IoT, AI等デジタル化の経済学

第16回「富を独占する一部の成功者;オープン・プラットフォーム企業」

岩本 晃一
上席研究員

1995年は日本のインターネット元年と呼ばれているが、それ以降の、同分野での日本企業の戦いぶりを簡単に振り返ってみたい。米国では95年以降設立されたベンチャーがインターネット市場の拡大とともに急成長した。たとえば、グーグル、アマゾン、ヤフー、フェイスブックなどである(図表1)。これら企業の全従業員が日本では信じられない高給を得ている。

図表1:米国IT企業各社の売上高及び従業員数
図表1:米国IT企業各社の売上高及び従業員数
出典)*) Statistica **) Geek Wire ***) Yahoo IR ****) Facebook HP Newsroom

一方、日本ではシャープや東芝のリストラが最近よく新聞に載っている(シャープ2016年5月7000人、東芝2016年4月1万4450人)が、少し前はパナソニックのリストラが新聞を騒がしていた(図表2)。

図表2:5年前より正社員を減らした500社ランキング(抜粋)
順位 会社名 5年前比正社員減少数(人) 正社員数(人)
1 パナソニック ▲130,502 254,084
2 NEC ▲43,476 98,882
3 ソニー ▲36,200 131,700
4 日立製作所 ▲23,076 336,670
5 富士通 ▲13,592 158,846
6 第一三共 ▲13,397 16,428
7 マブチモーター ▲12,897 25,354
8 パイオニア ▲9,642 19,404
9 ユニデンホールディングス ▲9,171 1,380
10 東京電力 ▲9,122 43,330
11 セイコーエプソン ▲8,058 69,878
12 アーク ▲5,304 3,272
13 東芝 ▲5,148 198,741
14 セイコーホールディングス ▲5,074 13,565
15 シャープ ▲4,903 49,096
出典)東洋経済2016年4月11日
*2014年12月〜2015年11月期決算)と5年前(2009年12月〜2010年11月期)の比較

統計で見ても、自動車に次いで裾野が広く雇用吸収力が大きかった電気機械のGDPは、1997年の20兆円をピークに最近では12兆円にまで急激に落ちている(図表7)。日本企業は、これら米国企業との戦いをほとんど諦めたように見える。

今、我々の身近には、携帯、スマホ、タブレット、パソコンなどの情報通信端末機器があるが、日本で使用されている機器、部品、ソフトなどは外国製が圧倒的に多い。たとえば、Intel、AMD、IBM、ARM Ltd、LG Electronics、PHILIPS、Acer、グーグル、Microsoftなどがある。(図表3)は、Androidが急激な伸びをしていることを示している。

図表3:AndroidおよびiOSの出荷数の推移
図表3:AndroidおよびiOSの出荷数の推移
出典)Internet Trends 2016-Code Conference, Mary Meeker, Kleiner Perkins Caufield Byers, June1, 2016
データ出所)モルガンスタンレー研究所

こういった外国のIT関連企業は、日本だけでなく世界中のユーザからマネーを受け取っている。彼らのビジネスモデルは、「オープン・プラットフォーム型」である(図表4)。

図表4:情報通信端末機器を使用する日本人ユーザが支払ったマネーの流れ
図表4:情報通信端末機器の日本人ユーザが支払ったマネーの流れ

IBM Institute for Business Valueが2015年11月に実施した調査「Redefining Boundaries」(70カ国以上、21産業分野、5247人のCXOsから回答、個別面談も実施)によれば、世界の経営トップの3/4は、今後のビジネスモデルは、「オープン・プラットフォーム」だと考えている(図表5)。しかも、最大の脅威は、他の業種からの新規参入者だとしている。

図表5:世界のCXOsが考えている今後のビジネスモデル
図表5:世界のCXOsが考えている今後のビジネスモデル
出典)Redefining Boundaries, IBM Institute for Business Value, November 2015

それでは、どのくらいのマネーが日本からこれら外国のIT企業に流出しているのだろうか。総務省家計調査に基づき、我が国の過去22年間の家計支出(名目)の推移(図表6)をみると、総支出が400.4万円から349.4万円に12.7%縮小するなかで、日本国民は、食料(-15.5%)、被服履物(-10.3%)、教養娯楽(-48.6%)などを切り詰め、保険医療費(+38%)と通信費(+91%)だけが増加している。なかでも通信費(情報通信端末機器費用を含む)の増加率は突出して大きい(図表6)。食費や衣服費を切りつめて通信費を払うという傾向は、特に若者に多い。

図表6:家計支出の推移
図表6:家計支出の推移
出典)総務省家計調査

1世帯当たり通信費14.9万円(2014年)のうち約1/4分が海外に流出しているとややひかえめに見積もって「仮定」するとしても、

総流出金額=7.5万円×1/4×4997万世帯(*)=1年間当たり18.6兆円
*H20年住宅・土地統計調査

となる。実際には、1人世帯の通信費はもう少し小さいだろう。また、企業や各機関が支払う通信費が加算される。いずれにしても、おおざっぱにいって、日本の国家税収の数割規模の金額が、これら外資IT企業に流れている。

このように、個人消費の最大拡大費目が海外に抜けていて、かつ国内にそのマネーが貫流していない。それは、ただでさえ弱い日本の個人消費が、更に弱くなっている要因の1つであり、景気回復の足かせとなっている。また、先進国において、いま個人間の経済格差が拡大しているが、その要因の1つでもある。すなわち、世界中の富が一部の者に独占されている。今年3月の訪独の際、こうした現象のことを、ドイツでは「デジタル・プロレタリアート」と呼ばれていると教えてもらった。

米国人は、この成功体験を踏まえ、次の第4次産業革命の時代でも、莫大な富を得ようと、ビジネスモデルに知恵を絞っている。巨大な投資により「オープン・プラットフォーム」を作り、一気に世界市場を独占しようという戦略である。

ドイツ人は、一部の米国人に搾取されることで、ドイツの若者が低賃金・不安定な雇用に陥らないよう、インダストリー4.0を国家規模で推し進め、競争力を強化しようと努力している。

我が国の製造業のGDP推移(図表7)をみると、1997年の約114兆円をピークに減少を続け、ここ数年は90兆円レベルである。2000年以降GDPが特に大きく落ちたのは「電気機械」である。グローバル競争の中で日本の製造業、特に「電気機械」の地位が低下しているのがはっきりとわかる。

図表7:業種別GDPの推移
図表7:業種別GDPの推移
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出典)内閣府「国民経済計算」

以上、述べたように、第4次産業革命は、日本にとって決してバラ色ではない。第4次産業革命は、日本以外の国にとっても、大きく飛躍するチャンスでもある。日本以外の国が、第4次産業革命の波に乗って大きく羽ばたくなかで、日本のみが現状維持を続けていれば、世界との格差は益々拡大するばかりである。

電機産業は、自動車産業に次ぐ、第2の雇用吸収力を持った裾野の広い産業である。だが、世界的なIT競争に遅れ、競争力を落とし、雇用吸収力を失ってきた。いまや崖っぷちに立っているといっても良い。

第4次産業革命は、絶好の投資分野であり、反転攻勢の絶好の機会である。第2のグーグル、ヤフー、インテル、フェイスブックを日本から生み出すくらいの覚悟と危機感を持って第4次産業革命に取り組まないと、日本は先進国間のグローバル競争から脱落するかもしれない。

2016年6月27日掲載

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