IoT, AI等デジタル化の経済学

第82回「第4次産業革命を生き抜くための日本企業の生産性向上(1)- なぜ、日本企業の生産性は低いのか -」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

1 「100年に一度の大変革」の時代

われわれは今、大きな時代の転機に直面している。それを豊田章男社長(トヨタ自動車)は、「100年に一度の大変革」と呼んでいる。

1つ目は、これから本格的な人口急減社会を迎えることである。過去、人口が増えていた日本では、市場が拡大していたので、企業は成長し、給料は上がり、雇用は確保されてきた。年功制・終身雇用という日本型雇用は、右肩上がりを前提にした雇用システムであり、それがジャパン・アズ・ナンバーワンと言われるほど強い国際競争力を持つ日本企業の競争力の源泉と言われた。だが、これからの人口が減少する社会では、低成長の時代であり、市場が伸び悩み、生産年齢人口が減少するため、従来と同じ仕組みのままでは、企業はなかなか成長しない。

2つ目は、第4次産業革命と呼ばれるほどの急速な技術革新が進行していることである。企業は、この時代を、世の中のイノベーションの進歩よりもさらに先を歩かなければ、グローバルでの競争に負けてしまう。

1995年はウインドウズ95が発売開始された年であり、インターネット元年と呼ばれている。そこから今まで約20数年が経過した。この間、ベンチャーとして誕生し、一気にビッグビジネスにまで拡大し、グローバル競争で圧勝したのは、アマゾン(設立1994年)、アルファベット(同1998年)、ヤフー(同1995年)、フェイスブック(同2004年)など米国企業であった。これらの企業は、モノを作らず、単に「データ処理」を行うだけであった。データ処理の仕方を「アルゴリズム」と呼ぶが、その独創的なアルゴリズムを考えだし、たくさんのデータすなわち「ビッグデータ」を持つことによって、わずか20年前後で一気に世界的な大企業に成長したのである。

図表1:米国のIT・インターネット分野の企業の設立時期と従業員数等
図表1:米国のIT・インターネット分野の企業の設立時期と従業員数等
単位:従業員数;人 収益・利益;$1百万USドル
(注)従業員数はフルタイムとパートタイム従業員数の合計値(但し、パートタイムはフルタイムの2分の1で計算)
出典:Fortune 500 (2017) http://fortune.com/fortune500/

この間残念ながら、日本では、アマゾンやフェイスブックに相当するようなビッグビジネスが生まれなかった。米国で見られた現象が、なぜ日本では見られなかったのだろうか。

過去20年間、ドイツにおいても、米国のようなデータ処理を行うビッグビジネスは生まれなかった。ドイツは、もともと自分たちはものづくりの国なので、米国のようにデータ処理だけでモノを作らずにビッグビジネスができるとは思っていなかった。そのため、彼らは徹底的にものづくりを突き詰めていったのである。そしてものづくりに情報通信技術を体現するインダストリー4.0構想に行きついた。ドイツにとっては、あくまでものづくりが基本にあり、そこに情報通信技術を付加するという考え方である。「独り勝ち」と言われるドイツ経済を実現したことは、こうしたものづくりを突き詰めるドイツのやり方が成功してきたことを示している。米国は米国の、ドイツはドイツのやり方で、経済発展に成功したのである。

では、日本は、どうだったのだろうか。日本は、ドイツのようにものづくりに徹底的にこだわったのだろうか、それとも米国のようなデータ処理によるサービス業を追求したのだろうか? 日本の産業は、どこを目指しているのか、中途半端に見える。また最近日本で増加しているサービス業の分野への情報通信技術の応用は、米国のような新しいビジネスモデル創出による売り上げ増でなく、サービス産業の生産性向上という「効率化・合理化」である。効率化・合理化から生まれる利益は、総売上高が変わらないのであるから、微々たるものでしかない。

それでは、1995年(インターネット元年)以降のこれまでの日本企業の戦いぶりはどうだったのだろうか?

