IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第72回「IoTによる中堅・中小企業の競争力強化に関する研究会(NO.11);モデル企業7社の事例と地方実施による全国展開(3/3)」

岩本 晃一 上席研究員(特任)/日本生産性本部

井上 雄介 東京大学大学院経済学研究科

4 中堅・中小企業向け支援専門家の配置のあり方

4-1 同研究会と同様の支援方式を全国に展開するには(提案)

地方において、IoT投資を希望する中小企業に対し、本研究会と類似の支援を行うとすれば、

  • 公設試/産業技術センター、産業支援機関、商工会議所、中小機構、中小企業団体連合会など「中小企業支援」が当該機関のミッションである組織がコアとなって
    (能力とやる気があれば、どの組織でもコアとなり得る 例;地銀)
  • そこに、地元のITベンダー/システムインテグレーター/情報通信会社と
  • 大学の研究者など第三者の有識者が参加して、支援チームを形成し、
  • IoT 投資を希望する地元の中小企業に対して助言し、
  • チームに参加するITベンダーのなかから、その企業にIoTを販売する企業が出る、そうすることでチームに参加するITベンダーにインセンテイブを与える

といった「地産地消」の形態が望ましいと考える。

<必要な経費>
○ IoT導入企業;
中小企業は、どこに行けば適切な助言を得られるのか、わからないと訴えるケースが多い。本来であれば、専門のITコンサルティング会社に依頼すれば、3000〜4000万円を支払うコンサルティングと、ほぼ同様のアドバイスを無料で受けられる(コンサルティング会社を雇うと、担当者1人からの助言だけ)ため、コア機関は、 IoT導入企業に交通費と謝金を払う必要は無い。
○ ITベンダー、NTTなど情報通信会社;
1社のみであれば、企業に営業訪問しても、通常は追い返されるだけ。なかなか話すら聞いてもらえないという悩みがある。だが、研究会に参加すれば、きちんと自社を中小企業にアピールできる。うまくいけば、自社製品を買ってもらえるため、コア機関は、 ITベンダーに交通費と謝金を払う必要は無い。
コア機関の負担は、有識者に対する交通費と謝金、そして会議室の提供だけ。
地銀がコア機関の場合、融資につなげられる。

<研究会での指摘>
1)1企業が1企業に対してコンサルティングする形態だと、途中で諦めてしまうことが多いが、研究会方式だと、途中で諦めることができないので、脱落しない仕組み。

2)1企業がコンサルティングする形態だと、その企業は金儲けのためにやっているとの色彩が強いが、公的機関が主催する研究会方式であれば、公益目的の色彩が強く、金儲けで研究会を開催しているのではない、と思うことで、中小企業は研究会に参加しやすい。
以上から、研究会方式は、中小企業にとって、参加しやすく、脱落しにくい仕組み。

3)研究会を主催する公的機関は、地元の新聞、自ら機関が発行する機関誌などで、研究会の内容を積極的に広報すること。
研究会に参加する全ての者にとって、公的媒体に掲載されることは、一種の名誉であり、世間から見られているという緊張感につながり、研究会での議論がより充実化。
地域限定に対する県ごとの考え方の違いが出る。

4)民間企業がコア機関となる場合;
・地銀がコア機関となれば、発生する投資に対して融資が可能→従来通りの融資方式では売上げが縮小している地銀の新しいビジネスチャンスになりえる。
・工作機械・ロボットメーカーが、ビジネスとして、コア機関を実施するも可。
→同社の機械を販売できるチャンスともなりえるが、中小企業側からすれば、同社の工作機械を将来的にも使い続けることになる。

5 地方実施による全国展開

5-1 IoT研究会と同様の支援形式を全国に展開するには

今回紹介したモデル企業は、研究会を通じて、抱えている課題・問題点を検討した上で、自社に適したIoT技術の導入を実現した。各社の導入事例でみたように、短期間ですでに実用段階へと到達した企業も多い。導入に成功した企業では、社内システムや作業工程の改善や、提供するサービスの付加価値が向上するなど、投資対リターンの観点からみても、一定の成果を上げることができた。そこで当研究会では、次の段階として、中堅・中小企業へのIoTの導入をさらに進めるために新たな取り組みをはじめたいと考えている。それは、研究会の全国的な展開である。今年で当研究会が発足して2年目となるが、昨年と比べ、わずか1年で第四次産業革命の影響力はますます大きくなっている。新聞やニュース、講演会などでIoTやAIが頻繁に取り上げられていることからも、第四次産業革命への対応が日本企業に求められているといえよう。よって本節では、広範な活動へとしていく1つの施策として、地方公共団体との連携について説明する。

