IoT, AI等デジタル化の経済学

第81回「中堅・中小企業にIoT導入を円滑に進めるためのノウハウ(2)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者が主催する「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化研究会」は、2018年度で3年目に入った。今年度もモデル企業2社を対象に検討を進めている。

これまで2016、2017年度と2年間、モデル企業7社を対象に検討を行い、中堅・中小企業にIoT導入を円滑に進めるためのノウハウが研究会に蓄積されてきた。

今回、研究会の有識者委員を対象にヒアリングを行い、そのノウハウを公開することとした。今回は第2回目である。

Ⅰ.ヒアリング対象者;
宮澤以鋼 地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所情報・生産技術部長

1. 国のレベルでこういう研究会をやると、応募してくる企業は、それなりにモチベーションが高くて、資金も持っているところは多い。見学に行っても、そう感じられます。社長みずからも議論に参加して、研究会にも来られて、実際やろうということになると、数百万から数千万ぐらい投資する。

皆さんは、こういう研究会のいろんな意見を取り入れて、実際それぐらい投資してやっていこうという感じですよね。

私自身は、地方の公設の試験、研究機関で、中小企業とつき合っているのですが、それほど有力な会社は、なかなか見当たらない。掘り起こしはしているのですが、一緒にやろうよと誘っても、ちょっと難しい状況ですね。

一緒にやろうねというと、いいですね、と返事は良いんですが、具体的な話になっていくと、特に資金面になると、なかなか難しいですね。 IoTをやるとなると、すぐその効果がどういうふうに出るかが明確でないため、数百万単位になってくると、かなり慎重という感じです。 社長たちの話で、よく言われるのは、事務員1人の人件費が年間2、300万、それで投資したら、その人の分の仕事の効果が出るのかって聞かれます。

神奈川県内では、開発型をやっている3、40名、せいぜい7、80名ぐらい、100超えないような会社がわりと積極的にやっているのですが、そういうところは、資金があまりない。

2. 売り手市場になっていて、あまり人が入ってこないのと、社長もあまり積極的に採用しない。ずっと固定費として負担しなければいけないというのは、すごいネックになっている。

根本的な問題として感じているのは、IoTやICTの人材はものすごい不足している。中小企業にとっては、かなり問題で、モデル企業の話を聞いていても、そこは結構ハードルが高いという感じはしている。要するに、自社内にそういった技術に精通している方がそれほど多くはなくて、結局、全部外注でやらないといけない。

頼んだ仕事が、実際やってみると、仕様書はそれほど完璧じゃないので、後でまたいろいろ要望を出すと、また請求されるというようなシステムです。

ソフトウエア関係は多分どこも、開発費はそういうふうに成り立っているんでしょうけど、それが中小企業にとっては非常に問題で、要するに人材を持っていないので、相手に対して言えないというか、書けないというか。こういう人材の育成がものすごい問題になって、それが会社の中でもなかなか進まない1つの要因かな。

今つき合っている会社さんを見ていると、最初は数百万から、せいぜい倍ぐらいでおさまるかと思ったら、1,000万円、2,000万円投資しても、なかなか最終形まで到達しない。

それはIoT自体の問題ではなくて、これまでも情報化投資をするときは必ず自分の会社の中にそれが分かる人がいなければ、全部外注に出して、ほとんどその外注の言いなりになってきた。

それでできなければ、システムはそれで終わり、というのは、私もよく見てきました。常にバージョンアップできるようなエンジニアを、1人でもいいから社内で抱えるということでしょう。

Ⅱ.ヒアリング対象者;
高鹿初子 富士通株式会社ものづくりビジネスセンターものづくりプロモーション企画部マネージングコンサルタント

1. 私が、今回の岩本さんの取り組みですごく良かったと思うのは、きちんと社長を引っ張り出してきて、社長に投資と効果を意識させた。それがあったからこそ、こちらからのフォローが、それほど手厚くいろいろなことをやったわけではないけれども、自分たちの思いの中で、いろいろ進められてこられた企業が出てきたのかなと思います。

IoTもお金をある程度かけないといけないので、担当者が勝手にいろいろやっていても、会社としては広がっていかない、そこをどう解決するのか。社長さんは忙しいし、経営とどれだけ関係するのかという観点がある中、ああいう場に引っ張り出して、複数の会社が、自分たちがどう取り組みをしてきたのかを公開する、だから自社でもやらないと、という、そういう話なのかなと感じました。

広島県が、岩本さんがやられたようなスタイルで、IoTを中小企業に広めるというようなことをやりたいと相談に来られた中で、なかなか参加する企業が集まらない、という話がありました。そのときも、「岩本さんの方式でやられるのだとすると、やはり1社だけではなくて、複数の企業を集めないと効果がでないのではないか。複数企業の社長に参加いただくことで競争意識が芽生えてやる気になるという話は、すごく重要なことだと思います」という話をしました。