バブル崩壊以降、個人消費がずっと冷えたままになっているが、家計調査を見れば分かるように、その個人消費のなかで唯一、消費が拡大しているのが「情報・通信費」である。最近の若者は、食事や衣服の費用を削り、新聞や本を買わず、テレビを見ないで、パソコンやスマホに多額の家計費を使っている。その唯一、消費が拡大してきたパソコンとスマホに使われているOS、CPU、画面、検索ソフト、事務ソフトはほとんど全てが米国製か韓国製である。本来であれば、少なくとも、日本市場で流通販売されている情報機器くらいは、日本製が席捲していてもおかしくない。少なくとも、これまでであれば、日本メーカーは、せめて日本市場くらいは日本製品で埋め尽くした。

近年、最も伸びた成長分野で、日本企業は他国との競争に負けてしまった。

OS;Windows, iOS
CPU;Intel, AMD, IBM, ARM Ltd
画面;LG Electronics, PHILIPS, Acer
検索;Bing, Google
事務ソフト;Microsoft (PowerPoint, Word, Excel)

*売れ筋商品であるスマホ、タブレット、パソコン等の製品やCPU、OS、画面など最も付加価値の高い中核品は外国製が圧倒的に多い。

インターネット元年(1995年)以降、世界では激しいグローバル競争が行われて来た。その結果、日本企業はどうなったか。個々の電機メーカーの名前を挙げるまでもなく、日本企業は惨敗したのである。

私が就職した頃、日本経済は裾野産業が広い「自動車」「電機」の2業種に主に支えられていると教わった。国際競争力の強いこれら2業種が輸出して外貨を稼ぎ、それをもって国内産業を潤したのである。だが、過去20年間、激しいグローバル競争の結果、「電機」は縮小していった。(図表2)は、工業統計に基づき、10年おきに日本の製造業の構造変化を見たものである。工業統計は、出荷額、事業所数、従業員数の3つの数字の毎年の変化を捉える極めてシンプルな悉皆統計であるが、そこに1995年には大きな存在感があった「電機」が2014年にはほとんど姿を失ってしまったことが示されている。

だが、現時点で存在感がある「自動車」であるが、今後10〜20年、電機自動車(EV)化、人工知能(AI)の搭載、3次元プリンターの普及、所有からシェアリングへ、という大きな変革の荒波を被ることになる。その大きな時代の変化のなかで、日本の自動車産業はどこまで生き残っていけるだろうか。

図表2:工業統計に見る10年毎の日本の製造業の構造変化
図表2:工業統計に見る10年毎の日本の製造業の構造変化
出典)工業統計

筆者は、これまで長年に渡って「独り勝ち」といわれているドイツ経済の強さを解明することに尽力してきた。ドイツと日本を単純に比較すると、「日本はドイツに比べて、人口が1.5倍、企業数が1.5倍、GDPが1.5倍である。だが、ドイツは日本に比べて、年間労働時間が2/3しかなく、時間当たり賃金が1.5倍もある。日本もドイツも製造業が主力産業であるが、ドイツの製造業の生産性は日本の1.5倍もある。」といえる。

ドイツに旅行すれば、すぐにわかることだが、ドイツは日曜日、商店街は全て休みになる。すなわち、365日のうち、1/7は経済活動を完全に休止している。平日は残業しないでさっさと家に帰り、戸外のレストランでながながとおしゃべりに興じている。そうでありながら、「独り勝ち」といわれるほど強力な経済力を有している。週末でも、めいっぱい経済活動している日本は、そのドイツの2/3の生産性しかない。

ドイツは日本と同様、製造業を主力産業とし、人口減少・少子高齢化が進行している。1989年に東西統一を行い、西独マルクの約1/10であった東独マルクを等価交換し、西独に比べて生産性が約1/3の東独2000万人を抱え込んだ。景気が大きく落ち込み、「欧州の病人(Sick man of Europe)」と呼ばれたが十数年でユーロ圏で最強の経済力を有するに至り、「欧州経済のエンジン」「独り勝ちのドイツ」と呼ばれるまでになった。いまや、ギリシャ問題や移民問題などをみればわかるように、ドイツの経済力無くして欧州は存続しえない。

潜在成長率を見ると、ドイツは人口減少の影響で2000年以降、「労働投入寄与度」はマイナスだが、投資とイノベーションが大きく寄与し、潜在成長率は約1.7%程度ある。一方、最近の日本の潜在成長率は、計測方法にも依るが、0〜1%程度しかない(図表3、図表4)。今後とも、人口減少・少子高齢化が進行するため、「労働投入寄与度」はマイナスが続くと予想されるが、日本は、ドイツ並の投資とイノベーションを実現できれば、ドイツ並の潜在成長率を達成可能である。

ドイツも人口減少の影響で2000年以降、 「労働投入寄与度」はマイナスである。だが、イノベーションが大きく寄与し、潜在成長率は1.6%。日本は、ドイツ並、若しくは少し超える程度のイノベーションを実現できれば、潜在成長率2.0%を達成可能である。

