IoT, AI等デジタル化の経済学

第20回「IoTが雇用に与える影響;三浦工業の事例」

岩本 晃一
上席研究員

愛媛県松山市に本社がある三浦工業は、ボイラの生産、販売、メンテナンスを行う企業であり、国内ボイラ市場の約40%を占める国内トップ企業である。連結売上高は最近では平均して毎年約7%前後の伸びを示している。

同社は、IoTやM2Mなどの言葉が生まれる遙か以前の1989年から「遠隔状態監視」サービスを行っていた。顧客が使用しているボイラに埋め込んだセンサーから得られるデータを通信会社の回線を介して収集し、同社のオンラインセンターで職員が画面を見ながら稼働状態を監視し、異常が感知されれば、メンテナンス要員を派遣し、ボイラが故障・停止する前に修理することで、顧客の損害を防いでいる。同社の輝かしい業績は、故障しないボイラ、停止しないボイラとして、長い時間をかけて顧客から信頼を得てきた結果であるといえる。同社は、日本国内に約100カ所のサービス拠点を設置し、サービスエンジニア約1000人を擁し、同社が販売した5万5185台(2016年5月末現在)のボイラを「遠隔状態監視」している。

三浦工業にIoTが雇用に与える影響についてインタビューしたところ以下のとおり。

1 三浦工業の概要

三浦工業は、愛媛県松山市において1959年5月に設立され、現在、ボイラの生産、販売、メンテナンスを行っている。

出典)三浦工業から提供

1973年の第1次石油ショック後、同社は、故障の予防、保全、管理を目的とするビフォア・メンテナンス制度を立ち上げた。ボイラに保守契約を付帯して販売する手法は、従業員や販売店から、「他社メーカーに価格で負ける」「メンテナンス料金は通常修理完了後に請求するもの、前金ではもらえない」と反対されたが、同社創業者三浦保の「メンテナンスは故障前に行うべき」との強い意志で実施されることとなった。

その後、ボイラの国内普及率が高くなったこと、技術革新による品質の向上で商品の差別化が困難になったこと、更に加えてプラザ合意後の急激な円高で産業が空洞化したこと等により、他社との差別化が必要になった。そのため、1989年から「オンライン・メンテナンス」(商標登録)を開始した。

そうした差別化により同社の商品は好調に売れ、売上高(連結)は、2006年3月の649億1900万円から2016年3月には990億1900万円と10年間で+52.5%増加した。いまや国内ボイラ市場でトップシェア約40%を有するに至った。

ミウラグループの連結売上・経常利益・株価推移
図:ミウラグループの連結売上・経常利益・株価推移
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※2014年10月1日付けで株式分割を行いました。よって、それ以前の株価については調整しております
出典)三浦工業から提供
ミウラグループ従業員の推移
図:ミウラグループ従業員の推移
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出典)三浦工業から提供
*NETシステム、オンライン・メンテナンス、オネアーメンテナンスは三浦工業の商標登録

2 オンライン・メンテナンスについて

オンライン・メンテナンスは、1989年に導入開始した。その後、オンラインで契約を締結するユーザーは増加し、現在では5万5185台(2016年5月末現在)のボイラをオンラインにより保守管理している。保守契約の信頼性が向上し、有償メンテナンス保守契約の契約率が向上した。

オンラインでボイラのメンテナンスを実施する目的としては、顧客の各製造工場では、ボイラは生産機械の重要な設備であり、ボイラがストップすれば、生産ラインは停止し、多大な損害が発生する。それを未然に防止するため、オンライン・メンテナンスにより、過去のトラブルに至った各データを基に、ビフォア・メンテナンスが実施できるよう、ボイラ本体に各センサーを搭載し、ボイラの各部品の劣化や各部の汚れなどでストップする前の情報をオンラインでデータを送信し、それを基にメンテナンスを実施することで、ボイラが完全にストップする前に、メンテナンス対応ができるようになっている。

図:異常対応体制
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図:転送システム
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図:月報通信フロー
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図:通信点検レポートの構成
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出典)三浦工業から提供

3 オンライン・メンテナンス導入による雇用への影響

日々の業務改善や効率化を実施することで、メンテナンス要員の1人当たりが対応できる仕事量は拡大しているが、それ以上に、オンライン・メンテナンスのユーザーが増え、オンライン・メンテナンス台数が増えているため、メンテナンス要因は毎年増加している。また、オンライン・メンテナンスを担当する社員の離職率も大幅に減少している。

ミウラオンラインメンテナンス通信台数推移
図:ミウラオンラインメンテナンス通信台数推移
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出典)三浦工業から提供

オンライン・メンテナンス導入前、メンテナンス要員は、各顧客の工場に設置しているボイラに緊急対応が必要となった場合、夜間・休日に関係なく、故障修理の対応を要求された。そのため、メンテナンス要員は、残業や休日出勤を行い、労働環境としては余り良い環境ではなかった。そのため、離職率も高かった。

オンライン・メンテナンス導入後は、計画的なメンテナンスが出来るようになり、労働環境は、以前と比べて大きく改善された。

こうしたビフォア・メンテナンスが、製造業の顧客に評価され、大手企業を中心に当社製品の購入が進んでいるため、当社全体でも雇用が増えている。

オンライン・メンテナンス導入の前と後の仕事内容の変化
図:オンライン・メンテナンス導入の前と後の仕事内容の変化
出典)三浦工業から提供

4 オンライン・メンテナンスのための研修制度

4-1 機種資格制度の導入
AI機能搭載製品については、本資格を持っていなければ点検やメンテナンスは出来ないとした。
技術研修を受講し、資格試験に合格しなければ資格は付与されない。

4-2 研修制度
ミウラグループでは毎年、全社員に、年1回以上の集合研修(本社にて)を実施している。
メンテナンス部門では、各メンテナンス経験年数に応じた技術研修を段階ごとに実施し、それぞれの年数に応じた技術力を身につけることを目的としている。
社内のメンテナンス技術資格なども設定し、それらの資格が給与に反映される仕組みになっている。
集合研修とは別に、各ボイラの機種ごとに資格試験を設定し、それらに合格しないと、その機種の取り扱いが出来ない。

図:人を基軸とした経営を行う人材育成
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図:新入社員サポート制度
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2016年7月21日掲載

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