IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第77回「AI時代のジェンダー問題(2)」

岩本 晃一 上席研究員(特任)/日本生産性本部

「雇用の未来」に関して、これまでに発表された世界中の論文の中で、恐らく、最も世界に大きな影響を与えた最も重要な分析は、Autor, D. H. (2015)の分析である。

彼は、独自の計算方法で、米国における1つ1つの職(ジョブ)に対して、「スキル度」(例えば、当該職業で働く大卒比率、その他要因などを加味して計算)を算出し、横軸にスキル度0%の職(ジョブ)から順に100%に、左から右に向かって並べた。そしてそれぞれの職(ジョブ)ごとに、縦軸に雇用比率の変化をプロットした。すなわち、1979年から1989年の10年間の変化率、1989年から1999年の10年間の変化率、・・・・と2012年まで4本のラインを記入した。恒常的にマイナスになっている部分は、1979年から2012年まで恒常的に雇用者が減少していることを示している。

この図は、「スキル度」の計算については、Autor独自のものがあるが(この点については第三者から特に反論は出ていない)、図自体は、米国における1979年から2012年までの歴然たる事実である。この図から次のことがいえる。

第一に、中スキルの職業の労働者が過去継続的にずっと減少を続けている。
第二に、低スキルの職業の労働者が過去継続的にずっと上昇を続け、かつ、上昇スピードが加速している。
第三に、高スキルの職業の労働者が過去継続的にずっと上昇を続けているが、上昇スピードが減速している。
第四に、雇用が失われる境界が、より高スキルの職の方に移動している。

図1:米国におけるスキル別職業の割合の10年毎の変化
図1:米国におけるスキル別職業の割合の10年毎の変化
出典)1980, 1990, and 2000 Census Integrated Public Use Microdata Series (IPUMS)よりAutor (2015)が作成

このAutorの過去の実績を分析した結果を、ポンチ絵として分かりやすく書くと(図2)のようになる。

低スキルの労働者数が増えていることは奇異に思う読者がいるかもしれないが、以下のように説明したい。例えば、ビルやトイレの清掃員を例に挙げる。彼らの仕事(ワーク)のうち、一部の作業(タスク)では、床掃除機や巨大な送風機など重労働の部分は機械で代替されつつあるが、まだ人間全体を機械で100%代替するまでには至っていない。そのため、重労働から解放されつつ、ビルやトイレの数が増えるに従って、労働者数は増加してきた。

中スキルであっても、これまで機械化が進み、機械に代替されることで減少してきたのは「ルーティン業務の事務職」であり、「人と人とのコミュニケーションや対人能力を必要とする職種」の雇用者は増えてきた。

図2:過去40年間の雇用者数の増減を説明したポンチ絵
図2:過去40年間の雇用者数の増減を説明したポンチ絵

OECDでは、米国、EU、日本の3カ国について、2002年から2014年まで、スキル別の職業ごとの労働者比率の変化について計算した(図3)。米国は、上述のAutorの分析の通りである。3カ国を比較すると、米国が最も変化が大きく、日本が最も変化が小さい。

米国は、2002年以降、中スキルのルーティン業務の労働者を解雇してきただけでなく、非ルーティン業務の労働者も解雇してきた国である。一方、高スキル者を自社内で養成したり新規雇用するなど、高スキル者の獲得に努めてきた。

米国と比較した日本の特徴は、本来は米国のように機械化を進めて解雇できた筈のルーティン業務の雇用者でも、ほとんど解雇していない。さらに米国との大きな違いは、高スキル者の獲得にほとんど無関心であったことである。これでは、インターネット元年以降の米国とのグローバル競争に負けてきたこともうなずける。

日本企業は、雇用の現状維持の傾向が強く、技術進歩に伴って本来であれば機械で代替できる部分で人間が働いていたり、高スキル人材を養成していない。技術進歩に応じて雇用状態が合っていないため、生産性低下、企業競争力低下を招いているものと思われる。順送り人事、過去と同じ業務の繰り返し、働き方の現状維持、といえる。

技術進歩にもかかわらず、雇用の現状維持を続けることは、企業のイノベーションの足を引っ張り、生産性の低下、競争力低下につながり、米国企業などとのグローバル競争に負ける要因の1つになっている。

