IoT, AI等デジタル化の経済学

第23回「IoTが雇用に与える影響;コマツの事例」

岩本 晃一
上席研究員

現在、我が国においてIoTが現場に本格的に導入されている事例は極めて少ないが、それらの事例では現場の雇用にいかなる影響が生じているか、その具体的事項をインタビューした内容を、紹介している。今回は、コマツにインタビューしたところ概要は以下の通りであった。

1 コマツの成長戦略

コマツの成長戦略は、まずPhase1として「環境」「安全」「ICT」という3つの軸に集中して、他社が数年追いつけない抜群の性能により機械本体の商品力向上を実現する「ダントツ商品」から、Phase2として後述のKOMTRAXによる機械の見える化を進めることで機械を販売した後のバリューチェーン全体までカバーする「ダントツサービス」へと進み、さらにPhase3は機械を売ってサービスするという従来のビジネスだけでなく、お客さまの施工現場全体の現場管理、効率化などをお手伝いする「ダントツソリューション」を目指しています。

2 KOMTRAX(コムトラックス)

KOMTRAXは、GNSS(GPSなどの人工衛星を使い、現在位置を正確に割り出すシステム)と衛星通信、または携帯電話通信網を使って機械の位置や稼働状況を把握するシステムです。2001年から標準搭載しており、2016年1月現在全世界で約41万台が稼働しています。個々の建機の位置情報、稼働時間、燃料レベル、機械のエラー・コーション他のデータを取得して、それらデータを分析することで、お客さまにとっては最小のコストで機械を最適な状態に保つことによるライフサイクルコスト低減、代理店にとっては迅速で的確なサポートの提供、コマツにとっては需要予測、生産計画、商品開発などに生かせるといった効果を見込んでいます。

3 建設業の構造と建設業の抱える課題(コマツの認識)

(一社)日本建設業連合会の資料によれば、現在、建設技能労働者に対して約350万人の需要がありますが、今後、高齢者の引退などにより2025年には約130万人の供給不足が見込まれます。またこの業界は、全体で約45万社のうち約42万社は月商5000万円以下、社員数十名以下という企業であり、全体社数の約94%を占めます。実際は社員10名程度の会社がほとんどです。

そういった建設業界では土木施工について以下のような課題を抱えており、それらを解決する一つの手段として、施工現場の見える化の活動の中からコマツはICT建機、スマートコンストラクションを提案しています。

  • 安全性(多くの作業者が介在しており事故も多い)
  • 熟練オペレータの不足
  • 工期が長い(測量・丁張り・検測など多くの工程がある)
  • 現場の進捗を管理するのが難しい

4 スマートコンストラクション(SMART CONSTRUCTION)

コマツは従来の建機販売ビジネスから施工のトータルソリューションを提供するビジネスモデルへの進化を目指して、2013年からICTブルドーザ「D61PXi」やICT油圧ショベル「PC200i」などのICT建機の市場導入を進めてきました。これに加えて、2015年からはICTにより建設現場が抱えるさまざまな課題を解決し、「未来の現場」を実現させていくためのソリューションを開発、提供していくサービス新事業「スマートコンストラクション」を開始し、これからの中核事業として育成をすすめています。

5 スマートコンストラクションのサービスとそれを支える技術

「スマートコンストラクション」は、新たに開発したクラウドプラットフォーム「KomConnect(コムコネクト)」に、以下の建設現場の6つのプロセスに関わるあらゆる情報をICTで有機的につなぎ、安全で生産性の高いスマートな現場を「未来の実現」を創造していくソリューションです。

1)現況の高精度測量
UAV(無人飛行機:ドローン)や3Dレーザースキャナー、建設機械の運転席に搭載されたステレオカメラなどを活用することで、短時間で現況を正確に把握し、現場の高精度な3次元データを生成します。

2)施工完成図面の3次元化
お客様から2次元の施工完成図面をお預かりし3次元データに変換します。現況と施工完成形の3次元データの差から、お客様は施工する前に、施工する範囲、形、運土量などを正確に把握することが出来ます。

