執筆者 | 近藤 恵介(上席研究員)/大久保 敏弘(ファカルティフェロー) |
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研究プロジェクト | 地方創生のためのエビデンスに基づく政策形成 |
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このノンテクニカルサマリーは、分析結果を踏まえつつ、政策的含意を中心に大胆に記述したもので、DP・PDPの一部分ではありません。分析内容の詳細はDP・PDP本文をお読みください。また、ここに述べられている見解は執筆者個人の責任で発表するものであり、所属する組織および(独)経済産業研究所としての見解を示すものではありません。
地域経済プログラム(第六期:2024〜2028年度)
「地方創生のためのエビデンスに基づく政策形成」プロジェクト
1. はじめに
新型コロナウイルス感染症の流行により、政府は多くの課題に直面した。特に、新興感染症の初期対策として、 外出・接触制限等の公衆衛生対策が有効であると言われている一方で、同時に大きな経済的停滞を引き起こしてしまう。一部のサービス産業は、「需要と供給の時間的・空間的同時性」の制約を強く受けるため、対面での経済活動が必須となる。感染症の直接的な影響だけでなく、その対策が引き起こす経済的な負の影響も避けられないのが現状である。
本研究では、今後起こりうる新興感染症への政策的対応に備えるため、サービス産業の事業所データと人流データを接続することで、感染症が及ぼしうる経済的影響の経路を明らかにすることを目的とする。
2. データ
本研究では、「特定サービス産業動態統計調査」(経済産業省)の調査票情報を統計法のもとで二次利用する。対象業種は、ゴルフ場、ゴルフ練習場、ボウリング場、遊園地・テーマパークとなる。対象期間は2019年1月から2021年12月までの月次データを利用する。主な毎月の調査事項は、月末従業者数、月間利用者数または入場者数、業務種類別売上高等が含まれる。
人流データは、「全国の人流オープンデータ(1kmメッシュ)」(国土交通省)を利用する。国土交通省が無償で公開するオープンビッグデータであり、1km × 1km メッシュに基づく滞在人口の月次データとなる。対象期間は、2019年1月から2021年12月までで、滞在人口は、Agoop社のスマートフォンアプリに基づき、換算人口値を算出する。換算人口値は、1か月間における1日あたりの平均値を表す。
3. 分析方法
本研究では、新型コロナウイルス感染症が業績に与えた影響を検証するため、新型コロナウイルス感染症の流行前と流行期中で期間を分割し、回帰分析の結果の比較を行う。また新型コロナウイルス感染症の新規感染者の増減による直接的な影響についても検証する。具体的には、従属変数に売上等の変数、説明変数に周辺滞在人口の変数および新規感染者数を用いた誘導モデルの固定効果推定によって、検証する。
4. 分析結果と政策的含意
分析結果の一部を下図に示す。4つの産業に共通して、新型コロナウイルス感染症の新規感染者は、1%水準(一部は10%水準)にて統計的に有意な影響を持っていることがわかった。つまり、新規感染者数が増加すると、売上等の業績が悪化することになる。例えば、ゴルフ場産業の場合、立地先都道府県の感染者数が2倍になると、約6パーセントだけ平日利用料金収入が減少するという結果であった。 また、図(a)より、ゴルフ場では、コロナ禍では平日の周辺滞在人口が売上高に与える影響が統計的に有意ではなくなっており、人々のレジャー活動における行動変容の可能性が示唆される。図(c)のボウリング場、図(d)の遊園地・テーマパークより、平日よりは休日における周辺滞在人口が業績に関係していることがわかった。新型コロナウイルス感染症の以前から共通して観測されていることも明らかになった。休日の人出に影響を与えるような政策介入や出来事が生じることで、当該産業の業績は大きな波を示す可能性が示唆される。

5. 議論
本研究は、感染症対策と経済活動を両立させるための必要な根拠を提供する。企業業績を維持するためには、感染症初期において短期的に強力な公衆衛生対策を実施し、感染を抑えこむことが重要である。これは、新規感染者が長期にわたって業績を直接的に低下させ続けるためである。短期的な視点と長期的な視点の両方から、感染対策と経済活動のバランスを保つことが重要である。
6. 研究の限界の今後の課題
金銭的補償と合わせて早期の段階で短期的に感染症対策を完了することが、長期的な経済的損失を回避する最適な手段だと考えられるが、休業や営業時間の短縮要請に対する金銭的補償について、具体的な金額についても本来は議論できることが望ましく、今後の課題として残されている。