中国の地域イノベーションシステム:深センを中心とした技術、資金、人材の現状

執筆者 元橋 一之 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2018年5月  18-P-011
研究プロジェクト IoTの進展とイノベーションエコシステムに関する実証研究
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概要

中国における地域的なイノベーションの集積地として深センが注目を集めている。本稿においては、特許データとベンチャーキャピタル投資データを用いて、深センのイノベーションシステムの特徴を、北京、上海と比較しながら明らかにした。北京、上海と異なり深センにおいては大学や公的研究機関のプレゼンスが小さい。その一方で、HuaweiやZTEといった通信機器メーカー、最近ではTencentなどのIT企業が台頭してきており、民間企業が中心となったイノベーションシステムが出来上がっていることが特徴的である。
また、深セン市においては、南山区、特にその中でも国家級ハイテクゾーンが位置する「粤海街道」地区に研究開発ベンチャー企業が集中していることが分かった。これらのハイテクベンチャーはここ数年で急増しており、人材の供給源としては地元の大企業(特に地理的近接性が高いZTEなどのハイテク企業)が重要であることが分かった。
また、特許データにおける発明者の組織間移動の状況を見ると、ベンチャー企業における人材の流動性は主にローカルで回っているという結果を得た。従って、日本企業など外部からこの地域のイノベーションのダイナミズムを取り込むためには中に入り込むことが必要ということである。多くの企業がシリコンバレーで行っているようにCVCを現地において、ベンチャー企業とのネットワークを構築することが有効と思われる。

※本稿の英語版ポリシー・ディスカッション・ペーパー:18-P-012