっているか。何が課題か。
 To be =  どうあるべきなのか。向かう目標。
全ての「As is」「To be」のなかから、優先度1、優先度2、優先度3・・・と優先順位を決める。

3 どのくらいの精度のデータが必要か

データは、1時間おきでもいいか、5分おきか、1秒おきか…。
データは、ON OFFだけでいいか。10段階の精度が必要か、1000段階が必要か…。
目的を達成するために最も安価なデータ取得は、どういった内容か。

4 いくつかの選択のなかで、最も低コストの投資はどれか

中小企業のIoTは、「いかに安く投資して、最大限の効果を得るか」が醍醐味である。例えば、磁石と磁気センサーだけで、モノの移動データは採取できる。
また、今は、安い既存のシステムが多く売られている。それを買ってくればいいだけかもしれない。

5 現場の作業員が見るデータと社長が見るデータは違う

見る人によって、データの加工内容が異なるからである。

6 人間がイチイチ入力するのは避ける

人間が入力する方法では、単に人の作業を増やしただけになってしまい、長続きしない可能性がある。自動的にセンシングできるのがよい。

7 目的と手段との対応関係の整理

(出典)国立研究開発法人 産業技術総合研究所 澤田浩之 総括研究主幹

目的(やりたいこと、解決したい課題)と手段(把握すべきデータや情報)の対応関係を整理しておかないと、必要なデータが収集されない、あるいは無意味なデータの収集に労力を割くといった事態に陥る。

<目的と手段の対応関係整理のための提案(QFD風整理表の作成)>
やりたいこと→そのために知りたいこと→それを知るために使えそうなデータと、ブレークダウンして、表にまとめる。その際、前提条件や、どの程度の即時性および精度が必要かも合わせて整理する。
[例]
やりたいこと: 稼働率向上
そのために知りたいこと: 作業が行われている時間、行われていない時間
使えそうなデータ: 日報(作業開始・終了時刻)、機械の動作モード信号、機械の電流値

QFD; Quality Function Deployment(品質機能展開)。例えば、以下のWebページ参照。
http://heartland.geocities.jp/ecodata222/ed/edj2-4-2-2-2.html

QFD風整理表

8 IoT導入に関しては大きく2つの考え方に分かれる

考え方(その1); IoTはあくまで「見える化」にとどめ、表示を見て、原因をつきとめ、対策を考えるのはあくまで熟練作業員である、という人間中心のシステムを構築。

考え方(その2); システムは、「見える化」だけにとどまらず、AIが原因をつきとめ、対策を人間に対してアドバイス。だが、最初の判断はあくまで人間が行う。そのため、過去の膨大な事例を記憶させる。

9  紙の文化の排除

多くの中小企業では、いまだに紙の文化が根強く、「紙で見たい」と考える作業員が多い。だが、紙を用いると、
①一旦、紙に情報を書いてから、それをPCに打ち込むと、時間とエネルギーの二重手間。直接、PCに入力すれば、作業工数が半分。
②紙を見ながら人間がPCに打ち込めば、必ず打ち間違いが発生。
③情報が紙の状態でしか存在しないと、誰かがその紙を自分の机に放置した場合、他者がそれを探すことに多くの時間を費やし、結局、見つからなかった、となりかねない。また、誰かが紙を使っているときは、他者は誰も使えない状態になる。
もし、作業員がどうしても紙を用いたいと考えるときは、基本的にはデータで保管するものの、見たいときだけ、紙に印刷すれば十分である。

10 データはとればいいというものではない

2016年モデル企業であるダイイチファブテックが抱える課題は、工場内の各設備の稼働率が、設備ごと、時間ごとに大きく変動し、仕掛品が一部の設備の前で滞留するなどにより、顧客からの受注量の上限値が、本来の値よりも低い水準で制約されることである。そのため、同社は、茨城県産業技術センターの支援を受けて、非接触方式による設備稼働率(3台)の測定を行った。
最終目標は、そのデータを用いて、全ての設備の稼働率の平準化及び向上を目指すことであった。だが、研究会参加から1年半経ったものの、現時点で、そこに至る解決策は見いだされていなかった。データは、最終の解決に至るまでを考慮し、どのデータを、どのように計測し、どのように見える化し、どのように使うか、と考えて採取しなければならない。
現在、同社はデータを有効に用いて大きな売り上げ増に活かしている。

