IoT, AI等デジタル化の経済学

第1回「サプライチェーン間のシステム結合は日本で進むか?」

岩本 晃一
上席研究員

実は、最近、悩ましい問題にぶつかっている。

ある大企業をA社としよう。A社は、資金力も技術力もあり、国際競争に勝ち抜かなければならないので、当然ながら、独力で、自社の工場にIoT/インダストリー4.0システムを導入するだろう。すると、その次のステップは、システムを導入した自社工場のシステム同士を接続する段階に進むと考えられる。

A社は、取引関係にあるサプライチェーン上の協力企業、グループ企業、系列企業にもIoT/インダストリー4.0の導入を勧め、そうした全てのシステムの接続を推し進めようとするだろう。

ドイツ人は、このように多くの工場のシステム同士を接続することを「水平統合(horizontal integration)」と呼んでいる。世界的には、複数のシステム同士を接続して1つのシステムにすることを「システム・オブ・システムズ(System of Systems)」と呼ばれている。両者の呼び名は違っているが、中身は同じである。(図表1)

図表1:水平統合(horizontal integration)
図表1:水平統合(horizontal integration)

そうすると、どのようなことができるようになるかというと、ネットに接続された全ての工場がバーチャル上あたかも「1つの工場」として、全体が1つのシステムとして稼働するため、単独では出来なかった数多くの新しい事が「自律的」かつ短時間で出来るようになり、全体が「最適化」されて「生産性」が大幅に向上する。もし1つ1つのシステムが単独で最適化を目指した場合、経済学で言う「合成の誤謬」のような現象が発生する可能性があるが、システム・オブ・システムズを形成して全体最適を目指せば、そのようなことは無くなる。

またたとえば、ある工場である取り組みをしたところ、良い結果が出たとする。それが瞬時に世界中の工場に伝達され、実践される。一部で実現された最適レベルに世界中の工場を瞬時に合わせることができる。(図表2)

図表2:「システム・オブ・システムズ」による全体最適
図表2:「システム・オブ・システムズ」による全体最適

この「システム・オブ・システムズ」を更に拡大していけば、次のようになる。すなわち、各自動車会社ごとのサプライチェーン・ネットワークのシステム同士が接続し、自動車業界の「システム・オブ・システムズ」が完成すれば、自動車業界全体で「全体最適化」が図られる。次に、各業界ごとのサプライチェーン・ネットワークのシステム同士が接続し、産業界の「システム・オブ・システムズ」が完成すれば、ドイツの産業界全体で「全体最適化」が図られる(図表3、図表4)。もしこれが実現すれば、ドイツ産業の競争力は世界最強のものとなろう。

図表3:ドイツ自動車業界の「システム・オブ・システムズ」によるドイツ自動車業界全体の最適化
図表3:ドイツ自動車業界の「システム・オブ・システムズ」によるドイツ自動車業界全体の最適化
図表4:ドイツ産業界の「システム・オブ・システムズ」によるドイツ産業界全体の最適化
図表4:ドイツ産業界の「システム・オブ・システムズ」によるドイツ産業界全体の最適化

では、日本はどうすればいいか? ここが最近、私が頭を悩ましている点である。

実は、最近、我が国で、サプライチェーン関係にある下請け中小企業が、親企業とネットワークで接続されることを拒否するケースが出てきていると噂に聞いている。その理由は、いま中小企業には、まだIoT/インダストリー4.0システムはほとんど導入されていないが、多くの中小企業でも顧客管理や在庫管理など事務部門のデータを管理するITシステムが導入されている。そのシステムを親企業のシステムと接続すれば、原価が丸裸にされてしまう。すなわち、これまで親企業には部品1個の製造コストが10円と説明していたが、実は7円であったことがばれてしまう。それに加えて、IoT/インダストリー4.0システムを導入し、それが親企業のIoT/インダストリー4.0システムと接続されれば、製造工程までもバレバレになってしまう。けれども、だからこそ、親企業にとっては、サプライチェーン全体のシステムをネットワークで接続し、全体最適を行うメリットがあるのではあるが。

もし、このような理由により、日本の中小企業にIoT/インダストリー4.0システムの導入が進まない事態となれば、どうしよう、日本の製造業はますます世界から取り残されてしまう、というのが大きな悩みなのである。

どなたか、私の悩みに答えて頂ける方はいませんか?

2016年2月4日更新

早速、ある読者の方から以下のようなコメントを頂きました。

1) 下請事業者(わたしの仕事柄の表現です)の心配するのは原価が知られることによる下請代金の買いたたきではないでしょうか。再生産が可能な利潤を含む製造コストを10円と認めてくれる親事業者であれば、原価の7円を知られるおそれはそれほどのことではないと考えます。ただし、現在日本の親企業のコンプライアンス意識がどれほどのものかの方が心配です。

2) 製造工程がバレバレになってしまうことについては、わたしの専門外となりますが、知的財産権や特許による保護が必要かと思われます。

2016年2月10日更新

2016年2月4日掲載