3)変動要因の調査・解析
工事を進める上で大きな変動要因となりうる土質や地下の埋設物について、事前に調査し解析します。

4)施工計画の作成
お客様がコムコネクトに施工条件を入力すると、「施工計画シミュレーション機能」が条件ごとに異なる施工パターンを提案します。また、施工開始後はリアルタイムの施工状況が施工計画シミュレーションに自動的に反映されるため、お客様は常に最適な施工計画を立案出来ます。

5)高度に知能化された施工
プロセス2)で作成した3次元データは、コムコネクトを通じてICT建機に送られます。ICT建機は作業機を自動で制御するため、経験の浅いオペレータでも熟練作業者のような精度で作業を行うことが可能です。

6)完工後の施工データ活用
ICT建機で施工した情報はコムコネクトに蓄積されます。また、蓄積されたデータは、施工後の整備・修繕や自然災害などを受けた場合の復旧作業にも役立てることが可能です。

6 コマツ生産工場におけるIoT導入

コマツでは生産工場におけるIoT活用を「つながる工場」という考え方でとらえて、「ICTで生産から販売までの全ての工程がリアルタイムに連携/循環するコマツ流の統合システムを構築する」活動としています。

これには2つの側面があり、1つが先のKOMTRAXにより代理店やお客さまといったバリューチェーンの下流とつながる「市場情報の工場直結化」、もう1つが工場内や協力企業の生産現場同士がつながる「ものづくりの『つながる化』」です。そして、このものづくりのつながる化を支える、IoT活用を活用した生産現場の改善の仕組みを「KOM-MICS(コムミックス):Komatsu Manufacturing Innovation Cloud System」と呼んでいます。

コマツは溶接などの部品加工は協力企業に委託することが多く、特にコマツの協力企業組織である「みどり会」に所属する企業とは、コマツからの技術提供に対して改善に協働で取り組む協力体制を築いてきました。KOM-MICSも社内のみならず協力企業の現場も巻き込んだ活動として推進しています。

6-1 溶接工程での事例

建設機械の車体は厚板(6mm〜40mmが多い)の鉄板や鋳鋼などを溶接した構造物となります。これをコマツ社内、および国内外の協力企業で溶接により製作していますが、厚板溶接に関するコマツのノウハウの集積である溶接ロボットのコントローラは自社製です。

その利点を活かして、ロボットの稼働状態をモニタリングする仕組みを早くから実用化して、2010年には国内外の主な溶接ロボットの状況を把握できる見える化システムを構築しました。そうしてロボットの動きを細かく分析、比較することで、自動でフルに動いているはずの溶接ロボットの稼働率(就業時間に対して実際に溶接をしている時間の割合)が実は50%そこそこしかないとか、品質の安定のために人の作業を介入させることがありますが、その際の待ち時間が非常に多いケースがあるとか、いろいろわかってきました。

しかし、人手に頼った集計・分析では時間もかかり見落としや判断のバラツキも生じますし、技術スタッフを十分に配置できない協力企業ではそういったところに工数を割くことも困難です。

KOM-MICSの活動の中では、データ分析やそこから導く改善の着眼点などを定型化してレポートするような仕組みを構築して、改善活動を進めやすくすることも行っています。

6-2 機械加工分野での事例

コマツの生産活動では、協力企業も含め約3000台の工作機械が稼働しています。

製品サイクルに合わせて製造ラインを一新する業界と違って、経年数30年以上というような古い機械までさまざまな世代、メーカの設備が混在しているので、ネットワーク化に対応していない機械もたくさんあります。そこで、KOM-MICSの活動においては既存のコントローラに外付けして情報収集を行うパッド端末を開発して、機械の稼働状態のモニタリングと改善のための情報提供を行う仕組みを構築しています。

リアルタイムでの高速な加工状況の見える化によって、常に最適な加工条件を維持するような適応制御も可能になると考えられています。

この外付けの端末は協力企業の機械にも付けており、コマツとのデータの共有、ノウハウの共有による改善のスピードアップを図るとともに、協力企業独自の改善活動にも活用しています。

図:コマツ流「つながる化」の目指す方向
出典)コマツ

2016年8月17日掲載

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