男女の賃金情報開示施策:女性活躍推進法に基づく男女の賃金差異の算出・公表に関する論点整理

執筆者 原 ひろみ(明治大学)
発行日/NO. 2023年7月  23-P-009
研究プロジェクト 日本の労働市場に関する実証研究
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概要

2000年代以降、男女間賃金格差縮小のために男女の賃金情報開示施策 (gender wage/pay transparency policy) が各国で採用されているが、日本でも2022年7月の女性活躍推進法の厚生労働省令改正によって導入されたところである。本稿では、この施策に関連する分析ならびに論点整理を行った。

まず、政府統計の調査票情報を特別集計し、厚生労働省が定める計算方法で算出する「男女の賃金差異」の平均等の統計情報を提供するとともに、各社が自社の男女の賃金差異を公表する際の分析材料を提供するために、それと相関する職場属性を探る回帰分析を行った。その結果、全ての労働者の男女の賃金差異は、実労働時間と勤続年数の男女差、事業所の女性割合、女性労働者に占める非正規割合、管理職に占める女性割合と相関関係のあることが示された。

さらに、諸外国の男女の賃金情報開示施策に関する先行研究のサーベイから、人的資本の男女差をコントロールしたうえで男女間賃金格差縮小効果が観察された国が複数存在することを紹介した。そして、人的資本の男女差では説明できない男女間賃金格差を計測し、2021年の中位値で観察される格差は27.3%であるが、その半分以上にあたる54.2%が説明できない格差であることが示された。日本には説明できない男女間賃金格差がいまだに存在するが、諸外国の経験を鑑みると、この施策によって格差縮小につながることが現時点では期待される。しかし、将来的には、日本のデータを用いた本施策の効果検証が必要であることは言うまでもない。