IoT, AI等デジタル化の経済学

第40回「ドイツ・ミュンヘンIoT国際カンファレンス(NO.2)」

岩本 晃一
上席研究員

井上 雄介
リサーチアシスタント / 東京大学大学院経済学研究科博士課程

2016年11月22〜24日、ドイツ・ミュンヘンにおいて日、独、米、中が参加した大規模なIoT国際カンファレンス「The Digital Transformation of Manufacturing Industries: Revolution or Evolution ?」が3日間にわたって開かれた(主催;Prof. Dr. Michael Dowling, Chairman, MUNCHNER CREIS and Prof. Dr. Henning Kagermann, President, acatech)。参加者は、名簿によれば、230人であった。当該カンファレンス専用のツイッターが設けられ、リアルタイムで書き込みがなされ、パネルディスカッションの際には、質問がツイッターに順次書き込まれて投影されるなどの工夫が素晴らしかった。議題は、
11月22日 オープニング、ドイツ科学工学アカデミーからの調査報告
11月23日 セッション1 未来のビジネスモデル
     セッション2 未来のキーテクノロジー
11月24日 セッション3 協力協調イニシアティブ
     セッション4 チャレンジと機会

当連載では、ここで発表された講演のうち、重要な内容を選んで順次掲載することとしたい。日本人講師も2人登壇した。

では、本シリーズの第2弾として、ロボット革命イニシアティブ協議会久保事務局長の講演をご紹介したい。

Manufacturing Business Revolution through IoT(IoTによる製造ビジネス変革)
ロボット革命イニシアティブ協議会事務局長 久保 智彰

皆さまこんにちは。

只今紹介頂きましたロボット革命イニシアティブ協議会事務局長の久保智彰です。

本日は「ロボット革命イニシアティブ協議会(Robot Revolution Initiative,以下RRI)」が行っている活動について紹介したい。

RRIは、日本経済再生本部による「ロボット新戦略」の具体的な推進母体として2015年5月に発足した。RRIの下には3つのWorking Group(以下、WG)が設定されている。本日はその中で特にIoTに関連が深いWG1「IoTによる製造ビジネス変革」について、活動および近況紹介を行う。

1. Introduction of RRI

まず、WG1実施の背景について説明したい。日本の産業を振り返れば、社会は「もの/コンシューマー」から、「アクション/プロシューマー」といったパラダイムシフトが起きている。これは、資本主義・グローバリゼーションからアソシエーション・シェアリングへの転換を意味している。IoTを活用することで、人々が生活しやすく、且つ持続可能な社会を目指していくことが、このWGの設定背景である。

図1-1:The Society with digitalization should be

日本の産業は、これまで3つの産業革命を経験してきた。第1、第2回目の産業革命は明治時代に、第3回目は「ものづくり」(「トヨタ生産システム」など)によって実現した戦後復興期だと考えられる。しかし、その後のバブル経済の崩壊と高齢化社会の進展を受け、日本の産業界は低成長時代に突入した。安倍政権が展開する「アベノミクス」は、こうした課題の解決に向けた施策である。

図1-2:Industries background in Japan

そうした施策の一環として組織されたのが、RRIである。これは2014年5月に開催されたOECD会議で、安倍首相がロボットによる新たな産業革命について言及したことに端を発している。こうして発足したのが「ロボット革命実現会議」である。同会議はロボットを活用することで産業競争力強化を目指す、「ロボット新戦略」を推進した。これがRRI発足の過程である。当時の団体数は226(企業・工業団体を含む)であったが、2016年8月には440へと倍増している。

図1-3:Establishment of Robot Revolution Initiative (RRI)

2. RRI Working Group

RRIの活動体制は3つのWGから構成されている。WG1:「IoTによる製造ビジネス変革」、WG2:「ロボット利活用推進」WG3:「ロボットイノベーション」である。

