2008年金融危機下の銀行業に対するEU国家援助規制―欧州委員会による加盟国支援措置への対応を中心として―

執筆者 多田 英明  (東洋大学)
発行日/NO. 2011年4月  11-P-012
研究プロジェクト WTOに関する総合的研究
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概要

今般の金融危機により、EU(欧州連合)内の銀行は、経営破綻が相次ぐなど困難な状況に直面し、EU加盟各国は債務保証、資本注入等の救済措置の発動を余儀なくされた。しかしながら、金融機関への救済措置は、EU域内市場(Internal Market)における競争秩序維持の観点から、EU競争法の一部を構成する国家援助(state aid)規制の対象となる。このため、加盟国は自国金融機関に対する救済措置をフリーハンドで実施することはできず、救済措置の実施に先立ち欧州委員会への届出を行い、承認を得ることが求められる。欧州委員会は、今般の金融危機が深刻化する事態を受け、「銀行ガイドライン」をはじめとする4本のガイドラインを策定し、加盟国による救済措置を従来の枠組よりも迅速、かつ適切に審査・承認する体制を構築した。

欧州委員会の構築した体制は、急迫した金融危機の下であっても、加盟国による支援は目的達成のために必要最小限のものとし、かつ競争の歪曲を阻止・最小化するものとするという国家援助規制の基本原則を堅持するものとして評価できる。しかしながら、加盟国より届出のあった支援策(特定の銀行を対象とする個別支援策)のうち、1件の禁止事例と7件の条件付承認の事例を除いたすべての事例が無条件で承認されており、かつ承認された事例については、欧州委員会決定本文も簡潔なものとなっている。このため、欧州委員会がガイドラインに基づいてどのように域内市場との両立性を判断し、当該支援を承認したのかという事例の蓄積という点では、課題を残すものである。