IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第65回「デンソーの『ダントツ工場』」

岩本 晃一
上席研究員

株式会社デンソーは、「IoTで世界130工場をつなぎ、2020年までに生産性を2015年比で30%高める」という目標を掲げる「ダントツ工場」プロジェクトを推進している。同プロジェクトの責任者である山崎康彦常務役員(ダントツ工場推進部・生産技術研究部・材料技術部・計測技術部・試作部・電子システム事業G/インフォメーション&セーフティ事業G製造担当)にインタビューしたところ、以下の通り。

1 「ダントツ工場」の技術的内容

1-1 減らす分母と増やす分子

アウトプットの最大化を狙って大きく分母と分子に分けて考えている。ITツールを使って無駄な作業を一気に削減しリソースを最小化するという分母側と、ITツールを使ってラインの稼働率などを上げ出力を最大化するという分子側で、トータルの生産性を上げるという、分母、分子の関係の両側から攻めている。

1-1-1 減らす分母側

まず、減らす分母側から言えば、ラインをオペレーションするにあたって当然多くの人手がかかっている、たとえば各ラインには班長がいて、生産量を決め、カンバン枚数を決めている。毎日の朝会では、前日の生産状況などを見ながら議論している。そのデータは手書きであり、その記録から始まって集計や分析など基本的には古い方法である。しかし、そうしたデータは、設備に埋め込んだセンサーから全て自動で採取し、出力から計算まで全て自動で短時間で出来る。するとそこに費やしていた時間は減り、効率化が図れる。いままで人手で行ってきたことを、センシングとデータを集めて処理することで簡単に削減できる仕事はかなりある。

当社は自動車部品メーカーなので、自動化設備を使って大量生産に近い生産を行うラインが多い。ラインを管理するオペレータ作業は、意外と定型化されておらず、現場任せになっていて、普段は何をしていて、どこに無駄があるか、という点は現場任せでこれまでメスが入れられてこなかった。ここにITツールを入れることで削減できる余地は大きい。他にも分母側で減らすことが可能な仕事はかなり多い、保全データを情報化ツールを使って整理し作業効率を上げたり、生産情報をリアルタイムで捕まえる事によって余分な生産調整の仕事を減らしたりなどなど、そういった仕事の効率化を図りリソースの最小化を狙う仕事が分母側の対策である。

既にモデルラインで実施が始まっている。情報は情報で集めるが、それをどういった形で見える化するか、試行錯誤がある。見せ方を1つ決めれば、それを全てに展開できればいいが、製品群はたくさんあるので、分野ごとに特徴を分類しようとしている。モデルラインで効果を発揮すれば全世界に展開できるので、分野ごとのモデルラインを作り、いま現場で使ってもらっている。こうしたシステム導入時に大事なことは、情報化ツールによって自動化できる仕事のしくみが出来上がっていることである。データを集計して状態をつかみ、それをベースに生産をどのように行っていって、どのように改善していくか、そういう風土やしくみの無い所に新しいツールを入れてもその効果は限定的になると思う。幸い当社の現場では長年かけて培ってきた仕事のベースがあるので、そういう現場の強み上に情報化の力を借りて一気に合理化を図りたい。

1-1-2 増やす分子側

次に出力を上げる分子側にも、多くの項目がある。たとえば、設備稼働率の向上、そのなかには不良品の低減、設備の故障の予知保全、サイクルタイムの向上、など設備の稼働率を上げる要素はかなり多い。設備を基本としてものづくりをしているので、長い歴史で積み上げたものはあるが、飽和している面もある。そこを打破するために、今までとはスケール感の違うデータ収集や分析などを通じて新しい取り組みをすることで、稼働率を上げていく。だが、こうした手法は、生産品や生産ラインによって、難しさや対象が違ってくるので、全ての設備に対して同じ手法を適用する訳にはいかない。それに対して、機械加工分野、精密組立分野、大物組立分野など、ある程度分類しながら、投資金額の大きいものや効果の大きいものから順に手がけていく。分子側の話も分母側の話も共通した課題として、データの蓄積の仕方やそれを活用する時のインターフェースなど、システム全体のアーキテクチャの中での基幹システムは全世界共通として第一優先で開発を進めているが、その基幹システムの上に乗る各種アプリケーションは、各分野ごとに必要なものを開発し、それを現場に使ってもらいながら、現場の改善で進めるという手法で活動を進めている。

1-2 最初に手がける分野

たとえば、数量が多いものとして、センサー群、エンジン周りの部品などがある。またディーゼルの噴射分野は、工程が長く、過去にかなり投資した分野である。作るのがとても難しい超精密加工品であり、良品ができる条件は、100%は、正直わかっていない。技術で完全に解明できていない難しい所を埋める事を、これまでは現場の知恵で成立させていたが、ここが全て明らかになり完全に計画的にモノを作る事が出来れば効果は大きい。

ラインにセンサーを取り付けて、加工条件の収集やトレーサビリティの確保を行い、結果との相関を見て、何が変動したら、結果がどうなるか、を従来とは全く違う規模でつなげ解析していく。ビッグデータと言えるかどうかわからないが、人間がこれまで取り扱っていた領域よりはかなり広い領域でデータの相関関係を見て、何を制御すれば、何が変動するか、という分析を行う。最終的には、全てを自律制御できれば、理論上、良品しかできないことになる。