図表3:日本のGDPと潜在成長率の推移
図表3:日本のGDPと潜在成長率の推移
出典)岩本・井上作成
図表4:ドイツの潜在成長率の推移
図表4:ドイツの潜在成長率の推移
出典)通商白書2015
図表5:米日独の製造業の収益力の変動要因分解
図表5:米日独の製造業の収益力の変動要因分解
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出典)通商白書2017

長期のデフレ下でのデフレマインド経営により、リーマン危機以降、設備投資は低迷。特に大企業ほど低迷している。また、ソフト分野の投資が低迷している。(図表6)(図表7)

図表6:日本の設備投資の動向(全産業)
図表6:日本の設備投資の動向(全産業)
出典:財務省「法人企業統計」より作成
図表7:ソフトウエア投資の伸び率
図表7:ソフトウエア投資の伸び率
出所:日本銀行「短期経済観測調査」

だが、企業が保有する利益余剰金は毎年積み上がり、財務省が発表した2017年度の法人企業統計によると、企業の蓄えた利益剰余金が、金融・保険業を除く全産業で前年度比9.9%増の446兆4844億円となり、過去最高を更新したと発表した。企業は投資しようと思えば投資できる資金は保有しているのである。

2 先進国のなかでもビリに近い日本企業の生産性

日本の生産性は先進国のなかでもビリに近い。いまだに多くの日本人が「日本のものづくりはすごい」と信じている製造業にあっても、その生産性は先進国のなかでビリに近い。もはや日本は「ものづくりの国」ではない。

筆者には、ある人が言った言葉をいまでも鮮明に覚えている。筆者が、本研究を開始しようと思い立った言葉である。ある人は言った。

「グーグルの社員一人一人は何の変哲もない普通の人間だ。むしろ日本人の方がはるかに優秀である。だが一体どういうわけか、会社全体のパフォーマンスとなると、日本企業をはるかに凌ぐ。この違いはどこから来るのか?」

図表8:OECD諸国の労働生産性(2012年の上位25か国)
図表8:OECD諸国の労働生産性(2012年の上位25か国)
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出典)日本生産性本部
*日本の労働生産性(就業者1人当たり名目付加価値)は、OECD加盟34カ国中第22位で、主要先進7カ国では1994年から20年連続で最下位となっている。
図表9:製造業における生産性の国際比較
図表9:製造業における生産性の国際比較
出所:Christoph Schröder, Produktivität und Lohnstückkosten der Industrie im internationalen Vergleich(2014),IW-Trends.p6

3 15歳では世界最優秀だが企業体になると世界に負ける日本

OECDは、72カ国・地域の15歳児に対して、2000年から3年ごとに「OECD生徒の学習到達度調査(PISA)」を行っている。2015年の調査には、世界約54万人が参加、日本からは198校、約6600人が参加した。その結果、

◦科学的リテラシー 日本 第1位 平均得点538点(OECD平均493点)
◦数学的リテラシー 日本 第1位 平均得点532点(OECD平均490点)
◦読解力 日本 第6位 平均得点516点(OECD平均493点)

となった。PISAは、人間の全ての面を正確に評価するものではないが、少なくとも、15歳時点では日本人は極めて優秀であることがわかる。

ところが、超優秀な15歳の日本人が大人に成長し、会社に就職して組織で仕事を始めると、どういう訳か途端に労働生産性は20年連続で主要先進7カ国最下位、OECD34加盟国のなかでも22位に落ちてしまう。

日本の若者は、決して仕事の手を抜いている訳ではない。毎日夜遅くまで必死で残業しているが、日本企業のパフォーマンスは低い。いまや日本人の労働生産性の低さは世界的に有名だが、いまだに日本人の多くが日本が世界的に強いと信じ込んでいる「ものづくり」の分野でも、日本の生産性は先進国のなかで、ほとんどビリに近い。日本の企業組織のどこかがおかしい。先日、ある友人が「わが社の会社に入ってくる新人は、入社時は目がきらきらと輝いているが、1年経つと、死んだ魚のような目になる」といっていた。その表現が必ずしも全ての若者を表現している訳ではないが、一面では真実であろう。若者の仕事のエネルギーが向かう方向性がおかしいのではないか。ここに日本経済の構造問題の本質がある。

