【WTOパネル・上級委員会報告書解説⑰】ペルー-農産物輸入に対する追加課徴金(DS457)-可変関税制度およびWTO協定と地域貿易協定の関係に対する示唆-

執筆者 川瀬 剛志 (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2017年5月  17-P-016
研究プロジェクト 現代国際通商・投資システムの総合的研究(第III期)
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概要

本件はペルーが維持する一定の国際価格に連動して変動する価格帯に基づき農産物に課される追加課徴金につき、農業協定およびGATT違反が争われた案件である。パネル、上級委員会は既に先例において確立した可変輸入課徴金に関する協定解釈に基づき、問題の措置の協定違反を認定したが、本件判断は農業協定4条2項の政治的・経済的意義に明らかにし、我が国豚肉差額関税制度に対する重要な示唆を与えた。
しかしながら、本件はこの主たる実体的論点ではなく、むしろ本件の受理可能性にかかる議論において学界の耳目を集めている。被申立国のペルーは、申立国グアテマラとの間に締結されたFTAを理由として、問題の措置の維持にグアテマラが同意しており、本件のWTO付託が誠実則(good faith)に反する、同FTAにより両国間でWTO協定が一部改正されている、あるいは同FTAなどを勘案してWTO協定の関連条文を解釈すると問題の措置の維持が認められる、等の主張を展開した。結論としてパネル、上級委員会はFTAがWTO協定の解釈や改正に果たす役割を限定的に理解し、ペルーの主張を退けたが、本件は改めて地域経済統合協定とWTO協定との法的関係の調整に関する問題提起となる事案となった。