最初は見える化をして、それに基づき判断できるようになり、やがて自律的に制御ができれるようになれば、自ら条件を変更できる。ただし変更していいかどうかは人間が判断することになるだろう。少し専門的な話になるが、高度な自律制御を考えた場合、平均やハズレ値を見るだけでなく、分布の意味合いを理解しそれを管理していく必要があり、そこには人間の知恵が必要になる。そういう新しい制御と人間の知恵を総合してより安定した生産を求めていく。

1-3 設備の稼働率の向上による生産性向上

これまで、設備は、自動化を中心に対応してきてそのレベルアップを継続的に行っているが、グローバルに広がった今の生産の状況を見ると、必ずしも高度なオペレータがどこでも準備できるわけでもない。また常に新しい設備が生まれてくる、そういう中で、全世界で見れば残念ながら平均的な稼働率は、90%や95%も稼働している訳では無く、8割前後、場合によっては7割前後のこともある。その原因は、チョコ停であったり、不良があったり、段取り換えがあったりと色々な要因がある。単純計算であるが、そこが1%上がれば、償却費も1%下がり、生産性も1%上がる。

手作業を自動化することは、ほぼやり尽くしている。残っているところは自動化が難しいところである。この部分は最近のロボットやAIの進化など新たなチャンスがあり、自動化を進めているが、自動化したところのオペレータの生産性向上は大変難しい。設備が全く止まらなければ人間を減らせるが、いつ止まるかわからない状態だと、依然として人間を配置しておかなければならず、人間を減らせない。ここの生産性向上は大きな課題である。

単純に考えれば、稼働率が上がれば、その分だけ人間を減らせる。その意味からも、従来とは違ったアプローチで稼働率を上げることができれば、自動化ゾーンの生産性も上げていくことができる。それらも合わせて3割の生産性向上を狙っている。

1-4 人工知能化による生産ラインの制御

自分で学習しながら、新しい解を探していく、という意味では人工知能は生産改善にも有効だし、我々も取り組んでいる。特に生産システムにおけるパラメータは多入力多出力で理論的な最適化が難しい分野であるので、そういう所には有効な技術であると思う。但し活用方法は考えていく必要がある。何か新しい外乱が生じると、生産品の結果が変動し、なぜ変動したのだろう、ということをずっと追って、それを日々学習すれば、成長するだろうが、生産ラインの場合は、ある安定した定常状態が達成できると、比較的外乱は少ない。そのなかで日々常に新しいデータを見て、常に新しい学習をして、常に新しい制御を行うことは、そんなにニーズは高くない。つまり最初にAIを用いてある方程式が出来上がれば、それを定常状態でコントロールできるしくみを作り上げれば、常時AIが考えなくても対応が可能となる。ブラックボックスとして因果関係を結びつける確率を出す状態を容認し、それにすがるという形ではなく、AIから導き出された関係を元に理屈をひも解きしくみに落としていく、工場という限られた場の中ではそれが十分に可能であると思う。学習できるアプリケーションは準備する。それを用いて改善ツールやオペレーション用のツールに使っていくし、将来的にはそれが普及するだろうが、合わせてそれを使いこなす人材を育成していく事が大切になる。

我々の指向は、これまでメスを入れられなかった所に活用していきたい。たとえば外観検査の自動化には非常に活躍するだろう。世の中でもこの領域では技術が進んでいると思う。AIにより良品と不良品の区分けを学習すれば、これまで合理化できなかった部分を一気に進める事が出来る。あるいはチョコ停を無くすような例でも使えるかもしれない。なぜ、チョコ停が起きるのか、ビデオを設置して、停止したときの録画データを全て集計し、どのようなパターンでチョコ停が起きるのか、を調べているが、ゼロにはならない。それは、起きている現象だけを捉えて、なぜ停まったのか、を議論しているが、もっと違うところに原因があるかもしれない。もし他の相関関係が見つかれば、たとえば、設備の振動であったり、また温度や湿度が意外に生産のなかでは影響を及ぼすことがある。とても複雑で出来ないことを自動化しようというのでは無く、単純な組立をしているのに、チョコ停しているのであるから、解決方法はある。いまそれを解決しようとすれば、高価な機器を準備し、サイクルタイムを遅らせる方法が一般的だが、もう少しデータを集めたら、金額をかけないで解決する方法はあるのではないか。

人間と機械のバランスで、生産性を上げていく方法は色々とあるが、目指す方向としては、今の自動化をもっと実力を上げて、止まらないようにする、ということである。そのためにデータを活用し、要因を探って、改善していく、という方向に当社は向かっている。単純な問題でも大量のデータを用いて解析すれば、意外とこんなところに原因があったのか、というのが見つかることがある。

1-5 工場同士をつなげる

1-5-1 世界中のカイゼンの横展開

実はもう少し多いが、当社は世界中に130工場があり、日本とほぼ同じ製品を作っている。海外で開発し、海外でしか作っていないユニークな製品はとても少ない。日本で、ある顧客向けに開発したものの、顧客が海外に出て行ったり、日本で開発したものをベースに海外のお客様向けに若干のアプリケーションを加えて設計変更しているものが多い。モノの作り方は、マザー工場と同じである。すると、日本でカイゼンしたものが、瞬時に海外に伝われば、すぐに生産性が上がるが、そのやりとりがなかなかうまくいっていない。さらに当社の特徴として、現場が強いため、ラインを改造したり、条件を変えたりなど、現場で独自にどんどんカイゼンしていってしまう。もちろん、自由にやっていい訳では無いが、あるルールの下で変える事は日々行われており、そうして現場が進化していく。