図2-1:RRI Working Groups

本日のテーマであるWG1の具体的な活動について紹介しよう。このWGの対象範囲は製造ビジネスにおけるミクロな視点からからマクロな視点まで全てをカバーしている。つまり、個々の製造工程、製造ライン、工場全体だけではなく、製品生産の前後にある、規格化・設定・輸送・据付・運転・メンテナンスといった製品のライフサイクル全体、さらにはサプライチェーンまでを対象としている。こうしてWG1は、ミクロの視点(個々の製造プロセスの最適化)からマクロの視点(システム全体の最適化)までを、その活動範囲と位置づけているのである。

図2-2:Scope of WG1

またWG1の概要をみれば、その特徴は、標準化・セキュリティ・中小企業支援・人材育成・規制改革といった重要な課題に、国または研究機関と連携して取り組むことにある。その際、国際協力なくしては実現不可能なので国際関係を重視している。そしてRRIの特色としてマクロからミクロという様に、トップダウン的に活動を行っている。

図2-3:Overview of WG1

3. RRI-WG1 functions

WG1の推進体制は運営委員会、そして諮問委員会から構成されている。その下にサブ・ワーキング・グループ(以下、SWG)が置かれている。このSWGには、食品産業などを対象としたテーマ別WG、工作機械などが該当する領域別WG、国際標準化・中小企業支援・ユースケースを扱うAGがある。

図3-1:RRI-WG1 functions

日本は現在、世界各国と連携し、IoT分野に貢献している。日本が最初の連携国として選んだ国はドイツである。この理由は、ドイツがインダストリー4.0を推進しており、また日本と同様に、産業構造を中小企業が支えているためである。昨年4月、ドイツと官・民・学で連携協定を結んでいる。官では経済産業省と経済財エネルギー省、民ではRRIとIoT推進事務局であるPlattform Industrie4.0、研究面では産業技術総合研究所と人工知能研究センター(DFKI)が提携している。RRIは既に第1回目の専門者会合を行っており、標準化・セキュリティについて意見交換を行った。またアメリカでは、IoT推進コンソーシアム組織(IIC)およびOpenFogコンソーシアムと覚書を交わしている。一方、国際標準化関係では、IOS・IECにも日本は参加している。

図3-2:Major Frameworks of Japan's Intern'l Contribution

国際フォーラムもRRIの活動手段の1つである。2回の国際フォーラムを通じて、アメリカ・ドイツだけでなく、フランス・チェコ・中国ともIoT分野で交流を図っている。本年3月にはドイツでCeBITが開催されることもあり、より一層の議論を行う必要がある。

日本--ドイツ間では、インダストリアル・サイバー・セキュリティ、国際標準化、規制改革、中小企業支援、人材育成、研究開発の6項目で連携が日独共同声明および経済産業省--経済エネルギー省間の局長級会議で約束された(2016年4月)。

図3-3:Japan-Germany IoT / Industrie 4.0 cooperation

同時に、プラットフォーム同士の、RRIとインダストリ-4.0との間でも同内容での連携が約束されている(同年4月)。

図3-4:RRI-Plattform I4.0 cooperation agreement

国内で展開されている「Smart Manufacturing(製造工程の自動化)」に関するイニシアティブ活動をみると、経済産業省の下でRRIが、トップダウン・アプローチを採用している。同様に、産業技術総合研究所も、中小企業に対して、リファレンス・モデルの提供や標準化に関するプロジェクト活動を行っている。一方、民間組織ではIVI(Industrial Value Chain Initiative)が、ボトムアップ・アプローチを介して実用的なユースケースを提供し、IoT導入を支援している。

図3-5:Japan major initiatives for Smart Mfg.