11 1社に対して複数の専門家のアドバイスとサポート

研究会委員がモデル企業を視察した後、研究会でIoT投資先として有望と考える分野を発表したが、その内容は、各委員に全て異なっていた。これを見ると、中小企業がIoT投資としようとする際、1人のみのアドバイス又はコンサルティングだけでは、単一のアイデアしか出ず、その投資先が必ずしも企業にとってベストかどうか分からない。できれば、複数委員からの複数の助言をテーブルに出して、そのなかから社長が選ぶといったやり方がよい。

12 工場を複数持つ企業では、どこかの企業でモデル的にIoTを導入してみて、うまくいけば、全工場に展開する

2017年モデル企業の金属技研が、この方法を採用した。

13 IoT導入の副次的な効果

2016年モデル企業である東京電機は、インタビューに対して以下のように答えた。すなわち、「当社は、従来、立会検査時に顧客の様子もあまり見ず検査成績表を説明していた。しかし、社員にタブレットを持たせ、会議室にプロジェクタを入れたところ目線が変化し社員が前を向いて説明するようになったことで顧客の表情が見え、顧客の要望に応えようとするようになった。接客の考え方も変化し、立会時の工場見学も工場全域を回るようになり、今まで顧客が来ない場所も見学するため、社内の元気な挨拶も定着し、ある顧客から『以前と変わった、まるで別の会社のようだ』と言われたりと、社内の雰囲気まで変わった。」
IoT専門家は、IoT導入がもたらす直接的な効果だけを考えてきたが、社内の雰囲気まで変えてしまうような力まであったということである。

14 実際にモデル企業が導入を表明したIoTの総括;

1)企業の資金力を超える投資が必要なものは対象外
2)計算したところ投資対リターンが小さかったものは対象外
3)導入後に自社で維持管理できないものは対象外
筆者の感想は、自社の能力で今対応可能な現実的な解決策である。いきなり高いレベルを目指すのでなく、まず現実的なところからスタートする。これらの対策が現実的に効果を現すのは、1~2年後であろう。その時点でまた、次の可能なIoT導入を検討する、という着実なステップが中小企業にとって現実的な手法ではないだろうか。
モデル企業は、IoT導入のノウハウを手に入れた。今回、研究会と同時並行的に進めた第一弾のIoT導入は、ほんの小さなステップかもしれないが、今後、第二、第三のIoT導入のステップでは、もはや試行錯誤することなく、目標に向かって最短距離で一直線に進むだろう。

15 中小企業のIoT導入を支援する専門家の必要性

当研究会を通じてわかったことは、
 1) 企業が抱える「課題」を見いだすこと  As is
 2) 「課題」の「解決策」を見いだすこと  To be
以上、2点が、中小企業向けIoT導入の最も重要なポイントである。しかも、1社ずつ全て「課題」「解決策」が違うというケースバイケースに対応する必要がある。この業務を担う高度な専門家を組織的に養成すること、そして「課題発見」「課題解決」の業務を組織的に進めるためのノウハウを蓄積することが必要である。
中堅・中小企業側は、「自分の会社に、IoTを導入すると、いったい、どういうメリットがあるんだ」「IoTで、何ができるんだ、教えてくれ」というのが、議論の最初のスタートである。
IoTシステム提供側は、これまで大企業から、具体的なスペックを以て受注を受けていた「具体的に、何をどうしたいのですか」「具体的にスペックを以て発注してくれないと、何もできない」というのが最初のスタートである。このように、議論は、双方が大きく離れ、噛み合わない平行線の状態からスタートする。
少しでも前進しようとすれば、お互いが、相手のことを理解し、歩み寄る必要がある。その双方の議論を収束させるための専門家が必要である。基本コンセプトを作成し、実際にスペックにまで落として制度設計し、プログラムの作成に至るまで導く専門家である。