当社の競争力の1つである独自のカイゼンが、日本と海外とでは違った方向に進化し、違ったものを作り上げてしまうという事が起きる。何を標準にし、何をユニーク性とするのか、難しい議論はあるが、少なくとも、何をしているのかがわからないと、その議論に入れない。現場のカイゼンや加工データは、膨大なデータなので、それを人が全て管理することは難しい。もし、それが情報としてつながり、比較できれば、ベースに立てる。良いものは即座に展開すればよいし、ユニークなものは、ユニークと判断すればよい。こうしたカイゼンの横展開が、まず一番目に挙げられる。

1-5-2 リスク管理としての世界中の生産状況把握

海外ではなかなか設備が動かず、トラブルが世界中で発生する。トラブルへの対応は現地で行うしかない。だが現地で対応できるかどうか、その判断が正しくできるのか。それができる会社もあれば、出来ない会社もある。

リスクマネンジメントとして、現時点の世界中の生産状況が、きちんと把握できているか。拠点のなかで拠点長がきちんと見ていれば済むことではあるが、拠点長の感度にはレベル差もあるし、お客様情報を代表とする外部の変化への感度にも差があったりして、残念ながら全てを各拠点に任せていれば安心という状態にはない。

自動車部品の生産は、顧客の生産ラインを止めない、ということが第一優先である。だが、気付いたときには、手遅れとなりお客様のラインを止めない為に膨大な費用をかけて対応する事も時に起き、そういう時には該当拠点だけではなく、サポートするマザー工場や地域の関係工場など、トータルで非常に非効率な状態に陥る。そうしたことを未然に防止する、という点も含めて世界中のリスク管理をするため、世界中の生産状況がきちんと把握されている状況を作り出す。加えて、変化のスピードが厳しい現在の状況において、全世界のラインの稼働状況や能力が一目で分かれば、次の投資のやり方やあるいはブリッジ生産の判断など、経営的な判断の重要なデータもリアルタイムで捕まえる事が出来る。そういった経営リスクの見える化や将来投資のデータなどに使用していきたいと思っている。

1-5-3 細かい単位でのカイゼンのための見える化

その先には、もし安定的に生産しているとしても、さらにレベルを上げていく為にどこを一番カイゼンすればいいのか、という事も単純に分かるようになるだろう。このラインは60%、こちらは70%、となれば、まず、低い側を対応しなければならない。さらに、自らの力でカイゼンできない拠点もあるので、日本からやりとりしてサポートしなければならない。

そのようなことは、ツールがなくても出来なければおかしいが、世界中にはとてつもなく多くのラインがあるので、上がってくるデータは、団子状態でしかない。ある製品の原価やコストは、そのラインが、4、5本あれば、それらをまとめたものしか上がってこない。だが、そのなかには、いいラインもあれば、悪いラインもある。最終結果さえよければ見過ごすかもしれないが、見過ごしていると、ずっとそのままになっている。そこをカイゼンすれば、利益を生む余地があるにも関わらず。

そうした細かい単位で、問題の所在や手を入れるべきところは、つながれば見える。見える化は、本社と現地と相互にできるようにする。

1-5-4 見る人によって最適な見せ方をするためのデータ構造

主要設備から採取したベースとなるデータはあるが、データの加工方法は、見る人やレイヤーによって変わる。経営者は、1台の設備が止まろうが関係なく、目標の利益が見えるものが欲しい。工場長は自分の工場が見たいし、課長や班長はもう少しブレイクダウンしたものが見たい。だがそれらは全て1つのデータから持ってくるもので、その人に応じたデータの見せ方がある。そのためには、ベースとなるデータの共通の持ち方の構造を作り、そこからどのデータを引っ張り出すか、というシステムを作り、経営アンドン(注1)、工場アンドン、個人アンドン、などとレイヤーを分け、たとえば経営アンドンでは経営者に対してアラームを出す。見る人にとって、最も適切なデータを見せるため、データは全てつながった状態で共通の基盤上に持っていたい。

世界中で生産の状態とその能力がリアルタイムで把握する事が出来れば、人件費や購入部品費、在庫にかかるコストなども総合的に判断して世界での最適な生産分担をリアルタイムで制御する事が可能だが、自動車部品の場合は、生産地が変わるとお客様の承認が必要となり簡単にはいかない。同じものでも別のラインで作るためには、お客様の監査と承認が必要となるのが一般的である。新規契約時に、部品の生産地の複数箇所について、了解が得られれば出来るという事になるので、将来的にはそのような形に持って行き、自由度を高め競争力を上げてお客様に貢献できるようにしていく事が望ましいと思う。現在でも実際にそうした例はある。たとえば、日本、ハンガリー、タイで相互補完できるようになっていて、それぞれの設備の稼働状況を把握し、いずれかを増やす、ということはあるが、それは極めて希なケースである。この問題はラインの改善や進化の話ではなく、生産管理の領域と重なる話であり、生産管理領域の情報化は別部隊で現在も開発を進めている。そうした情報システムとも連携して会社全体として有機的に結合したシステムを作り上げていきたい。「ダントツ工場」は、その中で生産の競争力を上げていくために、1つの武器として情報化ツールを使って稼働状況を見える化し、製造マネンジメントとして最大出力が出るようにすると共に、生み出した「カイゼン」を世界中に横展開してグローバルに競争力を向上させていく活動である。