WG1の構成メンバーは147団体で、各製造業者(電気・電子・機械など)・IT産業・商社・保険などの企業に加えて学会や工業会など、多岐にわたっている。国内だけでなく、ドイツ・フランス・アメリカの企業も参加している。

図3-6:Mfg. Business Revolution through IoT title=

4. Theme-driven Working Group(SWG)

GW1におけるテーマ別のIoT活動は、産業ごとにさまざまな形態で行われている。各業界・産業に応じた計画を作っていくことが不可欠となる。ここではそれらを扱うサブワーキンググループの活動について紹介する。

図4-1:Theme-driven Working Group (SWG)

まずは、食品産業へのIoT活動を紹介しよう。日本食品産業は零細企業によって支えられている。しかし、食品産業は他の製造業と比較して、投資不足、気候・季節による需要の変動、保存性や安全性といった問題を抱えている。だからこそ、デジタル化、IoTの導入によって改善していく必要がある。たとえば、天候・イベントの情報などと市場の情報を結びつけることで需給調整を行うなど、IoTの利用方法を提供していきたいと考えている。

図4-2:Sub WG on IoT in food manufacturing industry

次に、FAシステム・インテグレーター育成に関して紹介を行う。システム・インテグレーションでは、標準化が重要な視軸となる。しかし、現在の日本では、こうしたロボット・システムやロボット・システムインテグレターが不足しており、人材育成が急務となっている。

図4-3:Sub WG on IT-FA system integrator cultivation

IoTを導入することで、FAシステムは大きく改善する。たとえば、メーカーが装置産業から購入した設備を、容易に製造ラインに導入でき、また一方で、工作機械メーカー側もネットを介して購入者から稼働率などの情報を入手する、といったことが実現可能になる。

図4-4:Sub WG on IT-FA System Integration by digital collaboration

このSWGは、日本におけるIoTの活用では、製造業の強みが生かせる形を模索すべきであるとの議論を行っている。

図4-5:Sub WG on Enhancement of Japan's strength

5. Activities in Europe

続いて、重要項目毎の活動グループ(アクショングループ)であるAGについて説明しよう。前述の通り、AGでは国際標準化・中小企業支援・ユースケースについて活動を行っており、それぞれドイツとの意見交換を行っている。国際標準化に関しては、日独専門家会議の開催が合意され、大会第1回目の会合が開催された(昨年10月)。

図5-1:International Standardization AG

また中小企業支援に関しても、日独間で意見交換のための相互訪問が予定されている。ここではRRIの中小企業支援活動について紹介しよう。RRIにおける議論を踏まえ、経済産業省は昨年度、「スマートものづくり応援隊」を全国5カ所に設置した。これは、ソフトウェアやIoT、ITシステムなどを、中小企業が容易に導入できるよう、支援するための組織である。「スマートものづくり応援隊」では中小企業が利用可能なツールを、「スマートものづくり応援ツール」と呼び、情報を収集している。

図5-2:Small and Med. Enterprise Support AG

6. Use Case Generation & Utilization AG

続いてユースケースについて紹介しよう。AGでは、IoTの導入事例をユースケースとして紹介している。これは、すでにドイツやフランスで、オンラインマップとしてインターネットで公開しており、日本も事例収集を開始している。

図6-1:Use Case Generation & Utilization AG

オンラインマップは地図の形式で、事例が載っている場所をクリックすれば、その情報が閲覧できる。今現在ではまだ三十数件だが、今年のCeBITまでに150件集めて公開する予定である。

図6-2:Overview of the map
図6-3:Detail view of the map

今回集めたユースケースはアプローチの視点で見てみると、開発プロセス、検査・ツール・部品といった観点で行っているもの、装置、設備といったものを対象としているもの、リモートモニタリングなどの分類に分けることができた。

図6-4:Use case types (by approaches)

またキーワード別でみてみると、センシング・ネットワーク・サーバーなどそうしたキーワードが多いことが判明した。

図6-5:Use case types (by keywords)

成果のパターンでみると、1つは会社の事業業務プロセスの改善、企業間の改善、顧客の新しい価値を作り出すといったIoTのさまざまな使い方を示している。

図6-6:Use case types (by effect patters)

ユースケースの具体例を4つ紹介しよう。1つ目はダイゼルである。同社はケミカル製品を製造しており、国内にいくつかの工場を設けている。製造過程でエネルギーとして電気・石炭・重油などを製品および価格相場に応じて使い分けている。これまでは各工場内でのみ最適化を行っていたが、IoT導入後、各工場の情報システムを統合し、全体最適化を行った。その結果、どの工場で、どの製品をどれだけ生産しているのかといった情報が入手可能となり、エネルギーの調達費用削減が可能となった。

