IoT/インダストリー4.0が与えるインパクト

第62回「中小製造業のIT/IoT化支援の取り組み-MZ Platformとスマート製造ツールキット-」

岩本 晃一 上席研究員

当研究所主催の「IoTによる中堅中小企業の競争力強化に関する研究会」において、研究会委員である国立研究開発法人 産業技術総合研究所 製造技術研究部門 澤田浩之 総括研究主幹から、「中小製造業のIT/IoT化支援の取り組み-MZ Platformとスマート製造ツールキット-」に関してプレゼンテーションがあった。本記事の読者の方々にとって大いに有益な内容であるため、以下に紹介する。

1.研究開発の背景

製造業において、業務改革を推進し競争力の維持向上を図るためには、IT化への取り組みが不可欠であると広く認識されている。さらに、IoTの導入による現場データの活用は、単なる効率化に止まらない大きな効果をもたらすものとして期待されている。しかし、特に中小企業では、そのようなシステムの開発や導入、運用のための負担が非常に大きい上に、実際の業務に合わせて使いこなすための人材を確保することが難しいというケースが多く見られる(図1)。

図1:中小製造業のIT化の現状
図1:中小製造業のIT化の現状

このような問題を解決するために、産業技術総合研究所(産総研)では、中小製造業の技術者が高度な専門知識を必要とせずに、自らシステムを構築・運用するためのソフトウェア作成ツール“MZ Platform”と、そのIoT拡張キットである“スマート製造ツールキット”の開発と普及を進めている。

2.ソフトウェア作成ツール“MZ Platform”

MZ Platformは、コンポーネントと呼ばれるソフトウェアの部品を組み合わせてシステムを作り上げるツールである。従来、ソフトウェア開発を行うためには、プログラム言語を習得し、ソースコードを書くことが必要だった。しかしながら、ITの専門家ではない製造業の技術者にとって、プログラム言語の習得とソースコードの記述は大きな負担となる。MZ Platformでは、さまざまな機能を持ったコンポーネントがあらかじめ用意されているので、ソースコードを書くことなく、従来よりもはるかに容易にソフトウェア開発を行うことができる(図2)。

図2:MZ Platform概要
図2:MZ Platform概要

MZ Platformは、企業の実用システムにおいて汎用的に使用するコンポーネントとして、現在、200を超える標準コンポーネントを用意している。その他、Java言語によるプログラミングにより、ユーザー自身が独自のコンポーネントを作成して使用することも可能であり、そのための説明書や雛形ファイル、サンプルファイルも合わせて提供している。

多くの企業に共通して見られる技術的な課題としては、「情報の一元管理」が挙げられる。企業における事例で開発されたシステムは進捗管理や原価管理等さまざまであるが(図3)、本質的には、紙の帳票やエクセルファイルなどに散在しているデータを一元的に取扱うことによってデータ間の齟齬を解消し、整理した形で可視化することである。

図3:MZ Platformによるシステム開発事例
図3:MZ Platformによるシステム開発事例

これらのシステム開発では、データベースアクセスコンポーネントと、各種グラフコンポーネントが利用される。データベースアクセスコンポーネントは、MySQLやPostgreSQL、SQL Server、Oracleといった関係データベースとの連携機能を提供するものである。これを用いてデータを一元的にデータベースに収集・蓄積し、集計・分析を行ったのち、グラフコンポーネントで可視化する。

3.MZプラットフォームユーザー会

産総研では、MZ Platformを会員登録制によりWebサイトから無償配布している(図4、 http://www.monozukuri.org/mzplatform/)。また、当Webサイトには、これまでに実現された製造業でのシステム開発事例の紹介や、ユーザー相互の情報交換のための掲示版、MZ Platform利用のための技術研修や技術コンサルティングの案内なども掲載されている。

図4:MZプラットフォームユーザー会ホームページ
図4:MZプラットフォームユーザー会ホームページ

4.IoT拡張キット“スマート製造ツールキット”

IoT導入によるスマート製造実現のためには、工作機械などの設備機器はもとより、センサーなどの計測モジュール、さらにはインターネットを介した外部システムとのデータ送受信機能が必要と考えられる。産総研では、MZ Platformの機能を拡張し、これらの連携機能を追加したパッケージを「スマート製造ツールキット」として配布することを計画し、開発を進めている(図5)。

図5:スマート製造ツールキット概略
図5:スマート製造ツールキット概略

図の中央部分が従来のMZ PlatformによるIT化の範囲であり、その周辺がIoT機器連携のための機能拡張部分である。MZ Platform自体は、すでに標準のシリアル通信コンポーネントによる汎用的な通信機能を備えており、IoT機器連携拡張機能は、主に、それを既存の各種規格に合わせて利用するためのインタフェースとして位置付けられる。

5.システム自作の効果

ITシステムの自作は、コスト低減のみならず、IT化の効果的な推進という点できわめて有効である。通常、現場の作業者が、業務の中でやり取りされる情報やデータの流れを意識する機会はあまりない。だが、自らシステム開発に携わることによって、業務全体を情報の流れという視点から俯瞰的に捉え、同時にITでできることとできないことを見極め、IT化のポイントや、効果的なシステム構築および運用方法を見出すことができるようになるのである。

昨今、「身の丈IoT」という言葉をしばしば耳にする。これは、低価格で手軽に利用できる機器やセンサーを使って、IoTの仕組みを自作しようというものである。これもコストという文脈で捉えられることが少なくないようだが、むしろ、自ら手を動かしてIoTシステムの構築に取り組むことによって、利用技術や現状の課題を深く理解し、さらに幅広い展開を図るためのアプローチとして捉えるべきであろう。

2017年10月27日掲載

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