1-5-5 すぐに効果が出る「保全」

見える化で直接的にすぐに効果があるものはいくつかあるが、その中の代表的な事例は「保全」である。設備が止まったときに、どのようにして復帰するのか、外国の工場にも保全担当者がいて対応するが、原因を探ることに最も時間を要し、やっと原因が突き止められたら、それから対策して、設備を復帰させるという事になる。マザー工場では、情報化システムを使って蓄積された過去の保全履歴情報を有効に使うツールに仕立てると共に、これまで関連性の分からなかった要因を探り当て源流改善にまでさかのぼり改善する事に直ぐに役に立つ。加えて海外では日本レベルの保全が出来ないという問題に長い間苦しめられてきたが、たとえば設備がつながっていれば、シーケンサーの中身から過去の動作の状態まで記憶しているので、それらの状態を日本で見える化が可能であり、日本側にはかなりのプロが揃っているので、彼らがそれを見れば、すぐにわかる。Web カメラでやりとりし、そこを操作しろ、などと指示できる。そういう意味で、海外向けの保全効果はすぐに出る。

1-5-6 桁違いに早くなるカイゼンのスピード

さらにもう1つ上のレイヤーに行けば、全体ラインの稼働率がどうなっているか、わかる。同じラインで、日本では85%なのに、あの工場では75%であれば、どうしてか。あるラインの設備の停止状況が見え、何時何分にどの設備が止まっているか、全て見えるようになる。双方のラインを比較すると、同じところと違うところがある。違うものは、なぜ違うのか、と要因を掘っていける。この対策をすればすぐに修正できる、やればすぐに出来る、という情報がライン全体として共有できる。すると、これまでは自分たちだけで勝手に一生懸命やっていたが、これからは「カイゼン」スピードが桁違いに早く回っていく。そして世界中で統一された状況に向かっていく。

1-5-7 生産計画や生産管理のカイゼン

もう1つ上のレベルになると、今日は何を何個作るか、といった生産方法の指示がある。日本から部品を海外工場に送って組み立てる際の生産調整や生産計画は、各設備の稼働状況や在庫状況を見れば、正しい判断が出来るが、いまはそれがなかなかできない。多くの無駄なことをしているので、生産状態の見える化ができれば、生産計画や生産管理をカイゼンできるところは多い。先に述べたように生産管理システムは会社としての基幹システムとして別部隊が開発をしているが、そのシステムと有機的な連携を進めていく。生産計画と現場で起きているリアルな現実の中での実績との比較において、その細部に何が起きているのか、という事が見えるようになり、細部の整合が取れるようになって来れば、リードタイムの短縮や在庫の低減などが、今とは違う次元で可能になってくると考えている。

1-5-8 海外工場でのジョブホッピング対策

当社は世界で約15万人の従業員がいて、130以上の工場があるが、それらの工場の多くはいまだに日本人に頼っている所が多い。そうした工場オペレーションを指揮できる人材が必要になってくるわけだが、拡大する世界での生産に人材が追いついていないのが大きな悩みである。マザーの人材育成を加速させると共にローカル人材を同時に育てる事が必要で、それらを進めているが、やはりその中での一番の大きな悩みの1つはジョブホッピングである。モノづくりと人材育成はセットで無いと成立しないのが日本流のモノづくりであるが、、定着率が悪いところはどうしようもない。日本のように長年かけて人を育てるということが通用しないので、違うやり方、たとえば情報ツールを用いて、レベルを維持することをしないといけない。そうした所にも今進めている情報化システムは大いに役立つと考えている。

1-6 「生産性30%向上」の数字の根拠

当社は生産性向上を経営の重要KPIとして高い目標を立て継続的に改善活動を進めているが、実は、過去5〜6年、生産性は横ばいになっていて苦戦をしている。その背景には、複雑で高度な製品が増えてきているといった製品構成の問題や内製と外製の切り分けの変化、あるいは自動化の頭打ちなど色々な要因があるが、結果的にこの頭打ちの問題は会社としての大きな課題となっている。それを、あと3年かけて30%戻して、元の回復軌道に乗せたい、というのが目標に込められた思いである。もとの進化トレンドに戻し、そこからさらに上げていくことを実現したい。そうした思いのもと、過去の負債や借金を全て一気に返すだけでなく、さらにもっと儲けよう、との考えで、大胆に計算すると、当面の目標は3割くらいだった、ということである。

当社のみならず、日本全体の製造業の生産性が、飽和しているという印象がある。かつての成長時代は、成長がそのまま生産性向上になるが、国内市場が飽和してきて、生産品が多様化し、ますます作りにくくなってきている。また、工場には非正規従業員が増えてきている。非正規従業員の場合、一般的にはコストが安いので、生産性が落ちても痛みを伴わない。派遣や非正規を増やすことで維持している状況があるのではないか。そういった社会環境の変化もあって、日本全体では生産性は上がっていないと思う。

技術面で見れば、当社では、自動化できない工程しか残っていない。代表的な例は、外観検査という出荷前の最後の検査である。複雑な検査は、人しかできない。また軟体物のようなものは、人でしか組み立てられない。これだけロボットが進化してもできないことはたくさんある。また、物流は意外に手が付けられていない。モノを動かすくらいは、カートを作ればすぐにできるが、積み卸しやカンバンの処理など、付帯の仕事がたくさんあり、それを自動化しようとすると、多額の投資金額が必要になる。先ほど述べたように、いま外観検査は、人工知能AIを使うと色々なことができるので可能性が広がっている。ロボットについても人と協調できるロボットが出てきている。そのようなロボットを使えば、従来、人が入り込んでいたところでも、生産性があがる。そうした技術の進化と情報化を使った全体の製造マネジメントを向上させることで、近年みられる生産性向上の頭打ち感を突破し、再び上昇トレンドを維持することができると考えている。

