| 執筆者 | 近藤 恵介(上席研究員)/大久保 敏弘(ファカルティフェロー) |
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| 研究プロジェクト | 日本経済の活性化と地方・都市の創生 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
特定研究(第六期:2024〜2028年度)
「日本経済の活性化と地方・都市の創生」プロジェクト
1.研究目的
本研究は、東京において都市計画が建物の高さ、すなわち垂直的都市化とどのように関連しているのかを明らかにすることを目的とする。従来の都市経済学では、密度は人口密度や就業者密度のように、主に二次元的な概念として扱われてきた。しかし、現代の大都市では、都市は外側に広がるだけでなく、高層マンション、オフィスビル、複合施設などを通じて上方にも発展している。したがって、都市の密度を理解するには、水平的な広がりだけでなく、建物の高さに表れる垂直的な都市構造を捉える必要がある。
本研究では、特に用途地域と容積率に注目する。図1に示すように、日本の都市計画制度では、住宅系、商業系、工業系などの用途地域が決められ、建築基準法と合わせて建てられる建物の用途や規模が規制されている。また、容積率は敷地面積に対して建築可能な延床面積を定める制度であり、都市の密度や建物の高さと深く関係する。東京では、戦前の高さ規制から戦後の容積率規制へと制度が移行しており、本研究はその長期的な影響を実証的に検討する。
2.データ
本研究の特徴は、国土交通省が整備する3D都市モデル「PLATEAU」を用いて、建物の高さを建物単位で直接計測している点にある。PLATEAUは、建物の高さ、形状、位置などを含む三次元情報を提供しており、都市の垂直的発展を分析できる。
図2は、用途地域別のポリゴン内に立地する住居系建物の高さを独自に集計し、90パーセンタイル点の建物の高さを地図上に可視化している。千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、渋谷区、豊島区の都心・副都心エリアを中心に高層住宅が見られる一方、東京西部の郊外では低層住宅が見られる。図 3は用途地域別の内訳を示しており、第一種・第二種低層住居専用地域では原則10メートルまたは12メートルの絶対高さ制限を反映しており、近隣商業地域・商業地域では容積率により建物の高さが決まるが千代田区、中央区、港区の都心3区では特に高層住宅が際立っている。
3.分析方法
本研究では、容積率と建物の高さの関係を分析するために、OLSと分位点回帰を用いる。OLSは、容積率が建物の高さの平均値とどのように関係しているかを捉える方法である。一方、分位点回帰は、任意の分位点に位置するような高層建物において、容積率との関係がどのように異なるかを分析できる。垂直的都市化は平均的な建物の高さだけでなく、高層建物によっても特徴づけられるため、分位点回帰は本研究に適した方法である。
4.結果
分析の結果、容積率は住宅系建物と商業系建物の双方において、建物の高さと正の関係を持つことが分かった。ただし、その関係の強さは用途地域によって異なる。住宅系建物では、低層住居専用地域における容積率の係数は小さい一方、近隣商業地域・商業地域では大きい。これは、低層住宅地では制度的に高層化が制限されている一方、商業系用途地域では容積率が建物の高さとより強く結びついていることを示している。
また、分位点回帰の結果から、容積率と建物の高さの関係は、建物の高さの上位部分でより強いことが明らかになった。住宅系・商業系建物のいずれにおいても、90パーセンタイルでは容積率の係数が大きくなり、容積率は平均的な建物よりも高層建物と強く関連している。
さらに、東京駅からの距離を用いた分析から、東京では垂直的都市化と水平的都市化が共存していることが示された。都心部や都心近接地域では建物が高く、密度が高層化によって吸収されている一方、郊外では建物の高さが相対的に低く、水平的な都市発展が維持されている。
5.政策的含意
本研究の結果は、都市政策に対して重要な示唆を持つ。第一に、都市の密度を考える際には、人口密度や就業者密度だけでなく、建物の高さを含む垂直的な都市構造を把握する必要がある。第二に、容積率は建物を一様に高くするものではなく、高層建築の需要が高い地区において容積率上限に近づくような建物の供給がなされている。第三に、一戸建て住宅を主とする住宅系用途地域の指定は、良好な住環境を守る一方、潜在的な住宅需要を垂直的発展で吸収しきれず、過度な水平的都市化を促した可能性も示唆される。過度な水平的都市化の弊害は、長距離・長時間通勤となって一部の住民が負担することになる。
以上より、本研究は、東京の都市構造を「どこまで外側に広がったか」だけでなく、「どこで、どのような制度条件のもとで上方に発展したか」という視点から捉える必要性を示している。人口減少時代の都市政策では、用途地域や容積率を通じて、どの地域でどの程度の垂直的集約を促し、どの地域で低層環境を維持するのかを人口動態に応じて戦略的に設計することが重要である。