執筆者 | 川瀬 剛志 (ファカルティフェロー) |
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発行日/NO. | 2020年2月 20-P-004 |
研究プロジェクト | 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第IV期) |
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概要
本件はGATT・WTO史上初めてGATT21条(安全保障例外)の解釈が示された事案である。ウクライナ危機(2014)に際して、ロシアは第三国向けのウクライナ発貨物の陸路(道路・鉄道)による同国の越境・通過を制限した。ウクライナはこれをGATT5条等に反すると主張して本件をWTO付託し、パネルはGATT21条によるロシアの正当化を認めた。他方、本件パネルは、GATT21条の下では例外を援用する加盟国の完全な自己判断により協定違反措置が正当化されるものではなく、その判断はパネルの客観的審査または誠実審査に服すると説示した。
本件では申立国のロシアおよび第三国参加の米国の二大軍事超大国がGATT21条の完全な自己判断性を強く主張したにもかかわらず、パネルがこれを退け、安全保障例外の濫用を防いだ。トランプ政権の誕生以降、安全保障目的と称する通商措置の導入が増加しており、貿易と安全保障の接近が関心を集めている。特に米国の1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ製品に対する追加関税のWTO紛争事案、加えて我が国が目下韓国とWTOで係争中のフッ化水素等輸出管理見直しについても、この GATT21条の解釈・適用が争点となるところ、本件パネルの判断が先例として重要な意味を持つ。