2 「ダントツ工場」構想の原点

当社のダントツ工場活動は2010年頃から始めた活動であるが、その中に本日話をした情報化ツール活用を織り込んで新たな構想を正式に検討を始めたのは、2015年からである。私はスペインに子会社の社長として2011年から2013年の3年弱駐在していた。インダストリー4.0というコンセプトが出てきたのは2011年だったと思うが、駐在時にドイツの展示会でその話を聞いた。情報化ツールが有効であることはわかっていたが、私はその話を聞いて、ここまで本気でやるのか、とかなりショックを受けた。日本では、ものづくりと情報化とはとても親和性が悪く斜に構えてみる人が多いと思うが、私もその1人であった、が、その私もその時は時代の進化を感じ大変な危機感を覚えた。

2013年7月に帰国したところ、当時はまだあまり騒がれておらず、全く話題にも上っていなかった。IoTという言葉は1999年には提唱されていたが、それが世間で騒がれ始めたのは少なくとも2010年以降だと思う。自分が帰国した当時、少なくとも当社の中では話題になっていなかった。

その頃から少しずつ試行を始めたが、やがてこれはそもそも会社としての基幹システムをどうするのか、というところから考えないと、将来、禍根を残すし、大規模な投資を伴うことから、会社規模でやらないとどうしようもない、と考え、2015年に私のところにプロジェクトチームを作った。そこから、コンセプト作りや全体のアーキテクチャ作りに約1年を要した。そして、一気に、基幹システム作りとアプリケーション作りを始めた。2018年末には本日話をした構想を具体的に形にし、そこから実質的な効果を上げたいと考えている。

工場をつなげることと平行し、製品開発から生産技術開発および生産準備の流れであるエンジニアリング・チェーンも同じように情報化ツールをつかってつなげることも行っている。設計情報から生産情報まで全てつなげることに大きな投資と負荷がかかるが、これによりホワイトカラーの圧倒的な生産性向上を図り、働き方改革を行うと共に、そこから捻出したリソースを新しいビジネスにあてていきたい。

いずれの取り組みも「人が中心である」「人が介在する」「人によるカイゼンがずっと続いていく」というのが、一番の真ん中にある。

世界中で、あそこが最も優れているといわれている工場など、この領域で有名な多くの工場を視察した。だが最も衝撃を受けたのは、インドの自動車工場だった。日本の自動車メーカーと同じように、1台ずつ車種の違う車がランダムで流れる中で、工数の平準化を図り、そのラインにはジャストインタイムで部品が供給され整然と流れる。その巨大工場のなかのどこに今、何が流れているか、すぐにわかるようになっていて、とても驚いた。そのような高度な生産システム/生産管理システムを駆使し、在庫を極限まで減らしてジャストインタイムの思想で生産していながら、ライン内の作業をよく見ると、作業者のスピードややっている仕事の内容レベルはまだ低く、無駄が多く見られた。そういうレベルの現場でも、高度な情報化システムによりある程度の生産が出来るというギャップというかツールが持つ破壊力に愕然としたのを覚えている。日本の進んだメーカーが、これまで人間によって積み上げてきて決して真似のできない高度な生産と形としてはほとんど同じものが、彼らが情報ツールを使ってできてしまうことに衝撃を受けた。

そのツールはすごいが、日本ではそういうツールが無くても人によって達成できてしまっている。そこに同じツールを導入しても殆ど意味が無い、という事になる。もちろん人の作業を効率化する事により省人は図れるが、それをやるための基幹システムの見直しや仕事のやり方そのものの見直しが必要となり、そこには膨大な作業と膨大な投資を伴う為、おそらく投資としてペイしないだろう。一方で情報化ツールが持つ破壊的ポテンシャルを放置しておいてよいのかといえば、もちろんそれはNOである。という事は、日本の強みを活かせる、、日本に合ったやり方を最大限活かす方法とは何か。そこが最大の争点となる。この分野については欧米が先行しているが、それを日本に導入するだけでは全くダメだ、と思った。我々に合ったやり方とはどういうものか、というのが最大の議論であって、そのコンセプト作りに約1年を要し、そこから作っていった。

単純に言えば、現場が静的かそれとも動的か、という差が大きいと思う。海外のメーカーは、人が変わっても、ある安定した状態をいかに維持するか、を主眼として行っている。だが、当社では、現場がカイゼンし、ダイナミックに変わっている。機械から出たカイゼンのデータが、マシン・トウ・マシンで、機械のなかでクロ-ズし、自動制御するのではなく、必ず人に来て、そこに人の知恵が加わって、元に戻っていく。さらに、それを源流のカイゼンにつなげ、問題そのものが起きないようにカイゼンしていく、最終的に全ての問題が解決し、止まらないラインを作り上げる事が出来れば、そうしたシステム自体が不要になる。その概念を我々の生産のコンセプトに合わせて考えれば、情報化システムもリーンに向かうべきではないか? という思想が考えられる。それは「リーンなIoT」と言えるが、そのコンセプトが本当に正しいかどうかは分からない。元々情報が高価であった時代は、意味/意志のないデータはゴミでしかなく、金をかけて取る事そのものがムダであった。それがセンサーやデータサーバ、通信技術やそれを処理するソフトウエアの進化が進み、ごみと思われていたデータがごみでなくなってきている。そのような時代の流れの中で、この中にリーンという概念を持ち込む事は、IoTのコンセプトそのものを否定している部分もあって、言葉が独り歩きすると誤解を生じる可能性が高いので、あえてこの言葉は使わないようにしている。が、我々が生産において目指しているものは、リーン生産のコンセプトをベースとし、人が生き生きとして、絶え間なくカイゼンの進む工場であり、そういうものを先代から受け継ぎ大切にしてきた。そういうことが出来る能力を持っていることが強みでもある。そうした強みを活かしながら、かつそれが伸びるような、それをサポートできるようなシステムこそ、いま我々が作ろうとしているものである。

