IoT, AI等デジタル化の経済学

第80回「中堅・中小企業にIoT導入を円滑に進めるためのノウハウ(1)」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

筆者が主催する「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化研究会」は、2018年度で3年目に入った。今年度もモデル企業2社を対象に検討を進めている。

これまで2016、2017年度と2年間、モデル企業7社を対象に検討を行い、中堅・中小企業にIoT導入を円滑に進めるためのノウハウが研究会に蓄積されてきた。

今回、研究会の有識者委員を対象にヒアリングを行い、そのノウハウを公開することとした。

Ⅰ.ヒアリング対象者;
澤田浩之 国立研究開発法人産業技術総合研究所製造技術研究部門 総括研究主幹

1. IVIの取り組み等もいろいろ見て、一番重要なのは、参加される企業があきらめない仕組みをつくること。

単独でやろうとすると、みなさん忙しい、お金がないで、最初は頑張るが、それが続かずに途中でやめてしまう。中小企業のIT化、IoT化が進まない一番の要因は、そこだと思っている。

あきらめない仕組み、あきらめられないようにする仕組みは何か、それは、周りを固めること。この研究会のような形で参加すると、周りには私も含めていろんな委員もいるし、ほかの企業も参加している。そういう中で、進捗を報告しなければいけないという状況になると、やめられない。「一抜けた」が言えない。

日本人のカルチャーというか、気質として。そうやって継続していくということができる環境づくりが一番大事。公的機関としては、そういう仕組みをつくることが大事。一対一の支援になると、相手は「やめた」が言いやすいが、集団の中でやっていると、言えなくなる。 IVIの取り組みも同じ。あそこは冷静に考えても不思議な団体で、いろいろな企業が参加しているが、みんなお金払って参加している。同じような課題を持つ企業で集まってワーキンググループをつくり、そこで仮想的なAsIs(現状)とTobeをつくり、実際にベンダーも参加してシステムづくりをやり、さらに自社の工場を提供して、その一部の中で実験するというところまでやる。全部持ち出しでやる。

なぜそれができるかというと、「抜けた」が言えない状況になっているから。ワーキンググループから自分が抜けたらほかの人に迷惑がかかるし、何か後ろ指さされるんじゃないかという、後ろめたさもある。冷静に考えるとすごく不思議で、お金払って、労力払って、つくったものは自社のシステムそのものにはならない。

今回の研究会も、そういう仕組みができていた。企業に最初やる気があり、それが継続できるような仕組みがあった、そこが一番大きい。

各県の公設試とか、県の商工労働部で、できる取り組みは、まずそういう環境を提供すること。一企業がそういう研究会をやりますというと、皆さん警戒する。囲い込まれるとか、結局お金払わなきゃいけないんじゃないかと。そこを、公的な機関が音頭を取ることで、「ぼったくりはないだろう」という一種の安心感が得られる。

2. 参加される委員の方も、公的な場に行くとなると、社内的に理由がつけやすい。県の勉強会があるから行きますとか、県の研究会があるから行きますというと、社内的に説明がしやすい。

実際に企業の方が、作業時間が取れないという問題がある。日常業務があるので、週に1回でも、月に1回でもいいけども、確実にその時間を確保するというのも方法としてはある。

ある県では、勉強会を月に2回ぐらい、何曜日の午後とか決めておく。そこに県の方がやってきて、ソフトウエアのコーディングをやるという作業時間を確保する。それが日常業務の中ではなかなかつくれない。

外に出て、この時間いませんというのが、会社でもオーソライズされていていると、そこで時間を確保できる。定期的に3、4時間確保できるということは、その仕事が継続できるということ。

実際にある企業から聞いたが、仕事が入ってきてしまうと、途中で作業時間がとれない。そこで、自分で作業に集中する時間を決めたと言っていた。例えば何曜日かの午後、この時間だけはもうこれだけやると会社中に宣言して、その間、俺にはさわるな、と。

3. 作業する人が孤立しないようにするということ。IoTにしろ、ITにしろ、今までにないものをつくろうとするので、できるまでは、社内の理解が得られない、。

一般論として、こういうのが必要ですというのは、うん分かったとなるが、実際にこういうものをつくろうと思っているときに、モノがないと、自分でもうまく説明しきれないし、ましてや、相手のほうはそれが本当に役に立つのかどうかわからない。

システムをつくる人だけではなくて、データを入力する人の協力が必要なので、そういう人の協力を求めると、面倒くさいから、露骨に嫌な顔をされる。そういう逆風と戦い抜いていく上で、研究会に参加することで、愚痴を言う相手や、励ましてくれる相手がいたことは大きかったという。社内で一人でやっていたらそれはもう心が折れてしまう。

心が折れないように、別に周りが何かしてくれるわけではないけれども、とりあえず意識を共有できる仲間がいると、継続できる。

4. 公的な機関の人は、あまりそういった必要性がわからない人が多いのではないか。どうしても技術のほうにいってしまう。

技術的にこういう仕組みが、こういうシステムが必要じゃないか、こういうツールが必要じゃないかというほうにいきがちなような気がする。それよりも実際に作業に携わる人が、続けられるような環境づくりというのが、とても大事。それはまさに、中立的な、公的な立場にある人にとって、取り組んでいくべきところではないか。