図6-7:Improve company's operation

2つ目はネジの卸売販売を行っているSUNCOである。同社の販売するネジの種類は77万種に及び、これを4500もの顧客に提供している。日時ベースで各顧客に応じた商品の出荷を行っていたが、発注のタイミングを予測できなかったため、梱包が遅れ、残業が常態化していた。しかし、IoT導入後は、顧客の注文パターンをビッグ・データとして解析することで、ある程度注文の推測が可能となったのである。その結果、梱包作業が早くなり、残業の半減に成功した。情報の効率的な利用を行った事例と言える。

図6-8:Improve company's operation

3つ目の事例は、マッチングシステムの開発に成功したLinkersである。同社は、発注側の大企業と、受注側の中小企業間を仲介するマッチング業者である。IT技術とコーディネーターの活用により、互いに自社のアイデアやノウハウを公開したくない両者を、円滑に結びつけることに成功した事例である。

図6-9:Improve inter company's relationship

4つ目の事例は、農機具販売を行うKubotaの事例である。同社はトラクターや田植え機などにセンサーを備え付け、収穫量だけでなく、作物の栄養価・成分なども分析可能にし、それをGPS情報とともにクラウド化するシステムを提供している。こうした情報を集約・分析することで、来年の作付け計画を予測することが可能となった。トラクターというハードウェア販売と同時に、このようなサービスを提供し、カスタマーバリューの価値を高めることに成功した。

7. Online IoT tool library for SME's

最後にオンラインツール・ライブラリーについて、その活動概要について説明しよう。これは、中小企業が安価にIoTを導入できるように、安価なツールを収集・提供する活動である。106の事例を、7分野に分けて紹介している。

図7-1:Online IoT tool library for SME's

具体的には、製造現場の課題、工場間もしくは工場外との情報交換、事務所の業務改善などである。

図7-2:Online IoT tool library for SME's

今回はそのうちの5つの事例について簡単に述べたい。1つ目は、無線によるワイヤレス通信システムの利用の事例である。従来、工作機械などの稼働率を集計するといった単純なことですら出来ていなかった。しかし、そこにワイヤレス機器を設置し、信号を飛ばすことで、装置群の稼働状況を日時レベルで可視化することが可能となった。

図7-3:Device to visualize machinery operation

2つ目は無線タグの事例である。無線タグ自体は、既に普及しているが、これはさらにそれに一工夫加えた例だ。いままで、金属には無線タグの取り付けが出来なかったが、企業の技術開発によって金型・鉄鋼などの金属製品にもタグの使用が可能となったのである。

図7-4:RFID tag for metal parts

3つ目はマニュアルのビジュアル化に関する事例である。オペレーターに対してビジュアル的な指示を行うため、マニュアルをスマーフォンで使って簡単に作れるようにした手法である。

図7-5:Easy manual maker could service

同様に、スマートフォンで製品の写真をとることで、補足情報を追加するだけで在庫管理の簡易化も実現している。

図7-6:Easy inventory control by picture

4つ目の事例は、業務効率化のアプリ製作の事例である。従来はデータをexcelなどで集約・処理していたが、新たなアプリを製作することで、ソフトを自作できるようなツールキッドを整備した。

図7-7:Easy application builder

最後の事例は、電話とコンピュータを直結することで実現した成功事例である。顧客からの電話対応では、製品注文もしくはその修正など、多くの問い合わせが生じる。その際、電話とパソコンを接続することで、迅速な対応が可能となる。すなわち、電話がコールするだけで、客の属性・現在の受注状況などが自動的にパソコン画面上に表示できるようシステムの改善を図ったのである。

図7-8:Simple one-stop manager for manufacturer

このようにWG1ではIoTの利活用を推進する活動を積極的に行ってきた。RRIでは、今後もより広範なアクションを取り続けていきたいと考えている。

ご清聴ありがとうございました。

2017年2月20日掲載

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