3 「ダントツ工場」のコンセプトは、「人間が中心」

「人間が中心」というコンセプトが日本に合ったコンセプトであると思う。海外との比較という意味で考えた場合、それは能力の問題ではなく、役割の違いが大きいと思う。現場には、言われた作業だけをやっていればよい、という人と、そこに何かの喜びを見つけ、カイゼンしていいものができたら嬉しいと感じる人がいる。海外では、後者の仕事は生産技術者が行うことであり、現場の人はやらない。だが日本は、どこかで役割を切っている訳ではなく、双方がシームレスにつながり、お互いが強いところを相互補完しながら、総合力として活きるというやり方を通じて競争力を向上してきたと思うし、複雑なモノを作る現場には、そういうやり方が今後も暫くの間は競争力が維持できると思う。そういうやり方を是とした中での情報化システムの在り方を模索している。

日本流であろうと欧米流であろうと、データの見方やカイゼンの仕方は、デジタル情報として、そしてノウハウとして蓄積していく事は可能だ。設計情報から生産準備を通じて量産にまで至るのエンジニアリング・チェーンもデジタルでつなげようとしている。たとえば最もわかりやすい例は「型」であり、製品図面が出来れば、自動で型図面が生成でき、それがCAMによって自動で加工できるような繋がりである。この領域の情報技術開発は欧米の方が進んでいると思うが、当社の特徴は、生産準備を技術領域で区分けするのではなく、同時並行的に作りやすさや投資のやり方も考慮しながら、製品設計と生産技術、あるいは型設計や製造現場作業者が垣根無く議論を行うやりとりをしながら最高のものを作り上げていくという点が特徴である。そういった特徴を活かしたエンジニアリング・チェーンとは何だろう、という視点でシステム開発を行っている。そのシステムは役割の垣根を越えて繋がっている中で、現場改善もそのチェーンの中に含まれている。現場がカイゼンされると、そのカイゼンをチェーンの上流に戻そうというシステムを作ろうとしている。

簡単に言えば、モノの作りやすさ、ということかもしれない。止まらないラインを作れば、人もノウハウも不要になる。止まらないラインとは、よりポテンシャルの高い製品形状であったり、製品の形であったり、製品構造であったりする。難しい製品であれば、難しい設備になり、難しい現場になる。これまでノウハウ/暗黙知として人や現場の中に蓄積されてきたもの、カイゼンしたデータ、やり方、プロセスなどをデジタルデータとして残すことで、難しさの定量化やそれをよりシンプルにする改善につなげていく。これらは競争力を上げる事がまずもって最大の目的だが、合わせて人材育成の面でも大きな効果を発揮すると思う。近い将来、ベテランが少なくなったときに、これから構築する情報化システムがある程度は補完が出来る。

だが最終的には、やり方そのものが進化していかないといけないので、人はずっと続いていかないといけない。そのため、人の育て方は、これから考えていかないといけない。だが今までと同じやり方では成立しないので、それを補完するデジタルデータを、ノウハウとして蓄積していく。

さきほど挙げた「型」を例にすると、「型」は一発で合格しない。「型」は複雑なので、一度設計図面にノウハウを転写した形で「型」を作り、実際に加工し、出来上がったモノの計測を行って、違っている箇所を修正していく。その修正の仕方も、ルールがある訳ではなく、1ミリずれたからといって、1ミリ削れば、1ミリにならない。その原因は、材料の流れ方であったり、条件であったり、いろいろな要素があるため、どういうときに、どのように修正すればいいか、はノウハウである。ここのところは今までかなり人に依存してきたが、そのデータをずっと蓄積すると、あるルールや規則性が出てきて、それをノウハウとして貯めることができる。

あるいは、ルールまで見つけられなくても、どういった形状のどういったときには、どうするか、というライブラリができる。すると購入するソフトは汎用であっても、自分たちのノウハウのデータベースを持っていると、従来、3回も4回も修正していたのが、1回でできるようになる。さらには、最初から良品が出来るようになる。そういった人のノウハウをデジタル情報で蓄積していく。

そういった新しいノウハウや法則性の発見、それらのライブラリの整備、はやはり人中心がしばらく続くだろう。そこもやはり人中心で当面やっていく。

4 導入前と導入後を比較したとき企業として最も変化するところ

直接効果であれば生産性が上がることであるが、仕事の仕方やプロセスが変わるので、その結果として最も大きな変化は組織構造や組織能力が変わることだと思う。データがつながると、エンジニアリング・チェーンでいえば、何かの設計変更をすれば、どこを変えればいいか、全てがつながっているので、すぐにわかる。これまでは、設計者が設計変更すると、生産技術がチェックし、変更箇所を確認し、生産技術が仕様書を書き、設備を改造し、現場が動くという分担で実施してきた。だがそれが全て標準化された形になると、1人でできてしまう可能性がある。すると、役割論で組織を作ることが正しいのか、という議論になっていく。

たとえば、現場では工場長、課長、班長がいるというレイヤーを構成しているが、工場の状態を丸ごと見える化し、どのような手を打てばいいかわかるようになると、そのさまざまは誰がやるべきか、どのような単位で区切ればいいか。いままでの最適とは違うものが出てくる可能性がある。