16 研究会において実証し確認した研究会の進め方;

2016年度は、研究会の進め方についても、試行錯誤であった。2016年度の1年間の経験から、最適と考えられるに至った「進め方」が、本当に正しいのかどうか、2017年度の1年間、実際にモデル企業に適用し、再確認した。

第1回研究会;
 研究会の進め方の確認、モデル企業からの会社概要紹介、モデル企業視察の日時等の確認
(モデル企業現地視察)
第2~5回研究会;
 モデル企業が抱える「課題」を全てテーブルに出し、IoT投資先の選定に関する
 自由討論
  ・IoTシステム提供企業の3委員および有識者委員が「課題」と考えるもの
  ・モデル企業が「課題」と考えるもの
 モデル企業が、テーブル上の「課題」の中から、IoT投資を実行するものを選択
 「課題」をIoTを用いて「解決」する方法の検討と決定
 投資金額の想定、投資対リターンの試算
 投資の是非の決定
 ITベンダー/システムインテグレーター企業の選定
 IoTシステム導入
 効果の計測

17 同研究会と同様の支援方式を全国に展開する

東京という日本の中央だけで支援をするだけでは数に限度がある。この研究会だけで全国の中小企業を支援できない。どうしても全国各地で同様の支援の仕組みを展開する必要がある。
もし地方において、IoT投資を希望する中小企業に対し、本研究会と類似の支援を行うとすれば、

・公設試/産業技術センター、産業支援機関、商工会議所、中小機構、中小企業団体連合会など「中小企業支援」が当該機関のミッションである組織がコアとなって
 (能力とやる気があれば、どの組織でもコアとなり得る 例;地銀)
・そこに、地元のITベンダー/システムインテグレーター/情報通信会社と
・大学の研究者など第三者の有識者が参加して、支援チームを形成し、
・IoT 投資を希望する地元の中小企業に対して助言し、
・チームに参加するITベンダーのなかから、その企業にIoTを販売する企業が出る、そうすることでチームに参加するITベンダーにインセンテイブを与える
といった「地産地消」の形態が望ましいと考える。

<研究会方式のメリット>
1) 1企業が1企業に対してコンサルティングする形態だと、途中で諦めてしまうことが多いが、研究会方式だと、途中で諦めることができないので、脱落しない仕組み。
2) 1企業がコンサルティングする形態だと、その企業は金儲けのためにやっているとの色彩が強いが、公的機関が主催する研究会方式であれば、公益目的の色彩が強く、金儲けで研究会を開催しているのではない、と思うことで、中小企業は研究会に参加しやすい。
以上から、研究会方式は、中小企業にとって、参加しやすく、脱落しにくい仕組み。

<参加企業のメリット>
○ IoT導入企業 ;
中小企業は、どこに行けば適切な助言を得られるのか、わからないと訴えるケースが多い。本来であれば、専門のITコンサルティング会社に依頼すれば、3000~4000万円を支払うコンサルティングと、ほぼ同様のアドバイスを無料で受けられる(コンサルティング会社を雇うと、担当者1人からの助言だけ)。
○ ITベンダー、NTTなど情報通信会社 ; 
1社のみであれば、企業に営業訪問しても、通常は追い返されるだけ。なかなか話すら聞いてもらえないという悩みがある。だが、研究会に参加すれば、きちんと自社を中小企業にアピールできる。うまくいけば、自社製品を買ってもらえる。
<民間企業がコア機関となる場合のメリット>
・地銀がコア機関となれば、発生する投資に対して融資が可能 → 従来通りの融資方式では売上げが縮小している地銀の新しいビジネスチャンスになり得る
・工作機械・ロボットメーカーが、ビジネスとして、コア機関を実施するも可
→ 同社の機械を販売できるチャンスともなり得る

2018年12月3日掲載