無形資産の計測と経済効果-マクロ・産業・企業レベルでの分析-

執筆者 宮川 努  (ファカルティフェロー) /金 榮愨  (専修大学)
発行日/NO. 2010年11月  10-P-014
研究プロジェクト 日本における無形資産の研究
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概要

本稿では、無形資産に関する研究をマクロ、産業、ミクロの側面にわたって紹介し、その政策的含意を検討する。マクロレベルでは、日本の無形資産投資が1990年代後半以降伸び悩んでいる。90年代後半以降は、IT革命に対応した組織変革や人材育成が無形資産投資の主流となり、米国ではこうした投資が、研究開発に頼ることができないサービス業の生産性向上に大きな役割を果たしたと考えられるが、日本では逆にこうした分野での投資は活性化していない。この無形資産の経済成長への寄与を成長会計で見ると、その寄与率は、80年代後半以降徐々に低下している。

こうした1990年代後半以降の日本における無形資産蓄積の頭打ち傾向は、産業レベルでの動向を見るとより鮮明になる。機械産業は、1995年以降多くの産業で無形資産蓄積が増加しているのに対し、サービス業ではほとんどの産業で無形資産蓄積率が減少している。こうしたサービス産業における無形資産蓄積の伸び悩みが、経済全体において無形資産が労働生産性を向上させる効果を弱めている。

ミクロの企業レベルでも、マイクロソフト社のようなIT革命とともに成長した企業では、無形資産蓄積が企業成長に大きな役割を果たしており、それは企業価値にも影響している。このため、組織改革や人材育成など無形資産の中でもより計測がしにくい項目をインタビュー調査で補完していく研究が進んでいる。

無形資産への注目は、産業構造の変化により、従来短期的とみなされた支出が、長期的にも経済効果を有すると認識されてきたことに起因する。こうした認識が広まれば、政府の景気対策としての公共投資の概念も変化する。すなわち有形資産を対象とした従来型の公共投資だけでなく、研究開発投資や人材投資への支援も公共投資の範疇に入ることになるのである。また、ミクロレベルでも無形資産が正確に評価されることは、新規企業に対するより正確な企業価値評価につながり、これらの企業の資金調達を行いやすくする効果を持つ。こうしたことから、マクロ、産業、企業の各レベルにおいて無形資産を計測していく試みが、今後とも続けられていく必要がある。