企業の体力というようなところもあって、社長がやれといって、それに答えて、下がきちんと動けるのか、東京電機のようには自分たちで考えて、進められたところもありますし、そうならなかったところとかもある。その違いは何だろうなと思うと、社長から命題を受けたことに対して、自分たちでやりきれるような、従業員の能力なり、意識がないと、社長の気持ちを受けとめて、うまく回していけないということもあるのかなと感じました。

ほかのいろいろな活動との違いって何だろうなと思うと、社長が出てきて報告をする、ということが一番違っていて、だからこそやる気がある会社はちゃんとできてきたんだろうなという気がします。

研究会の場でどんな取り組みをしてきたのですか、報告してくださいと言われていたことも大きかったと思います。ほかの会社がある程度やっているのに、自社では何もやっていないというのはちょっとまずいだろう、というので、次回はきちんと報告する、という流れになっていったような気はします。

2. RIETIでやったほうは、本当に1つの企業に閉じて自分たちでやっていましたが、IVIではあくまでも複数の企業で現状がどうなっていてどうしたいのか、それをIoTでどう解決するのかを、みんなでその場で話し合っていくというスタイルです。複数の企業で寄ってたかっていろんなことを考えるということなので、他社の考えは参考になるものの、その企業の意思に合うのか合わないのか、初めからやりたかったことなのか、という差はあるのかなという気はします。

IVIはボランティアベースで、お金もかけずにやれる範囲でやりましょう、という形で進めています。RIETIの研究会では、1つの企業に閉じているので、その企業の社長が決断されてある程度の投資をされた企業もいます。だから、お金をかけてやりたいことをやっていく、そこの違いも大きいのかなと感じます。

IVIでは中小企業で社長が出てこられているところもありますが、大手企業になると、一部門の部長や担当の方だったりするとそこまでの投資はできない、という話になってしまうところもあります。

IVIでは実証実験まではいっても、それを継続して使い続けている企業がいるのかとなるとまた難しいこともあります。

IVIでは、カバーしている範囲がものすごく広いので広がりを持った取り組みではあると思いますし、いろいろ新しい取組みにも挑戦はしているところです。

実証実験とかをやって、ある程度効果があるのも分かるし、あと、そういう効果を出すために何を調べていったら良いのかとか、どういう仕掛けを使っていったら良いのかというようなことは、会員の中でその成果は共有していて、どんなことをやってきたかで整理はされてきていますがそれを自分たちの会社の中でやっていこうとするときに、投資を結びつけるための働きかけができるような仕掛けにまではなっていないのが実情です。

特に大手企業の場合は、過去に培っている業務システムもあり、いろいろな仕掛けがたくさんあって、実証実験で使った機械以外にもいろんな機械があり、みんなやろうとすると、ある程度のお金がかかってきてしまうわけで、果たしてそこを本当にやるのが経営的に良いのかどうかという判断がまだついていないと思います。

RIETIの研究会の取組みのように、本当に中堅中小の企業が、社長の一声でお金出してやりましょうというほうが、よっぽど進みが早いように思います。

3. もっとRIETIの活動を進めるとすると、一番初めに、今こうなっていますという参加企業の現状を見に行ったわけでもうしばらくしたら、今回の取組みで、本当にこう変わったんだよねというのを見に行けると良いと思います。

ここまでできたのであれば、さらにここから次に進むとしたら次はどうするか、ということをやるのが良いんじゃないでしょうか。 報告を聞くだけだったら、やっぱり実感がないですよね。現場まで見ないと、と思います。

4. 実際、まだまだ中小企業のIoT化は進んでいない、というのが現状なのかなという気はしています、何でですかね。

銀行などとうまく組んで、何かやれるといいのかなという気はします。銀行も投資しようと思っている企業にお金を貸して、企業がやる気になって、それを支えるような形で具体化していけると面白いのかなという気はします。

IoTは広がっているのか、というとそんなに広がってきていないのではないかという気もしてます。世の中的には、4年ぐらい前にIoTって何だとか、ドイツではインダストリー4.0っていってるぞ、日本はどうするんだみたいな流れがありました。そのころにIVIやRRIができて少しずつ勉強されてきて、ある程度分かってきて、何となく分かってきているけど、それで本当に効果を出すためにどうするの? 投資が伴うから「どうするの」というところでとまっちゃっているのが今の状況かなと思います。、そこをもう一段何とかしないと、そのまま停滞になってしまうという危機感を持っています。

中小企業の社長でIoTに関心のある人は、もう大体勉強して分かっています。やりたい企業はどんどん先に行っている。けれども、まだまだとどまっている企業は多いと思います。実際ここから先に進むのであれば、投資をしないといけない、お金が必要だというところでとまっているのではないでしょうか。投資をしないといけないというのと、新しい仕掛けをいれることでいろいろ業務を変えていかなければいけない場合もあります。だから、単にセンサーを買ってくれば済むというわけにはいかないので、その辺の仕掛け、仕組みをどうしていくのというところまでは、まだまだハードルになっているような気はします。そこを突破するような仕組みを考えていかないと本当に日本のIoT化が進んできたとはいえないのではないでしょうか。

2018年10月22日掲載

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