すなわち、問題は「15歳時点で世界最優秀な日本人が、なぜ、大人になって働き始めると、途端に生産性が先進国でビリ近くまで落ち込むのか」と単純な形で課題設定できる。要は、この質問に答えることが研究の目標となる。

下記(図表10)をご覧頂きたい。来春卒業する東大京大の人気就職ランキングの上位10社が外資系である。これまで日本企業を支えてきた両大学の学生が日本企業を見限りつつある。

図表10:東大京大・20卒就職ランキング 2018年6月1日(金)
図表10:東大京大・20卒就職ランキング
【調査詳細:以下ランキング部分は同調査に基づく】
調査対象:東京大学・京都大学、または同大学院に所属し、2020年度卒予定のONE CAREER会員約1,800名のうち無作為抽出した450名
調査主体:株式会社ワンキャリア/集計時期:2018年5月22日時点
作成方法:企業別のお気に入り登録数(複数選択可)をもとに作成
東大・京大に在籍する現役就活生(2020年卒=現在大学3年・修士1年の学生)のお気に入り企業ランキングをもとに、上位校の就活トレンドを明らかにしていく。5月までの最新データをもとに作成しているため、早期就活生の「就職人気ランキング」である。
(※)ONE CAREERは東大生・京大生の実働就活生(何らかの就活サービスに登録・利用している学生)の50%以上が登録するメディア。「上位校のマーケット全体の動きを、ほぼ正確に表している」と思っていただいて問題ない

4 日本企業の生産性が低い要因の「仮説」

日本企業の生産性が低い原因については、きちんと実証されてはいないが、経済学・経営学の専門家の間では、土地勘のようなものが存在している。それを挙げると以下の要因が原因ではないかと考えられている。
①国際化の遅れ
②経営者がリスクをとらないため投資が進まない
③情報化投資の遅れ
④人材育成投資の遅れ
⑤企業のアウトプットに結びつかないムダな仕事が多い
⑥労働形態、労働時間、賃金等に対する不満から来る働く意欲の喪失
⑦学校教育において生産性の低い人間を作り出して社会に輩出

すなわち、「企業が悪い」①~⑥と「学校教育業が悪い」⑦の2つに分けられる。筆者は、それぞれに対応し、2つの研究プロジェクトを立ち上げた。

「企業が悪い」の「仮説」については、以下のように要約できる。

近年、我が国を取り巻く国際社会では、「情報化」「国際化」の大きな変化が生じている。そうしたなかで、日本企業は古い体質のまま旧態依然とした状態で、若くて優秀な頭脳を、企業のアウトプットとは関係のない業務で消耗させ続け、「情報化」「国際化」の大きな潮流に完全に乗り遅れたことが最大の要因である。
注)「情報化」=情報化投資+高度情報化時代に必要な高スキル人材の育成

5 日本企業の生産性を上げるための研究プロジェクト

まず、筆者は、「企業が悪い」問題の原因と対策を検討するため、下記の通り、「日本企業の生産性を上げるための研究会」を立ち上げた。

<日本企業の生産性を上げるための研究プロジェクト研究計画>

課題設定(リサーチクエスチョン);
日本企業の生産性を上げるため、企業が実施すべき具体的なミクロレベルでの個々の「対策」を、投資対効果が大きい順に挙げる。
会社社長の「わが社の生産性を上げるには、具体的に何をどうすればいいんだ。教えてくれ。」という疑問に、優先度の高い順に答える。
生産性の定義;
当面は労働生産性とするが、ケースバイケースで必要な他の生産性も用いることがある。
方針;
本研究チームは外資系コンサルテイング会社ではないので、経済学・経営学等をベースとしたアウトプットを狙っていく。

スケジュール
約3年程度を目途
過去の研究のレビュー
企業ヒアリング 日本企業、米国企業、北欧企業、ドイツ企業
仮説設定
アンケート調査 制度設計 実施
分析 執筆

委員;
研究プロジェクトリーダー
岩本晃一 日本生産性本部上席研究員/経済産業研究所上席研究員(特任)
サブリーダー
滝澤美帆 東洋大学経済学部教授
戸谷圭子 明治大学専門職大学院グローバル・ビジネス研究科教授
枝村一摩 日本生産性本部生産性総合研究センター上席研究員
本間友貴 日本生産性本部生産性総合研究センター課長

「学校が悪い」問題と扱う「教育の生産性研究プロジェクト」は、まだ研究会のスタイルになっていない。まずヒアリングからスタートしている。

2018年11月12日掲載