IoT, AI等デジタル化の経済学

第74回「群馬県による中小企業へのIoT導入支援事業について」

岩本 晃一
上席研究員(特任)/日本生産性本部

群馬県(産業経済部)が実施している中小企業へのIoT導入支援事業の概要、以下の通り。

群馬県では、中小企業や事業者による個別対応が難しいとされるIoT・AI技術の導入・活用を支援するため、地方創生関連交付金を活用し、各種事業に取り組んでいる。事業の推進にあたっては、平成28年12月に「群馬県IoT推進研究会」を設置し、産学官連携体制を整備した。

図1:「群馬県IoT推進研究会」の概要;1.研究会の目的

ものづくりの分野では、「製造現場へのIoT・AI技術の有効活用」をテーマに、産業技術センターが中心となり、研究会に参画する団体・機関等と連携して、研究開発、情報提供、人材育成などの各種事業を実施している。これらの事業を通じて、県内中小企業・事業者等のIoT・AI導入に関する意識向上、スキルアップを図るとともに、導入の具体化に向けた中小企業などの取り組みを支援し、導入案件(プロジェクト)の創出に取り組んでいる。

図2:「群馬県IoT推進研究会」の概要;2.研究会の体制

IoT・AI導入の具体的な検討にあたっては、生産技術、IT、カイゼン等の幅広い知識と経験が必要であるため、産業技術センター職員、大学等有識者、システム関連企業などが参加する「支援チーム」を企業に派遣し、課題解決のための意見交換や助言等を行っている。平成29年度は、県内中小企業5社に対し支援チームを派遣し、身の丈に合ったIoT導入を推進する方針のもと、個別企業の現状・課題、費用対効果などを踏まえ、その時点での企業の成熟度に即したIoT導入・活用を提案した(今後も当該企業が着実にステップアップできるよう支援していく予定である)。

こうした取り組みなどを通じて創出されたプロジェクトは、産業技術センターとの共同研究という形で進めている。平成29年度は、20社と共同研究を実施し、このうち8社10テーマで競争的資金を獲得した。

研究テーマについては、自動車産業が本県の基幹産業であり、金属加工の技術支援を要望する中小企業が多いことから、平成29年度は、切削加工技術を向上させる手段として、「加工プロセスの状態監視へのIoT活用研究」に重点的に取り組んだ。また、中小企業の人手不足が深刻化する中、取引先から高い品質を求められることから、不良品の流出防止とコスト抑制を図る手段として、「IoT・AIを活用した検査工程の自動化・省力化研究」にも取り組んでいる。

平成30年度は、中小企業のIoT・AI技術の導入をさらに促進するため、製造現場で技術的な助言を行うコーディネーターを新たに配置し、産業技術センターと連携して、きめ細やかな支援を実施する。また、同センターに、検査工程を模擬したAI導入の実装システムを構築し、企業と共同で検査ラインへのAI・ロボット導入の実証研究を実施する。

【支援チーム派遣】(平成29年12月26日 新聞記事)

IoT(モノのインターネット)システムの導入に向けた研究会が、伊勢崎市下植木町の山口精工で開かれ、群馬産業技術センターの職員や有識者らが課題解決へ意見交換した。
センターは、国の地方創生推進交付金を活用した「IoT導入支援事業」を基に、本年度から大学の研究者らを企業に派遣している。金型製作の同社はセンターと共同で生産性向上に向けたIoT導入を研究している。
鉄のブロックに穴を開ける工程で、加工速度の違いなどについて、取得したデータを解析。熟練者は工具の摩耗を判断しながら作業するが、若手はその感覚が少ないため時間が長くかかってしまう。熟練者の動作を数値化し、加工状態を判定するシステムの開発を目指すという。
同社の牧野好晃社長は「技能を職人だけでなく会社にも定着させ、高品質で安定した製品を作りたい」とし、将来的には作業の自動化を進めたい考えだ。
この日は前橋市のセンターで、IoT推進研究会ものづくり部会による取り組みも紹介された。

【県内企業視察】(平成30年3月30日 新聞記事)

群馬県IoT推進研究会ものづくり部会は、プラスチック射出成形型の土屋合成で、ロボット化が進む事業見学会を開き、県内外の事業者ら約10人が参加した。
同社はロボット化により製品の箱詰めを自動化しているほか、県立産業技術センターとの共同でIoT(モノのインターネット)技術の研究にも取り組んでいる。
参加者は、ロボットが簡易梱包する様子や、ラインの集中管理システム、外部から指示できるように全館に設置された監視カメラなどを見学。自社でのロボット導入に向け、意識を高めていた。

【情報提供セミナー】(平成29年7月20日 新聞記事)

群馬産業技術センターは13日、同センターで「AIによる画像検査手法の導入セミナー」を開き、製造検査装置メーカーやITソフトメーカーから約230人が参加した。県外からも参加もあり、定員を100人以上上回った。
同セミナーは、生産現場へのAIの導入推進とSIerの発掘・拡大を見据えたもの。AIの中でも注目を集める「ディープラーニング(深層学習)」を使った産業用画像解析ソフト「ViDi」について紹介した。
ViDiは、ROI(関心領域)設定などを行う「特徴点検出モード」、傷の場所を特定する「良否判定モード」、不良品の種類を分類する「クラス分類モード」という3つのモードで製品の画像解析ができる。OCR機能や組み込み用API機能もあり、Visual C#やVisual Basicを使用して製造ラインで使用するプログラムに組み込むことも可能だ。
メーカー、エーディーエステックの担当者は、「目視検査並みの精度があり、セルフ・ラーニングで『予測』と呼ばれる結果を返すことができる。また、従来の手法ではプログラム不能な検査にも適用可能」と語る。
同センターの細谷肇氏は「AIを簡単に導入できる時代になり、ロボットとの組み合わせも難しくない。AIによる画像解析システムは製造現場で使用できる。早く県内企業の皆さんに試してもらいたい」と話している。

2018年5月11日掲載

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