新しいマクロ経済モデルの構築

執筆者 小林 慶一郎  (上席研究員)
発行日/NO. 2011年1月  11-P-007
研究プロジェクト 新しいマクロ経済モデルの構築および経済危機における政策のあり方
ダウンロード/関連リンク

概要

本稿では、金融システム(あるいは金融的摩擦)をマクロ経済モデルに入れるさまざまなアプローチについて整理し、新しいモデル化の手法を分析するとともに、今後の研究の方向性を展望する。

金融危機後の経済低迷の要因として、経済主体間のネットワーク構造の変質が重要な役割を果たしているのではないか、という問題意識のもとで経済モデルを考察するが、一方で、標準的なマクロ経済モデルの枠内ではネットワーク構造そのものは直接的に分析できないという制約がある。そのため、経済主体間のネットワークの変質を、経済主体間の「支払い活動」の機能不全と捉えなおして、モデルの構成とその分析を行った。

具体的には、運転資本の借り入れに担保制約を入れたモデルで、将来期待の変化が現時点の景気変動を引き起こすNews-Driven Cycleが発生することを発見した。また、同じく運転資本の借り入れに制約を置くモデルで、企業の債務レベルに応じて定常状態が無数に存在する場合があることを示し、ケインズ的な経済の長期的不確実性を理論化することを試みた。さらに、Lagos-Wright型の貨幣理論を銀行信用に応用した研究や、Diamond-Rajan型の銀行取り付けモデルをマクロ経済モデルに埋め込む研究について、その意義と可能性を展望する。