5. 関わる人が、あまり若過ぎると、柔軟性があって仕組みはつくれるが、社長に急かされたり、文句を言われたときにどうしても萎縮してしまう。その方の上司にあたる課長・部長クラスの人が、ちゃんとクッションになってくれないと、とても現場は持たない。

6. 技術論で言うと、そういう仕組みづくりをする手順としては、①まず現場の現状を正しく理解することから始まって、それから、②問題は何かという、問題をまず特定して、それからあと、③その問題の原因は何かというのを特定して、それから④解決方法を考えて、⑤社内の仕事の仕方、仕組みを変えるなりして、初めてそこで、⑥それに合ったソフトウエアだとかのツールが出てくるんですけども、トップの方はそこが見えていなくて、いきなりツールのほうに目がいってしまう。

展示会なんかできれいなツールを見ると、これを入れれば全部問題解決するんだろという幻想を持ってきて失敗する。

7. 要は、環境づくりとその手順ですね。まずAsIs、Tobeという形で表現して、現状をちゃんと絵に描きましょう。で、将来目指すところを絵に描きましょう。で、その2つを比較することで、課題は何かというのを特定させていくとか、あと、ブレーンストーミングの方式でみんなでやるとか、というふうな仕組みづくりが大事です。

Ⅱ.ヒアリング対象者;
角本喜紀 日立製作所産業・流通ビジネスユニット企画本部 研究開発技術部長

1. 参加された中堅・中小企業の方々は経営者の方を含めてかなり問題意識が高かったと思います。何か新しいこと、現状が必ずしも悪いわけではないが次の尖ったことに取り組もうという意思のある方々でした。最終的には利益や売り上げを最大化することが参加者皆さんの共通目標で、これは大企業だろうと中堅・中小企業であろうと同じなんだと改めて感じました。あと、従業員の満足度の向上とか、従業員に気持ちよく働いてもらわなきゃいけないということも盛んに仰っていたのが印象的でした。

2. IoTを活用する場合、始める前に、何に使うのか、何のためにやるのかを明確にする必要があります。例えば、設備の稼働率をまず見える化をするとか。なるべく具体的なほうがいい。課題が曖昧なまま始めると、やってみたがそれなりの結果が出ただけで終わってしまいがちです。どの程度の効果を期待するか、そこから得られる価値の評価も大切。金銭的なものでもいいですし、スペック的なものでもいい。リードタイムだとか、速くするのはどれぐらいだとか、ある程度具体的なほうがいい。

代表的な目的の1つに経営指標の見える化があります。QDCにおける品質だとか、デリバリーだとリードタイムだとか、特にコストのことをみなさん気にされていたと思います。これは大手企業も中堅・中小企業とも同じで、在庫の状況はどうか、たくさん材料を購入して余っていないか、仕掛かり品が溜まり過ぎていないかとか。そして、設備や人がちゃんと無駄なく働いているか、どこかが忙しい一方どこかで余裕がありすぎないかの意識も非常に高い。自動化できるところはどんどんしていきたいという意識も非常に高いと感じました。

3. 中堅・中小企業は、人や設備にかけられる予算は限られています。よって大手企業での事例が、そのままでは中堅・中小企業には適用できない場合があります。そこに中堅・中小ならではの工夫があると思います。例えば、通信や映像分野は、道具であれば昔と比べ格段に安くなっています。通信もWi-Fiがあるし、IoT関係のキャリア通信も随分と安くなっています。だから工夫次第ではいろいろ出来るのだろうと思います。問題意識を明確に持って取り組むと、費用をかけなくてもちゃんとした効果が出せるんだなと思って聞いていました。ファブ・テックの社長さんが、金をかけずにやると盛んに仰っていましたよね。その制約の中で何ができるかということで、あの方は茨城県の試験場か研究所に相談して、センサーを借りてきた。あれは立派だなと思って聞いていました。中小企業ならではの立派な取組みで、やれるところからやる。足りないところは、地方の産業の支援機関や研究所、試験場とか助けてくれる力をかりて、自身はミニマムコストで取り組む。自治体もそれが地域振興に役立つのであれば協力しやすいんだろう、そして、そういう仕組みというのが非常に大事なんだと感じました。どの程度コストをかけるかの検討も含めて、地方自治体の県でもいいし市でもいい、サポートできる部署がお手伝いする、そういう体制がよいのでしょうね。

4. 中堅・中小企業の中には、今までほとんど何も取り組んでこなかったところもあるでしょうから、それほど細かい精度でなくても効果がでる可能性があります。再びファブ・テックさんの取り組みですが、単なるオン・オフのような漠然とした大まかな数値でも従業員に周知化すると効果があるとのこと。細かいところまで見なければいけない、具体的にデータを取らないといけないと考えがちですが、お金をかけずに大ざっぱなデータでも効果が得られる場合がある、それは大きな発見でした。

2018年10月18日掲載