組織のヒエラルキー、構造、役割、仕事のステップ、何かやろうとすると会社のルールがあり、会社のステップがあり、各ゲートで承認を受けながら進めるが、今あるシステムは、従来のやり方での最適であって、新しいやり方の中ではもう意味がない、ということが必ず起きる。会議の在り方も変われば、決裁の在り方も変わっていくかもしれない。それは会社のシステムの1つなので、会社の基盤を見直さないといけなくなる。しかも意味をなさなくなることが多くなってくるだろうし、さらに新しく考え出さないといけないことが出てくる可能性もある。

最初の導入時は、いまの仕事のやり方/仕事のシステムを前提に情報ツールを入れるしか取るべき方法が無いが、一旦入れたその情報ツールが運用を始めると、違った仕事の仕方になっていくと思う。そうすると、会社の組織や仕事のやり方が、これをきっかけにして大きく変化していくであろうし、そうしていくつもりである。それが世間で言う「働き方改革」につながり、やりがいが増すと共に生産性が上がり、よりハッピーな仕事ができるようにしたい。

5 会社として必要な人材

現時点では、目の前に迫った仕事に対して人材が圧倒的に不足している。典型的なのは、データアナリスト/データサイエンティストである。ビッグデータをいくら収集できても、誰が解析するのか。これまでの生産ラインでも、保全がいるが、いまのラインの専門家であり、そこに新しくIoTというセンサーがネットワークでつながり、制御されるとなれば、その知識が必要になってくる。他にもネットワークの構築やアプリケーションの開発など、多くの仕事があり、単純に目の前に不足している人材が多くいる。

現場の人材については、当社は、デンソ-技研センターという学園を持っている。ここは色々な教育体系が整っているので、ここにいくつかの科目を追加し、学園生に教えるとともに、保全員を定期的に派遣しながら、ある一定レベルになるように教育していく、ということは始めている。

データサイエンティストでいえば、会社のなかに専門家は少なく、私の部署にも少人数しかいないが、米国の大学に留学させたり、別の会社から中途採用したりして、少しずつ増やしている。全社でいえば、品質管理部に統計の専門家がいるなど各部署に散在している。最終的には全社としてこの手の人材をどのように持って、どのように活躍してもらうかを考えていかなければいけない。

6 将来に向けた中長期的な課題と取り組み内容、将来の展望

私が持っている2つのイメージがある。1つ目はバーチャルな世界と人の改善をもっと近づけたいというもの。欧米系のモノの作り方と、我々がやってきたことは違うので、我々に合ったものといえば、「人が中心」であり、人の知恵が常に宿ることである。定性的な言い方になるが、ものづくりの世界では、「神は細部に宿る」という言葉があり、競争力は細部に宿るという考え方がある。いかに細部の整合性を合わせていくか、その1つ1つはつまらないことかもしれないが、それをジグソーパズルのように積み上げると、すごいものが出来あがり、誰も真似ができない。一見するとわからないが、1つ1つ見ていくと、そのすごさがわかる、という性格を持っている。当然ながら、そのベースには革新的な技術があり、量産できることが前提としてある。そういったカイゼンは現地現物で行っていくわけであるが、もしバーチャル上でできるなら、とてつもなく早く出来てしまう。位置を少し変えて、作業を変えれば、少し短くなるかもしれないとなると、現場では実際にそうして、効果があったか無かったかを見ている。それがシミュレーション上又はバーチャル上でできれば、あっというまに確認出来てしまう。それをパーフェクト・デジタル・ツインと呼んでいるが、かなり細部にわたって、リアルな世界をバーチャルな世界で作り上げないといけない。より精度の高い細かい仮想空間が出来れば、そこでカイゼンも出来る。カイゼンというのは、1つのカイゼンですぐに出力が上がるというものではなく、因果関係がとても弱く、理屈上ここを攻めれば1円上がるからここを攻めるというものでなく、絨毯爆撃的にするという、理屈に合わない日本的なことをしているが、それらも広い範囲でバーチャルで見れば、ここの在庫を1個減らせばどうなるか、全て見える。そういう世界を作ろうとすると、静的な粒度の粗いレベルでの仮想空間でなく、もっと緻密でレベルの高い動的な仮想空間が必要である。いまの技術レベルで考えると、そこまでやって意味があるのか、コストがどのくらいかかるのか、という意見もあろうが、情報化技術の進化を考えると、必ずしも夢物語でなく、そんなに遠くない将来に出来るのではないかという気がしている。そういった仮想の世界を作り上げて、当社の持っている人の強みが、そのなかで活かされる世界を作りたい。

もう1つのイメージは、いくら情報化技術が進化しようとも、ハードに対する進化の思いへ決して捨てないというこだわりである。現実社会には、最後は、必ずモノがあるので、モノそのものを作る力がなければ、いくら良い情報化ツールを持っていても意味がない。リアルな世界でモノを作る技術を上げていくタンジェント(tangent)は仮想世界の情報化技術の進化と比較すると圧倒的に遅い。

モノを作るリアル世界での実力は、技術開発も含め、とても時間を要するが、やり続けないと上がっていかない。情報化システムが進化する次の段階では、進化に伴うハード側の進化が一緒に来ないと、進化は起きないと考えている。最新の情報化技術は生まれたばかりで、技術が持つポテンシャルの使い切り、という面で、実在するリアルなモノが持つポテンシャルと比較して、情報化技術のほうがはるかに多くの可能性を持っている。、情報化を導入することで、いくらでも儲けの取り分が生まれる。やがて、その儲けの取り分が無くなったとき、次の儲けの取り分を生み出すのは、やはりハード側の進化ではないか。その意味から、私は工場情報化と生産技術の両方を担当しているが、生産技術そのものの進化にはこだわりを持ち続けていたい。そして次の進化に備えたいとの思いが強い。

