途上国の貧困削減における政府開発援助の役割

執筆者 澤田 康幸  (ファカルティフェロー) /戸堂 康之  (ファカルティフェロー)
発行日/NO. 2010年12月  10-P-021
研究プロジェクト 開発援助の先端研究
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概要

本稿では、RIETIプロジェクト「開発援助の経済学」研究会の成果を踏まえ、政府開発援助と経済成長・貧困削減の関係についての研究を概観し、今後の展望を行う。途上国への国際的な資金の流入については、一般に経済発展に伴ってODA(政府開発援助)から FDI(直接投資)や銀行貸付の増加へとシフトする傾向がみられる。たとえば、依然ODAが大きな比重を占めている南アジア地域でも、1980年初頭のインドの経済自由化以降は銀行貸付やFDI・株式投資が増加している。こうした大局的な国際資金移動の観点から、本稿においては、ODAが貧困削減を達成するために必要と考えられる、3つの必要条件について論ずる。第1の条件は、ドナー側の意思決定の問題として、相対的に発展した国ではなく、貧困が重要な課題となっている国々に対して援助が割り振られているということだ。2つ目は、直接にであれ間接的にであれ、ODAが受益国の経済成長を促進する有効なメカニズムを持っていなければならないことである。そうすることによって経済成長を通じた貧困削減が達成されうる。3つ目は、ODAという国際資本移動において、それにかかわる取引費用が適正な水準に抑えられていることである。そうしなければODAの効率性は妨げられてしまう。特に第2の観点に関しては、既存の実証研究において、FDIや国際貿易の経済成長促進効果を支持する研究が多い一方、開発援助が経済成長を促進する効果は明確には見出せないという見方が主流になっている。ただし、われわれの研究会の成果によれば、第2の必要条件に関連して、譲許的借款の経済成長促進効果や技術協力援助の生産性改善効果がみられる一方、第3の必要条件については援助氾濫が成長の制約となることが実証的に支持されており、東アジア諸国とサブサハラアフリカ諸国における政府開発援助効果の違いがこれらの要因から説明できる可能性がある。さらに、第2の必要条件については、日本の開発援助には日本からのFDIを促すという「バンガード(先兵)効果」が見出されている。これらの研究の成果は、援助、FDI、貿易が三位一体となった日本の経済協力、いわゆる「ジャパン・ODAモデル」を実証的に支持するものである。本稿では、これらのモデル・仮説のみならず、3つの必要条件に関わるさまざまなエビデンスを、既存研究に基づきながらまとめている。