現在、当研究会にもオブザーバーとして神奈川県・茨城県・広島県・群馬県の4つの地方公共団体が参加している。「実際に企業が要望するIoT技術を、地方公共団体がどのように紹介・提供し、アドバイスすれば良いのか」など企業への支援方式に関するノウハウを共有している。こうした各地域単位での企業への補助が促進できれば、IoT技術を日本全国に普及することが可能となる。現時点で導入に注力している先進的な地域の事例を以下に御紹介しよう。

5-2 神奈川県の取組み

神奈川県では、地方独立行政法人神奈川県立産業技術総合研究所が中心となって「IoT技術導入支援」を行っている。同県は、このプロジェクトを通じて、中小企業のIoTの導入・実用化を支援している。プロジェクト事業は、「IoT研究会事業」「IoTラボの整備・運用事業」「IoT導入/実用化検証事業」から構成されている。神奈川県が実施しているIoT研究会事業(事務局:神奈川県産業技術センター)は、当研究会と同様の支援形式をすでに採用し、「IoTを知る、試す、使う」の各ステージに合わせて、中小企業等を対象としたIoT技術開発の支援を行っているのである。その際、IoTの多岐にわたる専門知識を企業に知ってもらうため、県産業技術総合研究所が「IoTテストベッド」を構築・運用している。このテストベッドを利用してもたらうことで、各社は、導入を考えているIoT技術を試行・評価できる。実用化に向けたIoTの普及が目的となっている。また「神奈川県IoT推進ラボ」との連携を更に強化するため、自治体(県内市町村など)・「神奈川県R&D推進協議会(大企業など)」・「かながわ産学公連携推進協議会(理工医系大学、金融機関、企業支援団体など)」をメンバーに加え、IoTプロジェクトの創出を行う予定である。今後は、専門家の育成にも注力するため、「中小企業研究開発人材育成」プロジェクトも充実させていくという。同プロジェクトでは、課題研究とコース研修を企業に選択してもらい、各社が必要とする専門知識を相談しながら習得を目指すというものである。

首都圏に位置する神奈川県は、東京都と同様、IoTによる劇的な技術変革への対応が必要となる。県内企業に活力ある経営を進めてもらうためにも、こうした環境整備を積極的に取り組んでいくことだろう。

図表7-1:神奈川県の取組み①
図表7-1:神奈川県の取組み①
図表7-2:神奈川県の取組み②
図表7-2:神奈川県の取組み②

5-3 茨城県の取組み

茨城県では、「中小企業IoT等自動化技術導入促進事業」に取り組んでいる。同県では地方創生推進交付金を活用して、県内における企業の競争力強化を支援している。具体的な事業内容は次の通りである。第1に「IoT導入促進支援」として、相談窓口の設置や専門家派遣、工場などへのIoT導入を支援している。第2に、ロボットやネットワークに関する技術者を育成するため、「技術者育成支援」を行う。第3に、導入事例の紹介を通じて、「IoT活用の普及促進」を行う。特にこの中で注目すべきが第1の点である。工場や作業現場でのIoT活用を促進するため、「模擬スマート工場」(加工・組立・検査の各工程にロボットを配置し、各工程の稼働状況を把握できるように整備したスマート生産ライン)でIoTやロボット等の実証実験や,企業の課題を解決するシステム開発を実施している。活動内容は、2017年4月に設立した「IoT・ロボット研究会」で公開され、広く情報共有が行われている。

茨城県のこうした取組みは、経済産業省から「IoT推進ラボ」の地方版として選定されている。IoTを日本全国で普及・活用を推進するためにも、同県の活動は他の地方公共団体などに対する先進的な取組みとして注目されていくことだろう。

