安全保障例外とWTO改革

執筆者 中富 道隆(コンサルティングフェロー)
発行日/NO. 2024年2月  24-P-002
研究プロジェクト 世界経済の構造変化と日本経済:企業と政府の対応
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概要

本稿は、安全保障観点からの様々な貿易関連措置が導入される中で、WTOにおける安全保障例外の位置付けと運用実態、望まれる対応について論じるものである。
安全保障例外措置と自由貿易とのバランスの維持には、WTOの立法機能の回復、モニタリング・監視機能の強化、紛争処理機能の早期回復が不可欠である。
安全保障例外措置の拡大は、WTOの立法機能の低迷が大きな原因であり、JSI((JOINT STATEMENT INITIATIVE))等での成果を実現するとともに、貿易救済措置等今後の交渉課題を明確化することが重要である。
また、TBT協定等に基づくWTO委員会での特定貿易関心事項(STC)の対話は有効に機能し紛争解決にも効果的であり、安全保障例外措置にも活用が期待される。安全保障委員会の新設も検討課題である。
紛争処理機能の回復に関しては、安全保障例外の濫用とブラックボックス化加速を防ぐためには、その政治的性格を踏まえ、判断権者問題に関する米国の立場を考慮した対応が不可欠であり、ノンバイオレーションを理由とした補償措置導入の検討等も必要であろう。安全保障例外に係る紛争では、敗訴国が空上訴を濫発する可能性が高いが、これはWTOの紛争処理機能を一層空洞化させるものであり、WTOの紛争処理全般について、拘束力ある1審制を導入する選択肢も検討すべきである。

※本稿の英語版ポリシー・ディスカッション・ペーパー:24-P-003