ひとつ一つの雇用者だけに注目して、その人の雇用を守るために本来であれば機械で代替できる領域で人間が働いていることが本当に雇用を守ることなのかどうか、分からない。日本の過去の実績を見れば、個々の雇用者を守るために、技術進歩にもかかわらず、旧態依然とした雇用形態を存続させた結果、生産性が落ち、企業競争力が落ち、米国との競争に負け、大量リストラにつながってきたことが分かる。大規模リストラの方が、社員と家族にとってはもっと悲惨であろう。

個々の人間のルーティン業務を機械に置き換えることと、その企業の雇用者数全体が減ったかどうか、は因果関係がない。むしろ、機械化により、企業競争力が高まり、売り上げが増え、企業が成長し、総雇用者数は増えたかもしれない。少なくとも、グーグル、アマゾン、フェイスブックなどの米国企業はそうだったのではないか。

図3:スキル別の職業ごとの労働者比率の変化(米国、EU、日本、2002年から2014年まで)
図3:スキル別の職業ごとの労働者比率の変化(米国、EU、日本、2002年から2014年まで)
出典)EUはEU-LFS、日本は労働力調査、米国はBLS Current Population Survey

日本では、ルーティン業務が、今でも米独に比べて多く存在していることが分かっている(図4)。また、日本では情報化投資が進んでいないことが広く知られているが、情報化投資をしてルーティン業務を機械化するよりも、非正規労働者にルーティン業務を担ってもらった方がコストが安かったため、日本企業はそうしていた可能性がある。神林龍(2017)は、自著「正規の世界、非正規の世界」(慶応義塾大学出版会)において、非正規の労働力の供給源は、個人事業主の倒産が背景にあることを示したが、企業側にとって、彼らを雇用するインセンティブが存在しなければ、これほどの大量の非正規労働者を雇いはしなかった筈である。もし非正規の雇用が情報化投資に代わるものであり、非正規に担ってもらっていた仕事の領域が、米国では人間を解雇して機械化を進めてきた領域であるとすれば、もしこれから情報化投資のコストが下がり、ある時点で、非正規労働者を雇用するよりも情報化投資の方がコストが安い時代になったとき、日本国内で一斉に非正規労働者の大量解雇が始まる可能性がある。人口知能AIの普及により、彼らが一気に機械に代替され、大量失業が発生する可能性がある。そして、非正規の大部分が女性であることから、女性の大量失業が発生する可能性がある。

図4
図4
(注)「Routine」の数字が大きいほど、国内に「ルーティン業務」が残っていることを示している。日本は0.08、ドイツはー0.18、米国はー0.35である。

これからAIが導入されると、女性の大量失業が発生することを予測している機関が2つある。それは、UNDPとWEFである。AIが導入されると「ルーティン業務の事務職」が機械に置き替えられていくことは今や世界の常識になっているが、その内訳の大部分が、女性であることを示した分析結果は、まだ世界的に見てもこの2つしかない。この分野の研究は、まだほとんど手つかずの状態にあるといってよい。

図5
図5
Source ; From Santiago: Gender Equality and the Fourth Industrial Revolution in Santiago, Chile. This event is held by UNWomen, UNDP, the government of Chile, and the ILO. I have been asked to speak about the coming “Fourth Industrial Revolution” and its anticipated impact on women
図6:男女別雇用の増減予測
図6:男女別雇用の増減予測
男性:約400万人減↓ 約140万人増↑… 3人分の減に対し、1人分の増
女性:約300万人減↓ 約55万人増↑… 5人分の減に対し、 1人分の増
図出典:WEF, "The Industry Gender Gap: Women and Work in the Fourth Industrial Revolution" (2016, p.6)より横山美和作成

要は、AIの雇用への影響を「男女別」にきめ細かく見ていく必要があるということである。日本において、これまで長い時間を要して女性の社会進出が進んできたが、それがAIの普及により一気に逆もどりする可能性がある。本当にそうなのか、もしそうなら、どのような手を打つべきか、そうした研究をこれからスタートしたいと考えている。

参考文献
  • Autor, D. H. (2015). Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation. Journal of Economic Perspectives, 29(3), 3–30.

2018年7月6日掲載

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