図表7-3:茨城県の取組み①
図表7-3:茨城県の取組み①
図表7-4:茨城県の取組み②
図表7-4:茨城県の取組み②

5-4 広島県の取組み

広島県では、他県よりも早期にIoTの重要性に着目しており、積極的な支援策を行ってきた。「スマートものづくりセミナー」では、地元企業と連携を図り、IoT活用の動向やトレンドについて、モノづくり企業に情報提供している。また企業にデータの収集方法などIoTを体験してもらうために「IoTハンズオンセミナー」を開催する一方で、より実践的な技術導入のための「IoT実践セミナー」への参加を募るなど多岐にわたる支援を行ってきた。しかし、導入後のアンケートなどを踏まえると、各企業にはっきりとした成果は見られなかった。それは、各事業施策が連携しておらず、「認知・体験・実践」の一連のプロセスが上手く機能しなかったためであった、そのため、実践段階にまで至らなかった参加企業が多かったのである。またセミナー開催に注目が集まり過ぎたことで、実践段階にまで企業の意識が向かなかったことも1つの原因であった。そうした課題を受けて、同県では、IoTの推進に向けて来年度に大きく計画を刷新するという。具体的なIoT活用施策の方針として、「広島サンドボックス(仮称)」を設立し、さきほどの「認知・体験・実践」のプロセスの中心に、「人材育成」を置いた上で、各過程の連携を強めていくという。県内外企業・大学・自治体が一体となって実証プラットフォームを設け、またAI/IoTに対応できる人材の育成を計画しているのである。そのための投資資金は、事実上の継続費として予算を組みこんでおり、他県にみない中長期且つ大規模なIoT支援策が予定されている。

広島県のこうしたIoTへの積極的な姿勢は、県内にITベンダーが少なく、企業のIoT化が中々進まない状況を改善したいという意識の表れである。県内でIoT技術と企業とが上手くマッチングされることで、地域経済の拡大を図る広島県のIoT導入政策は、今後のリーディング・モデルとなり得る。

図表7-5:広島県の取組み①
図表7-5:広島県の取組み①
図表7-6:広島県の取組み②
図表7-6:広島県の取組み②

6 さいごに

2015年頃、筆者は全国各地から呼ばれてからIoTに関する講演をしていたが、地方の中小企業の社長さんは、私が講演で紹介した成功事例の完成形を見ても、一向に、自社でもやってみようとしなかった。その理由を、講演後の懇親会で聞き出し、そして2016年4月、研究会を立ち上げた。実際にモデルケースを題材にやってみて、どこにネックがあるのか確認したかった。その結果、研究会では以下の点が明らかとなってきた。本研究の成果である。

1) 中小企業の社長さんは、「よくわからない」という。私は、何が「よくわからない」のかが、わからなかった。だが、研究会で実際にモデルケースを扱うことで、中小企業へのIoT導入に当たって、社長さんは何がわからないのか、何が障害になっているのか、が明らかとなった。これが明らかとなれば、1点ずつ潰していくことができる。
2) 中小企業では、どのような議論を経て、どのような段階を経て、IoTが導入されていくのか、が明らかとなった。
3) 中小企業は、どのような人が、どのような形でサポートし、どのようなプロセスでIoT導入が進むのか、が明らかとなった。
4) 当研究会は、東京という日本の中央で行ったモデル研究会である。これからは、当研究会を参考にしつつ、当研究会で蓄積された運営ノウハウを活かしつつ、地方で実施する全国展開がスタートする。全国展開するためには、当研究会による過去の実施経歴が、全国の手本となるべく、成功しなければならなかったが、当研究会は、その意味で成功したといえる。
5) これからは、いくつかの地方での実施による全国展開である。これがうまくいけば、その他地域が追従し、更に広がりが生まれ、やがて日本全体に広がっていくだろう。

日本は99.7%が中小企業なら成っている「中小企業の国」である。その中小企業の生産性を上げなければ、日本全体の生産性は上げることはできない。

技術が大きく進化したIT技術を用いた生産性の向上は、正に今でなければできないことである。

2018年4月9日掲載