執筆者 | 小林 慶一郎(ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2022年3月 22-P-003 |
研究プロジェクト | 経済成長に向けた総合的分析:マクロ経済政策と政治思想的アプローチ |
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概要
本稿では、日本の不良債権処理が約15年にわたって長引いた要因を検討し、デット・オーバーハングの新しい理論について概要を解説する。
不良債権処理が先送りされた背景には、地価や株価の上昇への期待、「不良債権は不況の結果であって原因ではない」という1990年代当時の経済理解などがあった。ベースには、管轄的思考(縦割り思考)と倫理的不整合(国民は政策当局者ほどものを考えずに単純に反応するはずだというパターナリズム)があったと思われる。
不良債権問題を説明するデット・オーバーハングは「借り手のコミットメント欠如」がもたらす非効率とされることが多いが、本稿の理論では「貸し手のコミットメント欠如」が重要な要素となる。「貸し手のコミットメント欠如」は借り手の事業展開の意欲を低下させ、経済を低迷させる。不良債権処理によって債務残高が減少すれば、この問題は解消し、借り手と貸し手の双方の利得を増やすことできる。