たとえば、フレキシブル生産システムと昔から良く言われている。自由に設備が組み替えられて、とてもいいものだと言われてきたが、これはハードが出来ても、制御系が追いついてこれなかったため、本当の意味での理想的なフレキシブル生産システムは実現できなかった。だが今は計算スピードがとても早くなり、どのような複雑なものでも解けてしまうので、ある程度は実際に出来るようになっている。いままで出来なかったことが出来るようになり、フレキシブルな生産システムが作れるようになってきている。それをもっとフレキシブルにするためには、ハードをもっと自由に組み替えられて、もっと自由なロボットが出てくれば、もっと違う世界が出てくる。そこにはやはりハードの進化がないと、劇的な次の進化が生まれないのではないか。ものづくり屋から見ると、なんとなくそのように感じている。だから、ハード側の開発は一生懸命進めていきたい。

7 さいごに

先に述べたように日本のモノづくりと情報化システムは親和性が非常に悪い。色々な要因があるのだろうが、その中の最も大きなものの1つは標準化であろう。小さなことから大きなことまで差別化をキーワードとして、常に変化を許容する中で、細部にわたって整合性の維持可能なユニークな生産システムを作りあげてきた日本のモノづくりは、情報化システムを導入する前提である標準化という壁にぶつかった時に、どこから手を入れれば分からず呆然と立ち尽くす、というのがどの会社も経験する事ではないだろうかと思う。TPSの世界では標準化とカイゼンは相反するものではなく、標準化が無ければ改善は出来ないという関係であるが、その標準化の持つ意味合いとスケール感がこれまで経験したものとは全く次元の違うレベルで成し遂げなければならない、そして求める情報化システムは、カイゼンに追従可能なスピード感を持った動的なシステムでなければならず、それは欧米が求めるものとは一線を画する。理想を言えば両者のいいとこどりが可能なシステムを構築したいが、そんなうまい話はないだろう。現実的なとりうる手としては、今自分たちが強みと考えている仕事のやり方、現場を基本として、それに合うシステムを導入する、という入口しか考えられない。それは標準化の考え方からは若干外れるものであり、真の意味で情報化メリットを享受出来ない、ある意味中途半端なやり方になると想像している。しかし、そういう形でシステムを導入していけば、必ず仕事のやり方を見直してシステムに合わせなければいけないものが出てくるであろうし、標準化の考え方も変わってくるだろう。その段階に来て初めてこれまでにない全く新しいモノを生み出すことが出来ると考えている。そういう意味では今やっている活動はあくまで準備段階でしかなく、本物の仕事は数年先にあるのではないか、と感じている。そのような信念を持って進めてはいるが、その信念を持ち続ける事は大変難しい事でもある。情報化には非常にお金がかかるが、投資対効果が見えにくく投資の妥当性が検証しにくいこと、合わせてツールそのものが持つ破壊力が大きく長期にわたる影響力という点で全てが読み切れない事もあり意志を持って常に注意していかなくてはならないと思っている。大事なことは情報化システムの位置づけを意志を持って明確化し、その考えをきちんと持ち続けるという事かもしれない。新しいツールによってこれまでできなかった事が出来るようになったり、あるいはそのツールによって仕事のやり方がどんどん変わっていくと思うが、そういう中での情報化ツールの位置づけとして、主体とサポートという関係を常に意識てしていく事が大事だと思う。

あくまで主体は人にあり、環境や場を作っていくという考え方と、ツールそのものが主体として活躍していく、つまり人を排除していく考え方があると思う。これらは1か0かというように考え方をハッキリ区別する必要は無く、ケースバイケースでその時々に考えて行けば良い問題だと思うが、良いか悪いか、というような理屈で決める話ではなく、良いと思うモノづくり、良いと思う社会を本気で作ろうと考えているか、思想的な戦いを如何に自分自身たちが意志を持って取り組んでいくか、という問題になってくると思う。そういう意味において、我々は「人が中心である」という事に強いこだわりをもって進めていきたいと強く思っている。その考えが、これから10年くらいは違和感なく進めて行けるだろうが、その先についていろいろと考えるべきことが多くあり、さらに技術の加速度的な進化が起きるのであれば、いま述べた我々のコンセプト自体を見直さないといけなくなる可能性もある。そういう事を念頭におきながら、まずは今を変えていくという意味で、現在進めているダントツ工場活動を全速力でやりきるために全力を尽くしている。

脚注
  1. ^ 「アンドン」:アンドンとは、工場におけるベルトコンベアなどを用いた強制駆動型生産ラインの生産状態報告システム。トヨタ生産方式の要素の1つである。語源は行灯に由来する。アンドンは生産ラインの脇の通路側の上方に設置され、ランプからは紐が下がっている。あるいは作業者の傍にアンドンを操作するボタンが設置されている。ランプは作業工程毎に設置され、また作業者がすぐに紐を引ける場所に設置されている。アンドンは流れ作業のような異常を他者に知らせにくい生産ラインにおいて、異常を他者に伝えることを目的としている。不具合の後工程流出を防ぐためであったり、生産ラインが抱える問題の顕在化(見える化)のためであったりとさまざまな目的を有する。アンドンという言葉は日本の製造業が日本国外から研究された際に重要な要素の1つとされ、結果世界中の工場へと広まっていき、日本語以外でもAndonとして通用する言葉となった。(出典)ウイキペデイア

2017年11月24日掲載

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